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プロローグ

拍手喝采がかの者を称える。歓声響き渡るこの劇場の真ん中には不敵な笑みを浮かべた仮面をつけた道化が彼らに感謝の意を捧ぐ。何者をも魅了する衣装に身を包み、見る者全てに魔法をかけ、至高の感動を与える。これは喜劇だ。必ず誰もが幸せになる。そんな現実的な夢物語。しかし、君たちは想像できるだろうか。仮面の下に隠されたかの者の本当の姿を。血の滲む研鑽と努力の傷跡を。長きにわたる経験の末に幾度となく崩壊と修復を繰り返し、鋼の如く強靭となったかの者の魂を。演者はそれを巧妙に隠す。いや、むしろそれらは彼らのエンターテイメントが語っているのかもしれない。そうしてステージから演者が退場しようとした時、ある一つ声が木霊する。


???「僕もあなたみたいになりたい!」


声を発したのはまだ年端も行かないような少年だった。観客席からの歓声が一斉に笑い声に変わった。子どもの可愛らしい戯言だ。絶対無理に決まっている。そんなことを思ったのだろうか。そんな中でも彼の瞳の中の輝きは一心に道化に注がれていた。すると、道化は少年のもとへ歩み寄ってくる。


道化「そうかそうか。少年よ、君は私みたいになりたいのか。」


少年は首を何度も縦に振る。それが今まさに彼の中での流行なのだ。追いかけたいという衝動が抑えられない。この気持ちをどこにぶつければいいなど考えるまでもなかったのだ。すると、道化は少年に向かって手を差し伸べる。その瞬間、世界から音が消え去った。会場の誰もが彼らに釘付けになる。周りに人は沢山いるはずなのに、この音のない世界には少年と道化の二人だけ。少しずつ天井のガラス窓から降り注ぐ日の光がスポットライトのように彼らに照らす。気づけばこの場所全体がすでに舞台へと姿を変えていた。すると、道化は少年に呼びかける。


道化「ならば、少年よ!常に人々の笑顔を絶やすな。君の母親だろうと友達だろうと知らない誰かでもいい。彼らを笑顔にしてみたまえ!それだけで君はもう一人前だ!」


道化は少年を演者に仕立て上げてしまったのだ。少年はすでに与えられたシナリオ通りにを演じるだけ。リアルさえも利用した喜劇の完成であった。少年はそのピースの一つでしかなり得ない。しかし、それでも少年はこの道化の虜になってしまった。自分さえも利用した彼のことを。彼のようにステージに立ち、人を喜ばせ、リアルさえも喜劇にしてしまう姿を未来の自分に重ねたのだ。

会場は再び拍手喝采に包まれる。彼らもまたこれが喜劇であることを知らない。しかし、作られた喜劇でも今この場所で繰り広げられているのは予測不可能のリアルなのだ。

そこには必ず意思が、意味がある。


観客は祝う、新たな物語の始まりを。


少年は旅立つ、未知の世界へ。


その道化は歓迎する。


さぁ、おいで


〜カーテンコールが君を呼ぶ〜

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