第2話 フェンリルとドラゴンとヴァンパイア
新たに冒険者パーティー【最果ての夢】を結成した俺は早速依頼内容に目を通す。
「ロイド様、この依頼Aランクの物ですよ?」
「問題無いぞ、Zランクだとしても実力さえあればAランクの依頼を受けられるし成功させればAランクに一気に格上げされるからな。」
「なるほど、わたし達の様な者でも優遇されるシステムのようだな。」
「それで、この内容ですが先に受けてる方々が居ますね。」
依頼書には依頼受注中の名前の欄に“王宮の勅命”のパーティー名が記されていた。
「どうする? 国王が先に依頼を受けているようだが?」
「凄い難しそうな依頼ですし、どうしましょうか……フェンリルの討伐及び奴隷商の護衛に“ホラアナ洞窟”のダンジョン近くに居る筈の無いドラゴンの目撃情報までヤバそうな雰囲気てんこ盛りですよロイド様?」
「ミザリーは俺がこの程度の依頼をこなせないとでも?」
「まさか、ロイド様なら数分で終わらせられますよ。」
「当然だろう、わたしの剣を折る程の首の硬さをしているのだものの数分もかかるとは思えん。」
「じゃ、王宮の勅命のメンバーがこの高難易度の依頼を成し遂げられるか高みの見物と行こうか。」
「「はい!!」」
ホラアナ洞窟では王宮の勅命のメンバーが道に迷い護衛する奴隷商と共に行動をしていた。
「本当に貴方の描いた地図合ってますの!?」
「んだよ疑ってんのか?」
「オレも流石に道に迷うとは思って無かったぜ。」
「全く、奴隷商を待たせておるのだ早く道を記さんか!!」
岩に腰かける四人はホラアナ洞窟の地図を見ながら依頼主の奴隷商ガリアン・ドレークと行動し、その付き人にはキャンベラ・フリードと言う名の褐色肌で白い髪をポニーテールにした紅い眼で豊満な胸部をした魔法が得意そうなダークエルフが様子を伺っていた。
「あのー、まだかかりそうですかね? 明日までには商品の吸血鬼の娘をアサイラム王国へ出品しないといけないのですが……」
荷馬車の中には白く長い髪で紅い眼をした奴隷の少女が震えていた。
「大丈夫よ、もう少しの辛抱だから……怖くないからね……」
「うん……」
「キャンベラ! 貴様また商品に話しかけるんじゃねえ!!」
「キャンベラ!!」
「ぐっ!」
吸血鬼の少女を心配し優しく語りかけるキャンベラに対してガリアンは激怒し鞭でしばきあげる。
「ふん! 女だからって調子に乗るなよダークエルフ風情が、人間様を舐めるんじゃねえぞ? ところで国王様、まだ時間かかりそうですかな?」
「分かってるよ、明日までには着くから安心しな! あの一番右の道を行けばアサイラム王国の外道へ出れるぜ!」
「本当かあ?」
「フェンリルとかと鉢合わせなんてゴメン被りますわよ?」
「何を怖気づいておる、ワシらは世界最強の冒険者パーティーなのじゃぞ? フェンリル如きに遅れは取らぬわ!!」
「では行きましょうか、キャンベラ早くしろ!」
「はい、ガリアン様。」
キャンベラは荷馬車を引き王宮の勅命のメンバーは先頭を歩きしばらくすると霧が立ち込め周囲を警戒する。
「あの、どうされ……ひっ!?」
「この影、大きさ……間違いないフェンリルだ!!」
「心配いりませんわ、わたくし達にとってはスライムと大差無い雑魚モンスターでしてよ。」
「そうそう、オレの剣の錆にしてやるよ。」
「それは頼もしい。」
「ではワシの魔法をくらわせてやろうではないか、くらうが良い! これが国一つ焦土と化す程の火力を誇るファイヤーボールじゃ!!」
バンデルは杖の先端をフェンリルに向けファイヤーボールを放とうとするがポフンと煙が出るだけで何も起きない。
「な、何故じゃ!? ワシは無詠唱で魔法を唱えられる筈じゃぞ!?」
「あーなるほど、こういうことですわね。」
「なんじゃルビア、どういうことか分かるのか?」
「簡単なことですわ、この洞窟では魔法が使えなくなる制限がかかっているとしたらどうでしょう?」
「そうか! つまりワシとルビアは魔法が使えなくなておるということか!!」
「その通りですわ!」
「流石はオレの女だ、先見の眼は伊達じゃないな。 なら、ここはオレに任せな!!」
ルビアの考察は完全に間違っておりホラアナ洞窟で魔法が使えない訳では無くロイドの恩恵が無くなり、無詠唱で魔法が使えなくなっただけである。
『人間よ、我の眠りを邪魔する者は許さぬ……まだ寝起き故引き返し二度と来ぬと言うならば命までは取らぬ。』
「ケッ、畜生如きが説教かよ! このオレの光よりも早い一撃を受けてみろ!! 光速五月雨突き!!」
ライドの光速五月雨突きはフェンリルの硬く覆われた体毛に弾かれツンツンツンツンと音を鳴らすだけで全くダメージを与えられず終いには爪でピンと弾き飛ばされ鼻血を出す。
「ば、バカな! 光速五月雨突きが聞かないだと!?」
「に、逃げろおおおお!!」
「あっ、おい貴様置いてくでない!!」
「あんの荷物持ち、先に逃げやがったな!?」
「待ってくださいライド様ああああ!!」
王宮の勅命のメンバーは奴隷商を置き去りにし我先に出口へと走り去る。
「キャンベラ、今までありがとうよ」
「ガリアン……?」
「キャンベラ!?」
「は……?」
「最後くらい役に立ってくれよな! 命あっての商売だ、奴隷なんて幾らでも居る!! あばよ!!」
ガリアンはキャンベラの腹にナイフを刺し荷馬車を捨て王宮の勅命が逃げた先へと走り去る。
「うっ……」
「キャンベラ! キャンベラ!!」
「ぐぅ……」
(血が止まらない、こんな首輪が無ければ魔法で治せるのに……)
『人間と言うのはつくづく愚かな生き物よ、せめて苦しまずに逝くが良い! アイスニードル!!』
「キャンベラああああ!!」
(この娘だけでも救いたかった……)
無数の氷の棘がキャンベラに向かい放たれるが間一髪のところで全ての氷は一瞬にして溶けて無くなる。
(あれ? アタシ生きてるのか?)
「やれやれ、最低な奴等だ。」
「ロイド様、間に合いましたね!」
「わたしも手を貸そう、先程の奴隷商の行為見逃せん!!」
俺はミザリーとマーベルの三人で姿を消しながら王宮の勅命と奴隷商達のやりとりを見て状況を整理したうえでフェンリルの前に姿を現したのだ。
「お、お願い! キャンベラの怪我を治して!!」
「良く見ろ、既に回復魔法はかけてある。」
「へ?」
「痛くない、さっき鞭で打たれた箇所も消えない筈の傷痕も全部無くなってる!?」
そして後方からはズシンズシンと大きな足音を立て何者かが近付いて来る。
「ロイドさん、どうしましょう!!」
「か、囲まれたぞ! しかも後ろにはドラゴンだ!!」
『中々楽しそうなことをしておるのフェン、ウヌも混ぜよ。』
後方からは真っ赤な鱗に覆われたドラゴンが現れ、前方にはフェンリルで挟み打ち状態と化した。
「マズイね、アタシも力を貸すよ!!」
「待て、ここは俺一人で十分だ。」
俺はニッと笑うと武器も持たず2体相手して犠牲者を一人も出さない方法を思い付いた。
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追記、誤字や脱字などありましたら気軽にご指摘ください読み易い文章を心がけるつもりです。