春の日
学校をさぼった女の子の一日。
アラームがうるさい。
イライラしてスマホの画面を連打する。
体を起こし正面の壁を見る。……学校に行きたくない。
再びベッドに丸くなる。親は仕事へと向かった。誰にも責められない。
………よし。休もう。
スマホは見ない。学校に行ったみんなの投稿を見たら何とも言えない気持ちになりそうだから。
平日の十時。見慣れないワイドショーで子供に対するお悩み相談。誰かが偉そうに語ってるのを体育座りで見ている。
……結局他人なのに、親は子を自分の分身だと思ってる。
親に感謝しなきゃいけないのは分かってる。今日まで暴力を振るわれるわけでもない、怒って褒めて、ちゃんと育ててくれた。
今日は休んでいるが、別に学校で嫌な思いをしてるわけでもない。
なのに、閉塞感。高校卒業して、大学行って、地元で就職して、それで?
ずっと凡庸な人間関係の悩みを抱えながら愛想笑いして切り抜け、波風立てないように生きる。退屈だ。
でもそれをやめられるわけじゃない。退屈なのは世界じゃなくてきっと自分だ。膝におでこをつけてはくため息は、たぶんものすごく軽い。
泣くほどじゃない日々。笑うほどじゃない日々。
外に出ると、もう随分と暖かかった。
この時間の外は静かで、家の脇の大通りに車の通る音がするくらいだ。風が吹くと木々が揺れる音がする。
歩いて五分のコンビニでチキンを買う。ついでに小さいパックの紅茶。ストローお付けしますか?って初めて聞かれた気がする。
公園のベンチでチキンを食べていると、からから と荷台を引くホームレスが目の前を通り、一瞬ビクッとなった。絡まれたらどうしよう。そう思い視線を逸らしていると、私なんていないかのように通り過ぎていった。
ふと横を見ると、少しだけ離れた隣のベンチにそのホームレスは座った。
帰ろうかと思ったとき、彼は話し始めた。
「いい天気ですねぇ」
話して大丈夫なのか。少し怖くて言い淀んでいるのに、構わず彼は続けた。
「いい天気はいい日です。暖かくて、寝床を探す手間もない。また警察が来ちゃうかもしれないけど。」
そうやってふふっと笑った。本当に幸せそうに。
なぜか私の目には涙が込み上げた。自分でも分からなくて、首を傾げる。
彼はにこにこしたまま、立ち上がって荷台を引いてまた歩き出した。
何がしたかったのだろう。話相手が欲しかったのか。返答はしていないが。
誰もいない隣のベンチを見つめる。空を見上げる。
今日はいい日なのかもしれない。なぜかそう思えた。