沈む
怒りとむなしさの話。独白っぽい感じです。
ごま油をしいたフライパンに、もやしミックスの袋をひっくり返し、焼肉のタレ。
レンジで冷凍ご飯をあっためて、椅子だけキッチンに持ってきて、チューハイ缶を開ける。
ラップを皿がわりにご飯を食べる。焼肉という名の野菜炒めはフライパンからそのまま。
酒でも飲まないとやっていられない。
何かあったわけではないが、私にとっては "何か" あった日なのだ。
『若いっていいわよね』
この言葉が大嫌いだ。
日を超えるまでバイトをし、家に帰ってこんなメシを食らい、また朝から学校へ行く。
こんな日々に、何の羨ましさがあるのだろう。
こんなメシ、はこの上なく美味しいが。
ただの世間話、年寄りアピールという名の"そんなことないですよ" 待ち。適当に流せばいいのだろう。流すのが正解で、こんなことに感情を荒立てていたらキリがない。
分かっているのに、ムカムカとして箸が止まらない。
来た道を美化するのはいいが他人に押し付けるのはやめてくれ。最後に割り箸をシンクに叩きつけた。
こんな日は湯船につかる。
湯船につかると虚しくなる。怒りが鎮まると同時に。
静まり返った風呂場で天井を眺める。
あぁ、どうしてこんな偏屈になったのだろう。
昔は良かった、とは言いづらい人生を歩んできた。
それは環境というより、自分の性根の悪さなのだ。
環境のせいにできないことにも腹が立つ。しかし怒りはエネルギーだ。この怒りで生きている。
優しい人間になりたいと思ったのはいつだろう。それを馬鹿らしいと思ったのはいつだろう。
少しふらつく頭でぶくぶくと湯船に沈む。薄く目を開けると泡立つ自分の息。それが妙に綺麗で、水面越しに見える橙の光も美しく見えて。ずっと息を吐き続けると、だんだん苦しくなってくる。そうすると、耐えきれなくなって私の顔はお湯から出る。
たまにこうして、私の身体が生きたいと願うのを試してしまう。いつかこんなことをしなくても良くなる日がくるのだろうか。
人を思わず傷つけてしまう。性根の悪さを直したい。直して人に優しくすれば、都合のいいように使われる。
上手く生きようと思えば、上手く使われてしまう。
板挟み、板にはなれない。しかし、板同士の情報を出したり隠したり、そうしてその場の関係を維持することが、だいぶ癖になってしまった。身は削られるのに、支配欲は満たされる。
汚い感情、ヘドロみたいな生き方。
こんな日々が羨ましいなら、どうぞ変わって。
全て流してくれ と、また湯船に沈みこんだ。