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蛍の集い


千字小説3です。

今回はちゃんとストーリーです



黒紫の町には雨が降っていた



僕は傘を手にそっとドアを閉めた。

どうか親が起きませんように。


傘を差しかけた時、既に来てた海人が首を振り近づいてきた。


「せっかく冒険なのに。一緒にぬれようぜ」


服を濡せば親に怒られる。

そう言い返すと、海人は頬を膨らませた。


「どうせ夜に外出たら怒られるじゃん」


確かに、それはそうだ。

どうせなら雨にぬれて遊びたい。


だから僕はもう言い返さず、手を引かれるまま飛び出した。









夜道には誰一人いなかった。

ぽつぽつと光る街灯には虫が集まっている。


下を見ると、二匹の虫が死んでいた。

エサがあるわけでもないのに、なぜ光る所に集まるのだろう。








立入禁止のフェンスを海人は軽々越えた。

僕は怖かったけど、気合を入れてよじ登った。



「ちょっと待って」


海人はどんどん進む。


「はやく!」


海人は楽しそうに手まねきした。

僕は草を蹴飛ばし追いかけた。









海人に追いつくと、そこには小さな池があった。


その上を黄色みたいな、緑みたいな光がふわふわと漂っている。




僕らは何も言えずにいた。


吸い込まれるみたいに、二人でその景色を見ていた。










しばらくすると、海人がぽつりと話し始めた。


「俺さ、いろんなこと知りたいし、見てみたい。世界中旅して。


でもきっとできない」



海人は何でもできるすごいやつだ。だからその言葉に驚いた。


なんで と聞くと、海人は泣きそうな声で言った。


「高校はいかなくていいよねって、言われた。

中学入って卒業したら、働いて私を楽にしてって。


たぶん母さんのために働かなきゃいけない」


ぼろぼろとこぼれた海人の涙を見て、僕も涙が出た。



「僕も、僕は。親のために、ずっと勉強しなきゃいけない。

僕は医者になるんだって」





二人で涙が枯れるほど泣き続けた。






僕らは図書室で出会った。全然知らなかったのに、一度話し始めると止まらなかった。もっともっと話したくなった。



それはきっと、正反対で似た者同士だったからだ。

まだ見えないはずの将来は、もう誰かによって決められていた。



海人はこれから無人の家に帰る。それはいつものことで、家での食事は常に一人だ。


僕はこれからものすごく怒られる。それもいつものことで、家では勉強以外のことはできない。





でももう、どうでもよかった。

帰ったら怒鳴られ、もう遊べなくても。机にばかり向かう人生でも。




二人で声が出せなくなるほど綺麗な景色を見て、一緒に泣いたこの時間があっただけで。







僕はきっと、今日を思い出して生きていけると思った




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