まもったもの
「い、命だけはっ」
俺が蹴り飛ばせば男が喚く。
「テメェらバックは誰だ」
「しっ 下っ端にはそんな情報回ってこない!!! 」
男に同情を覚える。コイツと俺は同類だ。詳細も知らぬまま矢面に立たされる。明日には俺がコイツ側になってるだろう。
「じゃ、さよなら」
そんな憂いを消すように、男をまた蹴りつけた。
「何も情報ねぇだァ!?」
報告と同時に俺の体は吹っ飛ぶ。左頬が痛い。
「そんなら帰ってくんなや」
文句は言えない。先輩の言う事は絶対だ。
「あっちのガキ拐うぐらいしろって常に言ってんだろ
お前はこんなとこで終わる奴じゃない。分かれよ、これはチャンスだ」
辺りはもう明るくなっていた。歩くのもだるい。俺はシャッター街の隅で座り込んだ。
手詰まりだ。本当にガキを人質にするしかない。しかしそれはしたくない。絶対だ。
考えこんでいると、目の前に少年が立っていた。
「あ?」
声で威圧する。
しかし、少年は気にせずハンカチを取り出した。
「血出てるよ。はい、ハンカチ」
無言で睨むと、少年はハンカチを俺の顔に押し付けた。
「押さえないとメッ」
俺はされるがままにしていた。
「ハンカチ、ここに返しに来てね。これ僕のお気に入りなの」
そう言って、少年は走り去った。
しばらくして先輩から連絡が来た。
有益な情報をやる、と。
俺は仕方なくその場所へ向かった。
「来やがった」
声に反応し振り向くと、拳が頬に突き刺さった。顔を上げると、矢継ぎ早に拳が飛んでくる。待ち伏せされてたらしい。
「テメェうちのことコソコソ嗅ぎ回ってるみたいだなぁ?オイッ!!!」
痛みすら分からなくなる。俺の体が俺のものじゃなくなるみたいだった。
ここまでか。
手段は選べない。分かってた。
ガキは巻き込まない。そんな信条守ったって、自分の事守れなきゃ意味が無い。
でもダメだ。まともになれなかった大人は、何者でもない子供だった。何かを夢見て、何かを知り、何かを選ぶ、その前にいるような。
嵐のような暴力が過ぎ去ったあと、ふいにポケットを探る。中にはあのハンカチがあった。
あのシャッター街は縄張り争いの場だ。何度も来られちゃ困る。
最後の力を振り絞り地図を書き、足を引きずりシャッター街へ向かった。
「ここかなぁ」
少年は地図を手に公園を見回す。
「あっ!」
視線の先には、綺麗に畳まれたハンカチと何か書いてある汚い紙があった。
"直接渡せず申し訳ない
ありがとう 優しい君に助けられた"
少年は、その言葉を見てニコっと笑った。




