今日でコンプリート
水瀬は戸惑った。ここはどこだ。
水瀬は、知らない道をドライブすることを日々の楽しみとしていた。
今日もいつもは通らない道に車を走らせれば、いつの間にか舗装された道がなくなっていた。
昼間とは思えぬほど暗い森の中をひたすら前に走らせる。
標識や看板もない。しかし、木々の間は車一台半ほどのスペースがある。
きっと看板でも出てくるだろう。そんな能天気な考えは数分もすれば消えた。
車は徐々にスピードを落とし、ついには停止した。
ここがどこか、地図アプリでも開けば分かるかもしれない。そう思い助手席の鞄を漁る。
そこで気づく。今日は携帯を家に置いてきてしまったのだ。鞄の中身は免許書とティッシュくらいなものだ。ズボンのポケットを探ればハンカチといつのだか分からない飴があった。
ここがどこか知りたい。せめて何県なのかくらいは。
確かこの辺りは山が県境になっていたはずだ。
気の向くまま車を走らせている場合じゃなかった。
水瀬は一旦車から降りて、周りに見えるものを確認した。
しかしどこを見ても木、木、木。人どころか動物の気配すらない。
どうにか切り返して戻るか。バックで戻るか。
戻るにしても、どこまで行けば県境を越えていないと分かるだろう。
そこでふと気づく。そもそも、県境なら看板とか線があるのではないか。
そうだ、きっとこの車は県境を越えていない。そう思い込み車内に戻る。
――― ふと悪寒がした。
もし振り向いたら、恐ろしい現実が目に入ってしまうのではないか。
そう思っても、振り返らずにはいられない。
ゆっくりと首を回し、後部座席の方を見る
そこからは、生気のない目がこちらを見つめていた。
それを見て水瀬は安堵した。
水瀬はまた車から降りて、今度は後部座席のドアを開けた。
「もうここでいいか。マイレデイ」
女の子の頭を撫でると、水瀬はトランクからスコップを取り出し、いそいそと地面を掘り始めた。
そして、その女の子“だったもの”を穴へ投げ捨て、空いた穴をそのままに、上手く切り返し帰路へついた。
『次のニュースです。○○県にある山奥で、数日前から行方不明となっていた××さんの遺体が発見されました。死体遺棄の方法から、一連の殺人事件と同一犯であるとみられています』
そのニュースを見て、水瀬はニコニコを笑みを浮かべた。
微笑みをそのままに、水瀬は壁に貼ってある日本地図に、赤のペンで花丸を描いた。
「一時はどうなるかと思ったが、これで関東はコンプリートだ」