8話 七人の魔女を使いこなせ
◆マーナ(昼顔)
「何度も聞くが、貴様、小僧じゃ無かったってな。正直驚いたよ」
「女子が隊の指揮執っちゃイカン決まりは無いでしょう?」
「まぁな。だがそれにしてもガキすぎる。幾つだ?」
ハラ立つオヤジだ。そもそも手ぶらでやって来て、確認するものも、記録するものも持って無くて、いったいどうやって調書をまとめるんですかね?!
「13歳ですが?」
こないだ、ちょうどアンと出会った忘れもしない初陣の日に、オレは誕生日を迎えたんだ。はぁ? よく自分の誕生日を知ってるなって? 当然だろ、自分で決めたんだ。1年前、サントロヴィールの片隅に放り込まれた日、その日を誕生日にしたんだよ、悪いか? で、13歳ってのは、アンが自分の年齢を13歳だって言ってたから、それに合わせたわけだ。そうした方が彼女に親近感を持ってもらえるだろ?
「まさか生きて帰って来るとは思ってなかった。弱冠13歳で、少年兵部隊とはいえ、いっぱしの指揮を執り、複数人もの少年たちを無事生還させたってんだから大したタマだ。将来有望な将校候補だよな」
「……本心で言ってます? ならなんでオレ、営倉になんて入ってんだか」
「貴様という人間の優秀さと、犯した軍規違反の件は別物だ。つまり貴様は勝手に現場判断をし、作戦行動を変えて本来の任務をおろそかにした。ま、優秀であるが故にな」
そりゃオカシイぞ。だいたい作戦内容なんて一言も伝えられていなかったし、与えられた任務がどんなものだったのか、未だに知りませんよ? オッサンよ?
「局地的な戦果に目を眩ませ、大局的な作戦行動の妨げになってしまった事、猛省しております。以後、上官殿の言いつけを固く厳守する所存であります」
「おまえ。よくもそう心にもない言葉がスラスラと口から出てくるなぁ、まーいいが」
「上官殿!」
「オレはトリストン。名前で呼んでくれ」
「じゃあ、トリストン殿。実際の所お聞きしたい。オレたち少年兵部隊はどんな任務が与えられていたんですかね? オレはヤツらの最前線部隊の隊長の首を分捕ったんですが、それでお叱りを受けてんですから、まったく趣旨違いの任務を与えられてたって事になりますよね? オレ、バカだから理解出来てないんですがね」
オレから目を離した男は、立ち上がって既に4本目となる煙草に火をつけた。フーッと煙を吐き出してオレに向き直った。
「少年兵。オマエらの任務は蛮族への捧げものになる事。口減らしにより、京師サントロヴィールの食糧事情に僅かでも貢献する事。以上だ」
「…………」
「賢しらなオマエの事だ。そんなこたぁ、とっくに理解できてたろう?」
「…………まぁ」
だからこそ知恵を使って抗ったわけだが。……そうか、やっぱりか。
「京師サントロヴィールの人口は3万。対する北限の民、バルバル族兵団の総数は30万。帝都であるはずのサントロヴィールを援けるべき帝政ヘルムゲルト属下の都市はどこもかしこも兵団が機能せず。30万の敵に囲まれながら、3万の市民を生存させるのは容易では無いんだよ。そうなれば、役に立たない者から順番に役に立つようにお勤めを果たさなきゃ、ならんだろう?」
なるほど。
コイツ、子供に親切だな。とすると、これは警戒レベルをもっと上げとかなきゃ。親切なヤツほど危険だからな。
「するとなにか? バルバル族どもはいつでもサントロヴィールを制圧するだけの力を持っているんだな? ……ですね?」
「包囲して圧を掛けている方がバルバル族にとっては楽でオイシイんだよ。要は生き血を吸われてるって話だ。アタマでっかちで腕っぷしの弱い、サントロヴィール城市の末路だな」
そういうコトか。結論から言ってオレはかなりヤバい世界に送り込まれたんだと理解した。
「あの。……で、オレの……相棒の……」
「ん? あー! あの、ニセ少年兵か。いつの間にか軍籍に入ってやがった」
犯人はアンタの同僚だ。ひとりでも多くの生贄を確保したかったんだろう。リストに加えるよう書類を改ざんしてやがったぞ?
「アイツは……特別兵器だ。軍幹部が認めた」
「へ、兵器?」
オッサン、……さっき聞いたばかりだが名前忘れた――は、格子越しに顔を近付けた。
「オマエ、アイツの持ち主だろ? ……アイツ、【七人の魔女】じゃねーかと疑ってる」
「……魔女?」
「そうだ。……オマエ、オレと組め。あの子を動かせる事が出来ると言うのなら、直ぐにここから出してやる」
なんだと? アンタ、何様だ? 息が煙草クセぇよ?
「……無知の小娘をまた利用するのか?」
「ウインウインの取引だが、貴様が乗るか降りるかだ」
コイツ、悪人だな。だったら心変わりはしねぇか。悪人は己が欲望に対して行動がブレない。
オレからすれば、うまい話を持ち掛けられたときに、ホントかウソかを見破るだけで済むからな。
よし分かった。乗ってやろうじねーか。
「但し。もし上手く使いこなせなかったら」
「この話は無しと? 分かりましたよ」
アイツはオレの友だちだ。きっといい仕事ができるさ。