7話 懲罰房で夜のオレと会話
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メゲずに続けます。
◆マーナ(昼顔)
石を積み上げた外層に、野太い木枠を組み込ませた堅牢武骨な地下室。服務違反をした兵員を閉じ込める営倉だ。つまりは懲罰房、反省ルームだ。
ここに閉じ込められて、もうかれこれ丸2日経つ。本当いい加減にして欲しい。メシは美味いが量は少ないし、灯り取りが少ないのでいつも薄暗い。育ち盛りのはつらつ女子に心身ともに不健康な生活させやがって。
そう言えば、アンとも離れ離れのままだし。さて、どこでどうしているのやら。……心配要らんと思うがな。
「畜生。アンのおかげで活躍し過ぎた。若干失敗してりゃ、まだ可愛げがあったかもな」
――ところでオレはここに入れられてから、ある者とコミュニケーションを取っていた。前々から感じていた違和感の正体だ。それは夜のオレ。
最初は気のせいだろうと気にも留めなかったが、実は寝台横の壁にキズがつけてあった。【バカ、アホ】と読めた。そして【アンを助けろ】と、メッセージが追加されていた。
頭のいいオレは直ぐにピンときた。
「眠り病の影響だ」
恐らくオレ、昏睡中に寝惚けて無意識の行動をしてるんだなと理解。やはり、あのアンって女の子の仕業、アイツに何らかの呪いをかけられている。オレはそう確信した。
【アンを助けろ】のメッセージの横に【助かりたいのはオレ】と彫ってやった。
無論、嫌味だ。ここに入れられたのはアンのせいだろと僻みの念を込めつつ。まぁ暇つぶしだな。
……ところがだ、翌朝。
【アンのせいにするな。元々はわたしの身体をうばったオマエが悪い。バカ。アホ。】
などと、まるでオレのアタマの中を覗き見たような反論と罵りのメッセージ。
「な、なんてこった……」
……幾ら夢遊病でも、オレ、自分の悪口は死んでも書かん。だってオレ、自分が大好きでカワイイもの。よって、このノータリンなラクガキの主は、オレではない別の誰か。しかもオレの事を隅々まで知っている人物……ということになる。
「――と言う事は、犯人はオレか?」
ああ分かってる。
犯人はオレじゃない。だがオレだ。……そう、あの、イワユルあれだ、二重人格? とかいうやつ。大概にしろ、オレは自分の面倒をみるだけでいっぱいいっぱいなんだぜ?! そんなややこしい病気に罹って、ふたり分の心配をしろと? いったいどう乗り切れっていうんだ?!
イライラが募ったオレは、もう一人のオレにメッセージを書いた。半分腹いせのおふざけだ。
【オマエならどうする。人任せにするな。バカ。アホ。】
すると、翌日。
【早くアンに連絡を取れ。アンとあなたはふたりでひとり。グズグズするな。バカ。アホ。】
連絡を取れ、だと? バカか。いったいどうやって。
格子の外で陰が動いた。階級バッチをつけた軍服のオッサンだ。いかにも軽そうな。
「……またアンタか。毎日毎日、大変だな」
「そー言うな。こっちも仕事なんだ。いちおー調書を取らんと軍法会議にもかけられんし、処分も決められんのでな」
ハー。うっざ。
持参のイスに腰掛けた男は、胸のポケットから煙草を取り出し吸い始めた。煙クセーんだよ。なんだよ、その目は? 小馬鹿にしたような面しやがって。
「――さて。始めるか」