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4話 人形をテイムするのは生きるため


 オレは自分の身ほど大事な物は無いと思ってる。絶対に死にたくねぇ。しかもこんな最低最悪な連中にいいようにされた挙句に人生を終えるとは……。


 それによ。


 前世死んだ場所と同じ場所で死ぬことになるとは、何とも嫌味な事だよな。

 さっきの、人形に乗り移った亡霊がオレをこの場所に招き寄せたのかも知れねぇな。


 因果応報って言葉があるが、我欲を満たすために人殺しした報いを受けたって事なのかな。そう考えりゃ、そりゃ当然の結果なんだろーな。


「おや? コイツ、女だぜ?」

「なんだと、チッ。弱っちくてすぐに死にやがるじゃねーか。ならオレは要らないや」

「じゃあオレが。それはそれで使い道があるさ。ひひ」


 馴れ馴れしく触るなよ。クソヤロウ、気色悪いカオを近付けんな。……あー、でももう、声も出ねぇ。打ち所が悪かったのか、目もボンヤリする。なんてこった、ここで今回の人生はお終いか。


「ねえ。この人たち、敵なの?」

「……はぁ?」


 なんだぁ? これ走馬灯か?

 んなワケねーだろ。空気読めよアホ。コイツらとオレが仲良くしてるように見えるか?


「ねえ、敵?」

「敵だよ、悟れよ」


 ――すると。


 オレのまわりで信じられない事が起こった。


 人形だった女の子が生身の人間のように暴れ回り、大人たちを殴る蹴るしはじめた。はじめ茫然としていた連中は怒り狂って応戦開始。女の子に武器を振るいまくる。だがただの一打も当てることができずバタバタと倒されて行った。


 えー? ちょ、待て……! 殴られたオッサンら、死んでるぞ? 防具ごとボッコリ腹がくぼんでるぞ?! こっちは首が妙な方向に曲がってるぞ?! やりすぎのような気もするぞ。


「敵、敵、てっき。敵、てっき。これも敵」


 歌ってる。この人形っ子、淡々と人殺ししてる。楽しげにも見える。剣、棍棒をかわしカウンターで急所を衝く。矢を逸らし、銃弾を避ける。


「優等生! ボンヤリすんじゃねぇ! そこいらのガキ掴んで門に走れ!」


 元教会内はあの世送りの大乱舞パーティ会場になった。人形娘は飛び、跳ね、舞い、大人と言う大人を一切合切血祭りにあげた。子供たちに手を出さなかったのはオレがいちいち止めたためだ。いちいち「敵か味方か」聞かないと自身では見分けがつかないらしい。


「うわああ、や、やめてぇ」

「これは友だち? 敵?」


「チビっこいのは全員味方だ! デッカイのが敵だ」


 時間にすると数分も無かった。この場で息をしている大人は居なくなった。教会の外も同じく。血と肉塊のじゅうたんが広がるのみだった。



◆◆



「これは敵から奪い取った財貨です」


 内街の駐屯所に帰還し、執務官室で報告を終えたオレはのうのうと宿所に戻った。


「指揮官のヤツ、すごいカオしてやがったな」


 指揮を担当していたはずの上官は、オレの報告の間、部屋の隅でずっとうつむいていた。


 少年兵らを敵に売っていたなんて、裏ではともかく、表沙汰には出来っこない。

 今まで誰一人生還しなかったから問題が明るみにならなかっただけだ。それに売ってしまったはずの売り物が、その代金とともに帰ってきたので拳のあげようも無い。


「貴様らの指揮官は名誉の戦死を遂げた。そうだな?」

「……華々しい最期でございました」


 全ては戦死扱いされた指揮官様(実際は強制除隊させられた)の責任となり、オレらは口止めを約束させられたが、それ以上のご褒美もお咎めも無かった。


「ねえ。キミ、名前は?」

「マーナだ。オマエは?」

「アン」


「……アンね。オマエさ、いったいナニモノだ?」


 オレは同年代の子供に比べて背の低い方だが、コイツはさらに低い。人形だと思っていたが関節部分につなぎ目が見当たらない。昨日一晩の間に何らかの変化があったに違いない。


「ナニモノ? アンだよー。これでも女の子だよー? マーナ、これからよろしくね」

「オマエ……いや、アン。胸の所に板をぶら下げてたろう? あれのイミを教えろ」


「えぇ? ああ、『命を半分こ』? あれはそのままだよ。マーナとわたしは半分こ。片っぽが死ぬともう一人も死ぬ。片っぽが痛いと片っぽも痛い」


 な、なにを言ってる、コイツ?!


「だって? ……友だち、でしょ?」


 ――アンと名乗るガキに見詰められるとゾッと寒くなる。

 まだあどけない深緑の瞳の奥底に、身体ごと取り込まれそうになる。いったい何者だ、何者なんだコイツ!


「アン。お前、前に一度オレと……」


 会った事があると言いかけた。


 ん? ……とオレと正対するアン。彼女の手元に目が行った。昨夜の(おう)殺シーンが脳裏に蘇った。


 「敵々」歌うコイツの異常性が思い浮かんだ。オレも「敵」認定されれば、きっとためらいなく殺される。ふとそう感じた。


「いや。何でもない」


 オレはその日から奇妙な怯えと戦うことになった。


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