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3話 教会人形に悲鳴

夜間の投稿に変えます。(内容に配慮)


 目的地が教会と言っていたが、それは奴隷市場か処刑場の間違いだろう。天窓から覗いた光景は目をそむけたくなるものだった。


 つい先刻まで指揮官様の下で点呼していたガキどもが裸にひん剥かれて縄締めされ、多数の大人たちに品定めされている。


 新しい()()()()()()()()()なのだろう猛獣の毛氈を羽織った下品丸出しオヤジや防具をまとった傭兵くずれらしきヤツ、ずらずらと下人らを従えた農場主っぽいのまでいる。そいつらが続々、自分らのお眼鏡に適ったガキの腕をつかみ、どこかへと連れ去って行く。


 抵抗したガキらは命を取られて床に転がり、建物の隅で山積みになっている。ピーピー泣き叫ぶヤツも扱いは同じだ。()()()()()()()殴られ続ける。


 帝国は腐るところまで腐りきっていやがった。


 あぶれた子供たちは食糧を食い減らす足手まといでしかない。しかしまとめて金に換えればちょっとは社会に役立つだろう。そういう理論か。

 仮にも国家のため、志を熱くしていたガキらに祖国の大人らは裏切りと怨嗟しか与えてやらねぇのか。ガキらの嘆きはいかばかりか。連行された先に一体どんな運命が待ってるんだろうな。


「じゃあ、身体を張って助けてやるのか?」


 などと自問。

 否、ムリだ。行動するだけ無駄だ。オレはそんなにバカでも勇敢でもない。だいたい善人じゃない。誰が何と言おうと自分ファーストだ。自分が無事なら万事オーケーの自己チュー人間なんだ。


 外壁に張り付いて鎧戸を木枠ごと外し、屋根裏部屋に侵入した。かつては寝室や物置に使われていた空間だ。教会関係者の生活臭が残っている。


 階下に足音がバレないよう注意を払いながらあたりを物色した。ガキらを助けるために忍び込んだんじゃないぞ。金目の物が無いか見ている。そうさ、ドロボーさ。


 オレはふとある一点に目を止めた。額縁だ。高級そうな薄布を被っていたが少し角が露出していた。


 持ち運びが問題だが、大事にしまわれていたところを見ると、意外と高値で売れるかも知れない。布をめくると家族画が描かれていた。

 オレに絵心は無いが妙に引き付けられるものがあった。不思議に思い、凝視していて、オレはある事に気付き「ギョッ」とした。


「これは……この家族は……」


 タラタラ……と、額や首筋を伝う汗が冷たい。その絵に描かれた家族に、オレは会ったことがある! 口に手を当てる。眼が泳ぐ。


「なんだよこの絵! この教会……、オレここに来たことがある……!」


 前世。――盗賊時代。もう何年前なのか判らない。蘇る記憶の奥底。


 そうだ――ここは――この場所は――オレが死んだ場所――。まさに今オレのいる部屋。この部屋でオレは女魔法使いと戦い、相討ちになり、――そして死んだんだ……。


「ねえ」


 うおおっ! ――と漏れ出そうになった悲鳴を必死で抑えた。()()()()と眼が合った。


「だ、だれだ……?!」


 恐る恐る近づき正体を確認する。……と、精巧に作られた女の子の人形……だった。ビビった。話し掛けられた気がしたものだから。

 だがこの人形、ジッと観察しているうちに、背中に寒気を感じてゾクリと震えてきた。少年っぽいデニムのツナギの、胸のあたりにレリーフ板がぶら下げられている。


 文字のようだ。「読め」と言われているような心持ちがした。


「命を『半分こ』してください……」


 まったく意味不明。

 だがオレはこのとき既に、もうひとつの事実を思い出していた。歯の根が合わなくなっていた。


 この人形の子は、昔オレが殺した女の子にそっくりだ……!


「ううヤベエ。あんましこーゆーの得意じゃねえんだよ、オレ」


 長居は無用だ。とにかく、まずはここから一刻も早く離れて、それから頭を冷やして、ゆっくりと街に帰る方法を考え直そう。そうしよう。


「ねえ」

「ひいいっ!」


 反射的にオレは()のした方を見た。見てしまった。

 ……気のせいじゃなかった。人形が、オレに話し掛けていたんだ。


 コイツ、身体はグッタリ動かないくせに、眼だけはまっすぐオレを捉えていた。人形ではなく、ちゃんと魂の宿った生き物のようだった。


「ねえ。キミはわたしの友だち?」

「え……」

「わたしの友だち? それとも……」

「そ、それとも……?」


 頬を震わせ息を呑んだ。


「それとも……敵?」

「友だち……敵……」


 石化したように動かない腕、胴体、足。一歩も逃げられない。操られているのはまるでオレの方。自由が利くのは口だけ。


「ねえ。キミはわたしの友だち? それとも、敵?」

「……オレは……」


 答え方によったら、こりゃ、死に直行するパターンか。……いや、果たしてそうなのか……?


「友だち?」

「と、と、友だちだ」


 つい乗ってしまった。怖さのあまり一見無難な選択に流れちまった。


 そのとき階下で大騒ぎしているのが聞こえた。大人と子供が言い合っている様子だった。こっちの心配もあったオレは這いつくばって、どうにかこうにかその部屋を逃げ出し、階段の陰から窺がった。


「子供を騙して売りさばくなんて、それが蛮族バルバルの本性か!」

「オウオウ。この元気なガキはだいぶ高値で買ってもらえそうだ」


 長茄子みたいな面の、目つきの卑しい男が薄ら笑いを浮かべて対応している。

 その相手のガキというのは……例の優等生クンだ。……アホだアイツは! 構える剣がブルってる。それじゃあ誰も倒せねーぞ。いやもうとっくに取り囲まれて逃げ道なんてねーが。


「チイッ。せっかく助けてやったのに。命の無駄遣いしやがって!」

「……あの人ら、敵なの?」


 背後からオレに覆い被さったのは人形っ子。さっきの……だ。


「うっわあああああ!」


 大声を上げちまったオレは物陰から飛び出し、いきおい階段を転げ落ちた。脳震盪を起こしつつ、死に物狂いで立ち上がったが。


「隠れていやがった。チョロチョロすばしっこかったガキだ」


 先刻の短足に持ち上げられ、報復のビンタをされた。アゴが外れそうになった。……ダメだ。全身痛くて力が入らん。


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