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2話 口減らし作戦に抗う


「お前ら少年兵の指揮はオレ様が執る。いいか何があっても『イエッサー』だ。命令に躊躇したり逆らったりしたら即懲罰房行きだ。分かったか」

「イエッサー」


 周りに合わせ大声を張り上げながら、オレは目の前のこの指揮官様をどう困らせ、泣かせてやろうかと妄想した。マイペースでまくし立てる男の作戦はこうだ。


「西の第3小門から10人単位で出撃する。200メートル先の工場跡地で合流する。闇の中でも白壁だから分かる。30秒以内に到達しろ。そこに事前に潜入させた案内人がいるからその男に従って移動。目的地はその先の教会だ」

「質問です。具体的任務を教えてください」


 ドヤ顔で挙手したのは「いかにもオレ、出来るんです」的な優等生。指揮官様はその質問に答えず、こう言った。


「教えてもらったら作戦が成功するのか?」

「あ、いえそういうわけでは。しかし作戦成功のために、より効果的な行動が取れると思います」

「なるほど。では聞くが貴様はその任務が気に入らなければどうするつもりだ?」

「私は好悪や情で任務を放棄などしません」


 指揮官様は「ほほお」とニヤニヤし、


「貴様らの任務は『相手の言う事を素直に聞く事』だ。以上」


 皆シンとした。言っている事が理解できないのだ。オレもその一人だ。無表情になった指揮官様からは何も読み取れなかった。


「返事は?」

「……い、イエッサー」

「声が小さいな」

「イエッサー!」



◆◆




「隊長のオレは殿(しんがり)を務める。手はず通り、第1班より前進」


 ――さぁ。

 いよいよ兵士デビューだ。案外安穏と生き永らえた日数は少なかった。

 ホントにこんな練度で一人前の戦が出来るのか?


「おっと……」


 最初の5名が夜陰に入り消えた。

 等間隔で次々に進発。オレは最終の6組目だった。


 流石に全身に緊張がはしった。


 なんせ転生後初めての外の世界、しかも敵地だ。

 見つかればどういう目に遭うか分からない。


 ……ところでちゃんと指揮官様は後ろに付いてるんだろうな?


 そのとき先頭の、例の優等生が小さく声を放った。


「シッ……泣き声がする」


 オレの耳にはそれは届かなかったが前世込みの経験から、サッと厭な予感が働いた。

 とっさに転んだフリをして脇の草むらに転がり込んだ。そして後方に目を凝らした。


 ……やはり。

 指揮官様などいなかった。殿なんてしやしねぇ!


 そのままオレは草むらに潜み続けた。


 間髪を入れず闇中で、オレの組の連中の呻きが聞こえた。交差するしゃがれた複数の男たちの怒鳴り。


「あれ? 一人足りねぇぞ? 逃げたか?」

「そのへん探せ。どーせ隠れてるんだろ」

「売りもんだ。乱暴に扱うなよ」


 ああ。

 だからガキばかり集められたのか。蛮族に売られるためにオレらは編成されてたんだ。ナルホドな。……クソッ。


 何が志願兵だ。体のいい、ただの口減らしじゃねーか。覚ったが手遅れだ。


 じゃあどーする? オレのちっちゃな脳がフル回転した。任務は『相手の言う事を素直に聞く事』だ。まずこの命令に逆らえば処罰確定。無事帰還できても別の地獄を味あわされる。


 じゃあどーする? と再思考。

 とにかく動け、考えながら動け。くっそサイテーだ。


 ――と、背後に迫る足音を知覚して身を伏せた。頭の上でブンッと異様な風圧が鳴った。ナナメから見下ろす眼は明らかにオレを殺す眼……だった。


「避けやがった、このガキ。なかなかすばしっこいぞ」

「痛めつけるなって言ってんだろ、売れなくなるだろう」

「いーじゃねぇか一人くらい。ストレス解消させろって」


 ナメやがって。


 短足でいかにもゲスな面構えの男だ。前世盗賊団リーダーだったオレなら、即クビにしてやるところだ。だってノロマなクセに、ズルばっかしそうだもの。これでも人を見る目はあるぜ。


 短足の振り上がった棍棒が落ちる瞬間、オレは股間に思いっきりケリを入れ、同時にダッシュした。


 女のオレのケリは多分弱々だったと思うがそれでも短足は悶絶していた。

 ザマアミロ。


 ――と別の鎖帷子ヤローが手を延ばして来た。オレは素早くそれをかわし、近くの木々を利用しながら鎖帷子男を翻弄した。


「こんの、ガキ!」


 オーバー30の人間の動きは止まって見える。いやこれホント。コイツが30歳以上かどうかは知らんがこのまま遁走する自信がある。だがそのとき。


「頼む。助けてくれ!」


 後ろ手に縄締めされたさっきの優等生が半べそでオレに縋った。

 そのおかげでわずかにオレの足が鈍った。短足の棍棒と鎖帷子の剣にかすってしまった。

 ダメージには至らんが、このままじゃ捕まる。


 仕方なく身体をよじって優等生に走り寄った。そちらの方向にしか突破口が無いと判断したからだ。


 オレは進行方向に立ち塞がった痩せたヒョロ兵に体当たりをかまして倒し、そのついでに優等生の縄を切ってやった。


「あとは自分で何とかしろ」


 小石に足を引っ掛け転びそうになった姿勢をどうにか堪えて、オレは木々の密集する中へ1回転しながら飛び込んだ。


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