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24話 信と疑


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ)夜顔(ニュイラモワティエ))


 万人長の横を過ぎるとき、夜顔(ニュイラモワティエ)がこう宣言した。


「これ以上、人々を困らせるような事をしたら、容赦はしないわよ」


 薄く笑った万人長は返事せず、夜顔の後ろに続こうとした。


「先頭はソンブルよ。万人長はその後ろ。――アン、この子は友だちになるかも知れない敵よ。ドールの主だから殺せないと思うけども、わたしが許可したら袋叩きにしてもいいわ」

「友達だけど敵なの? ややこしいけど分かった」


 夜顔の指示通り、万人長の後ろにぴったり張りつくアン。オレはその後に続いた。そして最後尾の夜顔は、何やらブツブツと呪文を唱えながらオレに追随した。生きた心地がしなかったし、「逃げよう」と企んでいる事を見透かされている気がした。


「なぁ」

「何よ」

「お前、どうやってオレから分裂したの?」

「それを聞いてどうするの? 何かの役に立つの?」

「い、いや……」


 少し間を置き、


「逃げたきゃ逃げりゃいいわ。わたしはあなたなんて全く頼りにしてないし、信用もしてない。……でもね。アンが悲しむ事だけはしないで頂戴。それさえ守ってくれたら絶対にあなたに危害は加えない」


「……。……じゃあ、ひとつだけ教えてくれ。どうやったらオレは元の姿に戻れる?」

「そんな事を聞いて――」

「お前にこの身体を返してあげたい。だってお前、アンの母親に戻りたいんだろ?」


 夜顔の歩みが1、2歩遅れた。


「それも自己満足のなせる言葉?」

「まぁな。オレなりのアンへの餞別、だな」


 少しは打ち解けたかと振り向いたら、これでもかと言うくらい殺気じみた夜顔と眼が合った。オレは心臓をバクバク音立てながら、まっすぐ前に向き直った。

 相当嫌われていると痛感した。




◆◆




「案外遠いわね。万人長、いえステファニー。街まであとどれくらいあるの?」

「わたしたちは全員子供だからな。徒歩などという無謀な手立てだと、あと半日はかかるだろうな。着いた頃には屍しか残ってないんじゃないか」


 愉快そうに答えるな。夜顔さまがキレちゃうゾ?


「ナルホド、承知したわ。――アン、わたしたちを運んで。ソンブル、あなたはステファニーを乗せて走りなさい」

「……ふん。了解。上位主さま」


 上位主?

 敬意と受け取るべきか、ただの嫌味か。


 万人長、素直に指示に従い、慣れた動作で魔女(ドール)ソンブルの肩に飛び乗った。


「おい、いいのか? アイツ絶対に裏切るぞ?」

「それならそれで構わないわよ。むしろ事が早く済むし」


 ……コイツ、やはり分裂してから変わりやがったな。ドール主の自覚が芽生えたのか、それとも何等かの覚悟を決めたのか……オレと同様、過去の記憶を鮮明に思い出したんじゃないかと邪推した。


「赤紫鈴とやらの使い方をオレにも教えろ。ソンブルからアンを護るためだ」


「必要ない。それよりあなたもいっそ消えて欲しいくらい」

「いい加減にしろよ。オマエがオレの事をどう思おうと勝手だが、いまは状況的に置かれた立場は同じなんだ。オレもアンのアルジである以上、アンとは一蓮托生。オレが死ねばアイツもただじゃ済まない。アンが死ねばオレも死ぬ。オマエの納得するような、打算的で自己中心的な言い方をすれば、オレは自分が助かりたいからアンを護る。そんでもって一段落したらとっととオサラバさせてもらう。それでいいんだろ? これでオレの本心が知れて安心したろ? だったらそろそろ話せ。時間もゆとりも無え。どーすりゃその赤紫鈴ってお宝が活用できるんだ?」


 夜顔はジーッとオレのカオを睨んでいたが、やがて、


「これは別に……、もっかいアンに飲み込ませるだけよ」


 と、あっさり秘密を吐露した。


「飲ませる?」

「これはずっとアンのお腹の中に入ってたの。先刻の戦いでアンの首が取れたときにこぼれ出ちゃったわけ」


 出任せを話し出したのかと一瞬疑ったが、別にそれでもいいと思い直り、話の先をつついた。


「だったら何でソンブルより弱かったんだ?」

「アンが単に力をセーブしているからよ」

「……。ナルホド、分かった」


 素直に引き下がったオレに夜顔は、


「わたしがデタラメを話したと?」

「いや。オレなりに腑に落ちたから。だからそれでいい」


 アンの頭に手を置いたオレは「頼むぞ」と笑いかけ左腕にしがみついた。他方、夜顔はオレの言い方に対して考える風にしたが、さっさと右腕に回り込んだ。


「じゃ、行くよーッ!」


 オレらはヒョイとアンに持ち上げられた。

 それぞれ小脇に抱えた姿勢でぶら下がった。――と思う間もなく地面を流れるように走り出した。速かった!


 万人長とソンブルのコンビはとっくに視界から消えている。「追い掛けて」との夜顔の要請に、アンの脚速はさらにその勢いを増した。


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