表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/28

22話 せきしりん


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ)夜顔(ニュイラモワティエ))


 万人長の独り言に対し、夜顔(ニュイラモワティエ)は不快気に首を振った。


「まさか。――と言いたいところだけど、まぁそのようね。わたしたちは不本意ながら二人でようやく一人前、双児魔女(ジュモシメトリ)みたい。でもそれが何か不都合でも?」

 

 凄みに凄みで返された万人長。一歩踏み込んだ足を元に戻した。明らかに警戒した様子。

 だがな万人長。それはオレたちを過大評価してるぞ? この夜顔(ニュイラモワティエ)さんの術中にハマっていると思うな。

 そうナメていたら。


「万人長。あなたこれまでに他の七人の魔女ファントーシュソルシエールに遭ったことあるの? 恐らくその様子じゃないわよね? 正直、七人……って言うけれど実際はあなたとわたしたちを含め、4人しかいないってご存じ?」


 待て。その話は初耳だぞ?! アンも一言も言ってなかった。


「……。やたら詳しいね。……でもさ。その根拠は?」


 夜顔はニコリとして後ろのアンを指した。

 アンがすっかり元通りに戻っている!


「アン。見せてあげなさい。――赤紫(せきし)鈴を」

「はーい」


 両方の手の平を突き出し、広げた。

 ポウッと色とりどりの鈴が出現する。――そう、あの「リンリン」と鳴る鈴だ。

 すっぽり手中に収まる苺ほどの大きさだが、それぞれが特異な色艶を主張しており、いかにもいわくのありそうな形相が感じられた。


「合計4つ。七人の魔女ファントーシュソルシエール3人とわたしたちの分。……わざわざ言わなくても、どのようにしてこれらを集めたのか、あなたには十分理解できるでしょう?」


 万人長、数歩下がる。代わりにソンブルが盾になるように前に出た。


「さっきあなた、『わたしたちを消す』って確か言ってたかしら? それはわたしたちのジャマをするって事なのかな? そんな事をしたらどうなるのか分かってて、そう言ったのかしら?」

「……赤紫鈴(せきしりん)は魔女の魂だ。それを持っていると言う事はその数の分、魔女の力を握っているという事に相違ない。そんな輩に刃向かうほど、わたしたちは愚かではないよ」


 さっさと武器を投げ捨てた万人長は、ソンブルにも倣わせた。


 その間、オレはと言うと、アンの回復に驚きと感動を覚えながらも、夜顔の毅然とした、虚実疑わしい威勢に身動き一つせず静観を貫いていた。ただ頭の中は目まぐるしく回転し、古い記憶をさかのぼっていた。


 本当に夜顔のハッタリは正しいのか。



◆◆


 オレは盗みを働くため、ある夜、ある教会に押し入った。

 秘宝と謳われた【赤紫鈴(せきしりん)】なる代物を奪い取るためだ。それがどんなモノであるのかまでは知らなかったが、途方もない魔力を秘めた逸品とは聞き知っていて、それで大儲けを企んだわけだ。


 しかしなぜそんなお宝が教会にあるのか。

 素朴な疑問が生じていたが、それはその教会が悪魔の館だと恐れられていて、人が近寄らなかったから……、そういう噂を立てておけば襲われる心配はないだろうと、お宝の所有者が考えた……そうオレは決めつけていたのだった。


 ――その頃オレは勇者パーティ――実際のところは、小クエストをちまちまとこなす冒険者集団に過ぎなかったが――そのパーティ内の色恋沙汰で孤立していた。


 ある魔物退治ミッションで仲間に加わった男に、当時付き合っていた彼女とリーダーの座をそっくり奪われたあげく、パーティから追い出されてしまったのだ。

 そりゃもう、ショックを通り越して唖然とするしかなかった。それほど男の手際は鮮やかだった。


 最後に彼女から――幼い時分から意識していた最愛の彼女から――掛けかれた言葉は、なかなか忘れられない。


「わたしはお人好しで優しすぎるあなたが不安なの。もう少し悪く生きてもいいんじゃない?」


 ――ウルセーよ。オマエがそういう女とは知らなかったよ。オレの眼前で堂々といちゃつく彼女から逃げるようにオレは、慣れ親しんだ古巣を去った。


 ――今に見てろ。絶対に見返してやる……。

 教会襲撃は、そう心に誓って及んだ博打……一世一代の犯罪だったのさ。

 

 だが。

 屋根裏の小部屋から侵入し、吹き抜けから階下の様子をうかがって、オレは自分の過ちを覚った。

 

 ふたりの女が、子供を巡って言い争いをしていた。あれは……今思うと……女のひとりは夜顔(ニュイラモワティエ)のマーナ……だったように思える。記憶がおぼろげなのは、彼女の容姿に違和感があったため。

 彼女は今オレの目の前に立っている夜顔(マーナ)よりずいぶん年上に思えたから。恐らく10歳以上は違う。

 そして、争いの対象物である子供は紛れもない、アン……だったように思う。いや、間違いなくアンだった。


 アンはもう一人の女に「お母さん、やめて」とすがっていた。そのお母さんと呼ばれた女は、アンを突き飛ばし、ナタを振るって夜顔(マーナ)を襲っていた。

 オレは状況が呑み込めず混乱する頭を抱えたまま、しばらく階下の騒動を眺めていたが、アンをかばっていた夜顔が部屋の隅に追い詰められたのを見て、とっさに母親に向かって飛び降り、蹴飛ばし、ナタの柄を押さえた。


 母親は「お前も魔女の手下か」と叫び、信じられない力でナタを死守し、オレの肩にそれを食いこませた。


 そのあとの事は曖昧にしか思い出せない。


 気が付くと母親が床に血まみれで倒れていた。オレの手にはベットリと血の付いた短剣が握られていた。娘のアンは頭部から血を流し、既に気を失っていた。

 ナタは……夜顔が持っていた。状況からして、オレと夜顔二人掛かりで母親を殺した……ようだった。ナタを滑り落とした夜顔、アンに呪文をかけ始めた。


「オマエ……何をしてる?」

「この子はもうダメ。目覚める前に赤紫鈴に変えるのよ」


暗い展開が続き済みません。

完結目指し締めに入っていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ