22話 せきしりん
◆マーナ(昼顔&夜顔)
万人長の独り言に対し、夜顔は不快気に首を振った。
「まさか。――と言いたいところだけど、まぁそのようね。わたしたちは不本意ながら二人でようやく一人前、双児魔女みたい。でもそれが何か不都合でも?」
凄みに凄みで返された万人長。一歩踏み込んだ足を元に戻した。明らかに警戒した様子。
だがな万人長。それはオレたちを過大評価してるぞ? この夜顔さんの術中にハマっていると思うな。
そうナメていたら。
「万人長。あなたこれまでに他の七人の魔女に遭ったことあるの? 恐らくその様子じゃないわよね? 正直、七人……って言うけれど実際はあなたとわたしたちを含め、4人しかいないってご存じ?」
待て。その話は初耳だぞ?! アンも一言も言ってなかった。
「……。やたら詳しいね。……でもさ。その根拠は?」
夜顔はニコリとして後ろのアンを指した。
アンがすっかり元通りに戻っている!
「アン。見せてあげなさい。――赤紫鈴を」
「はーい」
両方の手の平を突き出し、広げた。
ポウッと色とりどりの鈴が出現する。――そう、あの「リンリン」と鳴る鈴だ。
すっぽり手中に収まる苺ほどの大きさだが、それぞれが特異な色艶を主張しており、いかにもいわくのありそうな形相が感じられた。
「合計4つ。七人の魔女3人とわたしたちの分。……わざわざ言わなくても、どのようにしてこれらを集めたのか、あなたには十分理解できるでしょう?」
万人長、数歩下がる。代わりにソンブルが盾になるように前に出た。
「さっきあなた、『わたしたちを消す』って確か言ってたかしら? それはわたしたちのジャマをするって事なのかな? そんな事をしたらどうなるのか分かってて、そう言ったのかしら?」
「……赤紫鈴は魔女の魂だ。それを持っていると言う事はその数の分、魔女の力を握っているという事に相違ない。そんな輩に刃向かうほど、わたしたちは愚かではないよ」
さっさと武器を投げ捨てた万人長は、ソンブルにも倣わせた。
その間、オレはと言うと、アンの回復に驚きと感動を覚えながらも、夜顔の毅然とした、虚実疑わしい威勢に身動き一つせず静観を貫いていた。ただ頭の中は目まぐるしく回転し、古い記憶をさかのぼっていた。
本当に夜顔のハッタリは正しいのか。
◆◆
オレは盗みを働くため、ある夜、ある教会に押し入った。
秘宝と謳われた【赤紫鈴】なる代物を奪い取るためだ。それがどんなモノであるのかまでは知らなかったが、途方もない魔力を秘めた逸品とは聞き知っていて、それで大儲けを企んだわけだ。
しかしなぜそんなお宝が教会にあるのか。
素朴な疑問が生じていたが、それはその教会が悪魔の館だと恐れられていて、人が近寄らなかったから……、そういう噂を立てておけば襲われる心配はないだろうと、お宝の所有者が考えた……そうオレは決めつけていたのだった。
――その頃オレは勇者パーティ――実際のところは、小クエストをちまちまとこなす冒険者集団に過ぎなかったが――そのパーティ内の色恋沙汰で孤立していた。
ある魔物退治ミッションで仲間に加わった男に、当時付き合っていた彼女とリーダーの座をそっくり奪われたあげく、パーティから追い出されてしまったのだ。
そりゃもう、ショックを通り越して唖然とするしかなかった。それほど男の手際は鮮やかだった。
最後に彼女から――幼い時分から意識していた最愛の彼女から――掛けかれた言葉は、なかなか忘れられない。
「わたしはお人好しで優しすぎるあなたが不安なの。もう少し悪く生きてもいいんじゃない?」
――ウルセーよ。オマエがそういう女とは知らなかったよ。オレの眼前で堂々といちゃつく彼女から逃げるようにオレは、慣れ親しんだ古巣を去った。
――今に見てろ。絶対に見返してやる……。
教会襲撃は、そう心に誓って及んだ博打……一世一代の犯罪だったのさ。
だが。
屋根裏の小部屋から侵入し、吹き抜けから階下の様子をうかがって、オレは自分の過ちを覚った。
ふたりの女が、子供を巡って言い争いをしていた。あれは……今思うと……女のひとりは夜顔のマーナ……だったように思える。記憶がおぼろげなのは、彼女の容姿に違和感があったため。
彼女は今オレの目の前に立っている夜顔よりずいぶん年上に思えたから。恐らく10歳以上は違う。
そして、争いの対象物である子供は紛れもない、アン……だったように思う。いや、間違いなくアンだった。
アンはもう一人の女に「お母さん、やめて」とすがっていた。そのお母さんと呼ばれた女は、アンを突き飛ばし、ナタを振るって夜顔を襲っていた。
オレは状況が呑み込めず混乱する頭を抱えたまま、しばらく階下の騒動を眺めていたが、アンをかばっていた夜顔が部屋の隅に追い詰められたのを見て、とっさに母親に向かって飛び降り、蹴飛ばし、ナタの柄を押さえた。
母親は「お前も魔女の手下か」と叫び、信じられない力でナタを死守し、オレの肩にそれを食いこませた。
そのあとの事は曖昧にしか思い出せない。
気が付くと母親が床に血まみれで倒れていた。オレの手にはベットリと血の付いた短剣が握られていた。娘のアンは頭部から血を流し、既に気を失っていた。
ナタは……夜顔が持っていた。状況からして、オレと夜顔二人掛かりで母親を殺した……ようだった。ナタを滑り落とした夜顔、アンに呪文をかけ始めた。
「オマエ……何をしてる?」
「この子はもうダメ。目覚める前に赤紫鈴に変えるのよ」
暗い展開が続き済みません。
完結目指し締めに入っていきます。




