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20話 万人長暴露 


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ))


 ただ闇雲にドールに挑もうとしたわけじゃない。


 オレとアンはあらかじめ、ある作戦を立てていた。効果的か? と問われりゃ苦笑いするレベルなんだが。それでも、ふたりのオツムを結集させたんだから立派な作戦だ。

 最初アンが思い付きを話しだしたときは戸惑ったが、なぜかふと頬が緩んだ。あのアンが意見具申したんだぞ! と妙な嬉しさがこみ上げたんだ。コイツはもうただのドールじゃないな。なんて、親心のような不思議な感覚がした。

 そして、らしくない自分に腹が立ちつつ怒鳴った。


「オイ、ドール! オマエだオマエ! そうそう、ソンブル。オレの相手はオマエの方だ」


 万人長()()()、内に破格の強さを秘めるドールの方に挑み掛かったオレを見て、アンは瞬時に作戦決行を理解した模様。オレとは反対に万人長に躍りかかった。


 異種同士でやり合う。そういう安易な魂胆だ。

 案の定、ドール・ソンブルは「どうして良いのかワカンナイ」と言った眼で相手のオレに対した。


 ドールはドール主を襲わない。

 いや、襲えない。

 そうなるように、どこぞの誰かに仕込まれている。ということらしい。なんせドールとドール主は絶対的主従関係で結ばれているそうなので。


 だからドールは、ドール主に危害を加えられない。


 試してみると本当だった。

 ソンブルと名付けられたこの(ドール)、オレにはほとんど手出しも出来ず、先程までの異常人的な能力も発揮せず、弱々しく腕を振ってオレの手を振り払おうともがいているばかり。ジャマするオレのために本来標的にしていたアンに近づくことすらままならない塩梅だ。


 他方、アンはどうなっている?!


 こちらも狙い通りだった。

 序盤こそ、流石に万人長を豪語するだけあって、アンの猛攻を防いでいたようだが、体力気力が常人を超えるアンの前に、徐々に劣勢になっていた。


 万人長のカオからはすっかりゆとりが消えて、その代わりに嫌悪と憎悪が詰め合わされた鬼面を浮き立たせてアンにぶつかっている。そうしなが何やら叫んでいるのは、己がドールに指示を伝えているためだ。


「ソンブル! 遊んでないで、そんなザコ、さっさと始末しなさい!」

「ステファニー、キミ耳元で大声上げすぎ!」


 大げさに耳をふさいでアンが猛抗議。


「なんだ、このドール。人間と対等に会話しようと言うのか? 珍しくて生意気だな」

「ドール言うな。わたしはアンだ」


 語尾を残してふたりはもつれ合うように斜面を転げ落ちて行った。

 ソンブルはご主人さまが居なくなったのが不安なのかどうなのか、オレを押しのけてふたりを追い掛けようとした。いやいや。逃すわけ無いだろ、ジッとしてろ。


「あうあうあうあう」


 まるで犬がお預け食ったみたいな悲し気な鳴きかたをするソンブル。アンと違ってこっちは人間っぽさがかなり希薄だ。力が発揮できないのにもがいているさまが健気だが、「おんおん」吼えるのはちょっと怖いのでやめて欲しいぞ!


「おい聞け、ソンブル。オレらはお前の主人を痛めつけるつもりは無い。もしお前に言葉を理解する能力があるなら教えて欲しいことがあるんだ。七人の魔女ファントーシュソルシエールって言うのはお前ら以外にいるのか? お前らは何で七人の魔女ファントーシュソルシエールになったんだ?」

「わうーわうー」

「遠吠えしてんじゃないっ。まずはオレの話に耳を傾けろッ。――っチィイッ、分かったよ、じゃあひとつだけ教えろ。アンが人間に戻る方法は無いのか? あればどうしたらいいんだ?!」


 唯一知りたいのはそれだ。

 オマエらと戦おうと決めたのはそれを知りたいからだ。せっかく七人の魔女ファントーシュソルシエールに遭ったんだから、聞かない手はない。


「頼むから教えろ。七人の魔女ファントーシュソルシエールは人間に戻れるのか!」


 オレはこの事を聞き出せるのなら、ここで、この場で死んでもいいや、くらいに投げやりに思った。なので、暴れるソンブルを、いつ暴走するかもしれない魔女を、恐れ知らずに押さえつけた。


 どうせ千人長が惨殺された時点で死罪確定だったんだろ? どーせ死ぬんなら最後くらい、アンに報いて死んでやろうじゃないか。そう開き直った。

 地面に固定されたソンブルに、カオを近付ける。すると荒い息を吐きつつ彼女の口が動いた。


「アカノタニンと話しちゃダメ……なの」

「やっぱり話せるんじゃねーか」


 ハッと口をつぐむソンブル。もう手遅れだよ。ちゃんと耳にしました。


 オレたちのすぐそばでギラリと光ったものがあった。「ワッ」と転げてかわした。

 ステファニーの振り下ろした剣が今までオレのいた位置に突き立っている。


 彼女の、掲げた左手を見て唸る。――アンの生首だった。

 ……なんて事しやがる……。いくら何でもやり過ぎだ……。


「互い違いに戦いを挑む。グッドアイディアだったよ。けどさ、ドールがアルジに手出しできないのは、そっちも同じなんだよ?」

「お、オマエ! ソイツの胴体を持ってこい!」


「いやだよ。ドールだもの、直ぐに再生しちゃうじゃん。もっかいチョン切るのメンドウくさいし」


 投げつけられたアンの首をしっかりと受け止めた。眠っているように安らかだった。

 あんなに有利に戦ってたのに、あっさり逆転されやがって……。


「万人長。いやステファニー。あんたドールが逆らえない事をいいことに、ソンブルを奴隷みたいに扱ってるな」

「……。娘、きさま色々分かってないな。ドールは奴隷じゃない。優れた兵器であり、自身の一部でもある。自分が死ねばドールも一緒に死ぬ。ドールが死ねば、自分も世の中に埋もれ、足蹴にされつつ惨めに死んでいく」


「言ってることがよく分からんよ」

「二人は二つで一つなんだよ。きさまはドールを別人格のように思ってるらしいが、ドールは自分の分身、れっきとした自分自身なんだよ。奴隷のように扱っていると見えたんなら、きさまはマゾヒスティックな行為にやたら敏感なんだ。自分の事が嫌いなヤツが自傷行為をするのはよくある事さ。痛いもかゆいも、別にどーだっていーんだよ。わたしらには」


 攻撃の手を緩めずにご丁寧な解説をして下さる。


 逃げまどいながら話を聞かされる身にもなれ。息が切れてきた。さすが万人長張ってるとホメてやるよ。だからもうカンベンしてくれ。


「ドールと出会う前、そりゃヒドイもんだった。女ってだけでどうしてあんな辛い目に遭わなきゃなんない? 地上に蔓延る男どもを全員皆殺しにしても復讐し足りないさ。……いいや、それ以上に女どもだ。ヤツらは自分だけが可愛い。自分だけが助かるなら男どもに対して忠実な犬でも、媚びる猫でも、思考を止めたメス豚にだってなる。まったく醜い。正視できない。万人長? はッ、糞みたいな存在だ。だけどな、大勢の人間どもを殺すには、おあつらえ向きの役職なんだ」


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