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19話 自律


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ))


 アンの足は武装馬よりも速い。

 それは以前に証明済みだ。


 だがそのことにより慢心したオレの誤算だった。


 七人の魔女ファントーシュソルシエールを称する万人長の奴隷人形はアンより速い! 早々に結論を述べるとあっという間に距離を詰められた。


「アンッ! ホンキで走ってるか?!」

「走ってるよォ。わりかしホンキだよォ」

「わっ、わりかしって何だよ! 全力で走れよッ!」

「あいあいさー」


 グンッ!


 スピードが増した。

 いったん追跡者との差が広がった。

 ――が。

 じきに相手の速力も上がり、また間を縮められた。


「アンッ、森に入れッ! 木々に紛れながら振り切れッ!」

「あいあいさー!」


 足場は悪くなるが代わりに身を隠す手立てが生じる。ジグザグ走行もアンの得意技だ。


 後はオレが振り落とされないように彼女の背中にしっかりと密着して、弾丸のように一体化した塊に成り切るだけだ。

 どーだ、これで追いつけまい。


「と?」


 ――! 居ねぇ?!

 ヤツら、どこに消えた?!


「上だよ。マーナ」

「ひッ?」


 猿かムササビのように木から木に飛び移っている七人の魔女ファントーシュソルシエール

 その背に万人長。


 しっかり目視できる距離にまで詰められている。


「オレらも猿になろう!」

「それムリ。マーナが落っこちちゃう」


 ごもっとも。

 オレ落ちない自信無い。


「やっぱ森は不利だ。草原に出て振り切るぞ」

「…………あいあいさー」


 90度ターンし、アンがジャンプ。

 いきなりだ。


「うわああああっ?!」


 足場が無ぇ?!

 崖だあぁぁ!


「しっかり捕まってて!」


 着地の震動で落ちそうになったのを必死にこらえる。

 崖の先は一面の花畑。アンの跳躍でそこに辿り着いた。


「い、いいぞ、アン! まるて鳥のようだったぞ」

「マーナ」

「な、なんだ?」

「作戦決行しよう」


 なんだって?!

 走るのを止めるアン。ナゼ?


「追いつかれちった。そろそろ覚悟決めなきゃ」


 彼女の背中から降りたオレは、不貞腐れて花のじゅうたんに寝転がった。


「あー。分かったよ。どーにでもしてくれ」


 苦笑のアンに、昨日までの緩い空気は無い。


「オレの寝てる間に、オレと会話したのか?」

「マーナ、言ったじゃん。『自分が正しいと思ったら遠慮なく言え』って。マーナに頼ってばかりじゃダメなんでしょ? 少しは自分でも考えないといけないんだよね?」


 もうひとりのオレの入れ知恵か。そうだろうな。


 オレのいいなりになっているアンはハッキリ言って指示待ち思考停止の人形だ。

 ヤツはそれを良しとしないわけだ。自分の意思を持てと言いたいのだろう。


 だがな。


 それは善し悪しだぞ。自分で下した判断が常に最前とは限らない。ましてや受け身一辺倒のだった人間が突然「好きにしろ」なんて言われたって、何かできるか? 途方に暮れちまうばかりでオロオロしちまうぞ? 「自分の道は自分で切り拓け」なんて言うのはただの無責任な大人の言葉なんだ。


 誤った判断で取り返しのつかない事態になったらどうする? 自分で尻拭い出来るのか? 道を軌道修正できるのか? 素直に言う事を聞いて失敗したって人のせいに出来るのに、自己判断で突っ走ったら言い訳も出来んぞ? 「オマエが決めた事だろう?」と冷たく言い放たれるぞ?


 それでもいいのか!

 彼女をジッと睨む。


 アンの眼は「上等だ」と言ってる。

 ケンカ上等。意見のぶつかり合いオーケー。なんだったら拳をぶつけ合うのも辞さない。


「了解。今回はアンの考えに乗っかってやるよ」

「へ?」

「へ? じゃない。逃げるのはヤメだ。オマエの意見を採用して作戦決行だ。この場で戦闘開始だ」

「マーナ……」


「おいおい、待てよ。不安げな息吐くなよ。オレは賛成だって言ってんだ。今回はアン、オマエの意見に賛成だ。ふたりでアイツらを叩きのめそうぜ。花畑の大海にヤツらを沈めてやるんだ」


 パアッ!

 アンのカオに花が咲いた。……チッ、健気で可愛いヤツめ。


 戦場に選んだ場所に足を踏み入れた万人長と七人の魔女ファントーシュソルシエールに、オレたちはターンして挑み掛かった。


 まさか先制をしかけて来るとは思っても見なかったんだろう。

 万人長が慌てて魔女の背を蹴って彼女から離脱した。後方に退き、「やれ」と鋭く言い放った。


「待ちな。ケンカをおっばじめる前に約束しようじゃねーか」

「何をだ?」


 万人長の喰い付きに満足し話を続ける。


「このケンカにオレらが負けたら、ふたりでアンタの奴隷になってやる。そこの魔女さんと同様にな。だが、オレらが勝ったら……」

「仮にお前らが勝ったら?」


「オマエらふたり、オレの【友だち】になってもらう。――いいなアン、それで?」

「いーよー」


 万人長、予想外だったらしい。子供が言い放った提案にノリノリで反応した。


「友だち? なんだソレ? ああいいよ、友だちになったげる。一生仲のいい友達にね」


 ニイッ。

 世にも恐ろしい表情を浮かべやがった。

 

 

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