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18話 逃走開始


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ))


 あなぐらの地下牢に食事が投下されるタイミングを狙って脱出するという作戦。


 まどろっこしいとメンドーがるアンをなだめて好機を待った。昼は食事にありつけず空振り、陽が傾いて暗さが5割り増しした時分にようやく――ガチャガチャと格子が鳴った。


 ――いよいよだ。アン、頼むぞ。


◆◆



 あなぐらからの脱出に成功したアンが綱を見つけて垂らしてくれて、あっさりとオレも抜け出せた。配膳係以外、見張りは居なかった。


「居ないどころか。妙に陣中が静かだぞ?」


 投下されるはずだった晩飯を悠々食した後、喪心中の配膳係を叩き起こした。当然さるぐつわにお縄を施して。いかにも実直そうで気弱そうな中年兵士だった。


「アンタ。この娘が魔女だって知ってるな?」


 コクコク。


「ヨシヨシ。オレらがガキだからってナメてたら、死ぬよ?」


 コクコク。


「ホントに分かっちゃってる? この娘、素手で熊のお腹に風穴開けるからね? オジサンの頭なんて瞬時に粉砕しちゃうからね?」


 アンが、オレの合図で手近の鉄製盾に正拳突きで大穴を作った。おーこわ。


「聞きたい。何で誰もおらんの?」


 さるぐつわを外す。


「さ、さ、サントロヴィールの北門前に部隊が集結してるだ」

「サントロヴィールの北に? どーして?」

「理由なんてしらねーだ。とにかく万人長さまが号令しただ」


 首をひねる。そしてひとつの仮定を思い付いた。


「そうか、今日は商船船団の帰港日だ」

「しょうせんせんだん?」


「ああ。1年に一度、大船団が京師サントロヴィールに帰って来る。大量の物資を積んでな。バルバル族の移動はそれが目当てだ」


 にしても間抜けな話だ。

 船団が帰る日を末端のオレでさえ把握している。縁起が良いとかの理由だけで毎年決まった日に帰着を果たす。毎年毎年だ。その日をめがけて祭りも開催されるんだが、いい加減にしろと言いたい。

 見ろ、外敵がウキウキと群がってんじゃねーかよ。


 このまま今回も恒例の横取り大会が開催され、その後にバルバル族の大宴会が開かれるのか。サントロヴィール市民は指をくわえてそれを遠くから眺めてると。


「おい下っ端。オマエは行かなくていいのか?」

「千人長さま直々のいいつけだで、守らねえとお仕置きされちまうだ」


 千人長?

 ああ。新しく就任なさった千人長、トリストン()隊長さんか。サントロヴィール一の背信男。

 上司である司令の頸と同胞30人の死体を土産に、まんまとライバル企業に転職を果たしやがった。おめでとーさん。

 ったくオレらの人権も奪いやがったし。ホント呪ってやりたい。


 ……さぁどうするか。このままこの地を離れるか?

 どこか遠くに逃げようか?

 よくよく考えれば、これはチャンスだし。尻尾を撒いて逃げる気がして癪だが。


「アン。さっきから大人しいな。聞いての通りだ。今のうちにオレたち逃げるか? どこか遠くの地に」

「うーん……」


 キョロキョロして、なんだよ? オマエの様子がヘンだと妙に不安になる。言いたいことがあるならズバッと言ってくれ。ビビって粗相しないように、胆に気を込めて、心して聞くから。


「気掛かりでもあるのか、アン?」

「うーん。……あすこ」


 アンの指す方角をつられて眺める。高楼があり、そこに人影が見える。


「――ゲエッ?!」


 動転して奇声を上げちまったのは他でもない。


「ま、万人長……!」


 楼台にリクライニング式のイスを据え、優雅に読書してやがる。……もっともこちらには気付いていない様子だが……。


「な、なんでよりによってアイツが居るんだ?」

「万人長は日中、だいたいアスコで過ごされておいでですだ」

「……逃げるぞ。アン」


「……でも」

「でも、ナニ?!」

「とっくに勘付かれてるみたい」


 垂れた冷や汗をぬぐい、再び楼台に目を凝らす。


「は? ……アイツ、手を振ってやがる……?!」


 な、な、ナメやがってぇ!


「まだ距離は充分ある。アン、オレを抱えて全速力で走れ!」

「戦わないの?」


「昨日と同じ結果を招くだけだ」


 アンの頬が明らかに不服そうに膨らんだ。

 そりゃ無策なワケじゃない。穴の底でアンと知恵を出し合った末に立てた作戦がある。だがそれは必勝じゃない。いよいよのときに勝負を賭け決行するものだ。


「行くぞ、アン。走れ!」

「もーっ。りょーかーい!」


 アンの韋駄天のようなダッシュと、対する魔女の猛追が始まった。



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