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17話 敵か味方


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ))


 アンに揺さぶられて目覚めた。

 昨日の百孔千瘡、半死半生ぶりは何だったのかと疑うくらい元気を取り戻していた。


「そろそろこの穴から出よう、マーナ」

「いや……スマンがこっちはまだボロボロだ」


 そんなはずはないとアンが言う。

 試しに身体を動かすと。なるほど確かに痛みも苦しさもない。


「これはいったいどういうことだ」


 服をめくると傷も消えていた。寸時頭を巡らせてピンときた。


「昨晩……明け方か、マーナが何かしたか?」

「はえ? マーナがって? 自分がどうかしたの? 治癒魔法をかけてくれたじゃない。おかげですっかり良くなったよ!」


 やはりか。

 でオレは自分で自分に魔法をかけたってわけか。……ムチャしやがる。


 一般的に魔法は自らの生命力を削って行使するとされる。つまり寿命を縮めて不可思議な能力を発揮させているって話さ。身体は回復しても死期は早まったんだぜ、夜のマーナさんよ。


「それよりアン、腹減らねーか?」

「それならさっき、上からパンが落ちてきたよ。はいコレ」

「上から、ねぇ」


 しかめたカオで見上げる。穴の上部にはやたら頑丈そうな格子ががっちり嵌まっている。


「……あれ、壊せねーかな」

「ジャンプして叩くの?」

「あ。食ってからにしよう。ほら、半分こ」

「あ、わたし先に自分の分食べたし」

「いーから。食いすぎたらデブるし」


 方便のたまいながら、オレは昨日の出来事を本当は思い出していた。

 万人長のしもべ、七人の魔女ファントーシュソルシエールはソンブルと呼ばれていた。根暗という意味だ。仇名だ。名前なんてものじゃねぇ。


 でもヤツはそれに甘んじていた。

 奴隷になり切って持ち主の言う通りに動いていた。機械的に。無感情に。


「……アン。オマエは違うよな?」

「んあ?」

「いーや、何でもない。遠慮すんな、パン食え」


 オレはオレのやり方で、アンを利用する。その想いの範疇に奴隷として使役するという選択はない。

 どうしてか? と問われれば、どうしてだろう? と答えるしかないが、オレは彼女をモノ扱いするのに抵抗があるのだ。


 死んだ千人長と、あのナマイキな万人長は七人の魔女ファントーシュソルシエールを人形だと言った。でもよ、人形は普通しゃべらないし、自分の意思で動かない。せいぜい繋がった糸に合わせて手足をバタバタするだけだ。それがモノ、それが人形だろう?


 少なくともアンはオレと意思疎通してる。泣いたり怒ったり、笑ったりしやがる。

 アンはアイツと同じじゃない。


「明け方にね、わたしヘンな夢を見たんだ」

「夢? 唐突だな。どんな夢だ?」


「わたし、お姉ちゃんと教会に住んでてね。あるとき悪い人がドロボーに入ったの」

「……な、なんだって……?」

「だからね、悪い人が……」


「ま、待てっ! それ以上言うな! 思い出さなくていいッ」


 何気に放ったアンの話題。

 ……それ、夢なのか……?


 かじりついていたパンからカオを上げて。


「……うん。でもそれ以上は思い出したくても思い出せないんだ。ヘンな夢」

「そ、そうか」


 手が震えてパンが転がった。拾おうとして手に当たりさらに転がった。


「アン……聞いていいか?」

「なーに?」


「敵と味方をはっきり区別するのは、ナゼ?」


 んーと。アンはちょっと遠くを見つつ首をかしげてこう答えた。


「敵は全部殺さないといけないから?」


 ケロッと疑問形っぽく白状すんな。オマエの信条なんだろ、ぼやかすな!

 とにかく、過去のオレが犯した罪がバレたら、その時点でオレらの関係はお終いになる。

 オレは友だちから敵にジョブチェンジし、瞬時に逝くのだ。地獄にな。


「どうしたの、マーナ?」

「……いや。別に」

「何か今日、そればっか」


「……それよりな、アン。オレは覚えてるぞ。ふたりで暮らす家の話」

「マーナ」

「な、なんだ?」


 別の話題で話を逸らそうとしたんじゃないぞ。


「そろそろ出よう。ここから」

「あ? ああ、ウン。そーだな。それならオレに考えがあるからな。この枝を持て」

「これ?」

「そーだ。そしてあの天井の格子で待機しろ」


 浅知恵はオレの担当だ。要領の得ない様子でアンが枝を受け取る。


「敵はオレらを殺す気はないようだ」

「どうして言い切れるの?」

「朝メシまで頂戴したんだぜ。殺す気ならそんなもったいない事しないだろ? 何らかの理由で生かしておき、どこかのタイミングで利用するつもりだ」

「うーん。そうかも」


 食べ物を投げ込むには、格子を一時的に開けなきゃならん。そのときに枝でソイツを突き、驚かせといて飛び出る。

 身振り手振り付きで説明するとアンの眼が輝いた。


「マーナ、すごーい!」


 相当感心したくれたようだ。

 アンはそれからジッと格子の端っこにひっそりとぶら下がったまま、一向に降りて来なくなった。


 オーイ。気が早すぎるぞー。 

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