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13話 鹿の千人長


◆マーナ(昼顔(アンベシルバンディ))


 バルバル族のいでたちは総じて奇妙だ。

 雑多な素材のボロ布をつぎはぎしていてまさに十人十色。例えば茶色い亜麻布と赤いウール生地がちぐはぐに縫い合わされた寸足らずのチュニック(ブリオウ)の上に、牛皮と羊毛を組み合わせた簡素な防具を着てたりする。そして下半身はだいたい黒か白い下着ズボン(ブレー)


 ところが。この女千人長の格好ときたら!


 鹿の面から下、外套の内側は真紅の()()()()()()()()。前世、悪友がビキニアーマーと称していたものだ。初めて現物を拝んだ。防御している部位は形の良い双胸と局部のみ。現実にいるもんだ、こんな女。


 やはりバルバル族の中でも頭一つ、抜きん出ている。色んなイミでな。


 ――その女がオレの(幼稚な)挑発にまんまと乗って、オレと同じ場所に降り立った。


 暗がりに万来蛮族どもの発狂めいた荒い息遣い。腹にズンズンと伝わるぜ。


「フフフ小僧。オマエの挑戦をまともに受けてやろうと同じ土俵に立ってやったぞ。さぁあ。いったいどうしたい? ブスな鹿面をどう始末したい? 言ってみろ、さぁ……」


 小僧と言ったな? この期に及んで男子扱いしてくれてるのか、そりゃどーも。


 それよりアンタ、ハアハア息が荒いぞ?

 おお。なんたるサディスティック・ビューティだこと!


 なんて案外冷静に観察してたら女の、手に持った大ナタがブルン! と唸った。


「うーお?!」


 転げて逃げる。並みのバルバル族兵士の動きの倍は速い。

 素早さ自慢のオレでもやや冷汗が出たほどだ。


「ホレホレホレ。小僧、愉快か?」


 振り子のようにリズミカルに繰り出す攻撃にオレは逃げ惑うばかりだ。当たらぬが、さりとてヤツに近づきも出来ない。


「ちょ、待てよッ、子供相手に武器持って戦うなんざ、フェアじゃねーだろ! せめてオレにも武器持たせろや!」

「よかろ。好きな物を使え」


「え、いいのか? あっさりだな?」


 女千人長が手首を返すと山盛りの武器が暗闇から降ってきた。バルバル族環視どもが自分らの持ち物を投げ込んだに相違ない。半分勢いだろ?


「みんな! うまく行きましたよ?」

「おういいぞ。よくやった、マーナ! 作戦通りだ!」

「いや、まぁ……」


 ホメてくれたのはまさにオレたちの生贄に選定されていた虜囚たち、同胞だ。彼らは手に手に武器を取り、ビキニアーマーの女千人長を取り囲んだ。


「……作戦通り? ……作戦通り、とは?」

「オレらの隊長、トリストンが仕組んだ作戦だ。オレとアンが殴られまくったのも、アンタを騙すための布石だったのさ。……ま、結構マジにやられたけどな」

「トリストン……?」


 女、トリストンの方を一瞥する。――が既に司令とともに特等席から姿を消していた。


「ほー……アッハッハ。フーンなるほどな。いいさ、……で、貴様らは何人だ? 肩慣らしには丁度いいぞ。だったら束になってかかって来い」


 女千人長のセリフを皮切りに、血気にはやる同胞数名が同時に斬り込んだ。


「うおーッ! コノヤローッ!」


 ――が。


「アッ?!」


 彼らすべて派手に転がり、地に鮮血の海をつくってその中に沈んだ。瞬時に大ナタの餌食になったのだ。その赤黒く染まる刃を揺らし、女が面を外した。恍惚の表情でオレらを眺めていた。


「ひいッ?!」


 途端に次鋒を名乗り出る者が途絶えた。


 女、「フワッ」と前によろめいた――と思った瞬間、前衛にいた者らの頸が跳ね上がった。遺された胴から噴射する血しぶき。末期の悲鳴もない。


 先陣組と合わせて一気に5名の兵士が討たれた!

 戦闘開始から、ものの1分も経っていない。


「うわッ、た、体勢を整えろッ!」


 副長格が喚いた。ただちにそれなりの陣形が整った。


「フフン。京師サントロヴィールの兵士どもは勇敢だねぇ。戦いがいがあるよ」


 女千人長の猛撃を、異国の防具で防ぎながら、連係プレーで左右から突進反撃する兵ら。――があっさりかわされ、返り討ちに遭う。これで2名戦死。


「わあッ?!」


 ボーゼンとしていたら、後方に配置していたはずのオレに、女が肉迫した。

 一閃をすんでで避けたが、そこに2撃目が飛んできた。


 危ないッ――と覚ったとき、女のナタを、アンの左腕が静止させていた。

 なッ。

 女が息を継ぐ――のと同タイミングでアンの右ストレートが女の顔面横に届く。


「――ねぇ、マーナ。この人、敵なの?」

「てっ、てっ、……敵だっ!」


 オレの一声がアンの耳に伝わった瞬間、彼女の眼の色が明らかに変わった。

 引いた右拳と入れ替わりで左拳が女千人長の右頬を捉えた。手毬でも飛ばすようにヤツの身体が宙に舞った。


 ――が、さすがに千人長。

 地面で数回転しながらも、迅速に立ち上がった。しかも嗤ってやがる、口からボタボタ赤いものを滴らせながら――。




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