しるし
自転車での下校中に大型トラックと交通事故起こし、クリティカルヒットした際にブッ飛ばされた俺は、角度的にはそのまま頭から固そうな石塀と融合するところだったが、自称天使たる深月のアドバイスのおかげで奇跡的にお尻を痛めただけで済んだ。
それが、たった三日前だ。
そして再び俺はどうやら死に直面するらしい。
深月が俺の前に現れたのが証拠だ。
一体前世の俺はどんな悪事を働いたんだろう。
俺はそんなことをモヤモヤ思考しながら、相変わらずズカズカと歩く深月に連れられ一つの教室に辿り着いた。
それは前回の四階空き教室ではなく保健室だった。
ノックもせずに侵入する深月に続く。
中には誰もいなかった。
消毒の独特な匂いを感じていると、部屋の中央でしばし仁王立ちしていた深月が口を開いた。
「さて、夏樹さん救出大作戦、その二です。会議を始めますよ」
小学生の放課後の遊びのような単語を恥ずかしげもなく口にする深月は、ガラス玉のような両眼をまっすぐ俺に向けていた。
同じ言葉を三日前も聞いているが、全く違う言葉に聞こえる。
緊張すら覚える。
「なあ、やっぱりこのままだと俺は死んじゃうのか?」
「そうですよ!」
「また予知能力で分かったってことか?」
「……さては信じてませんね?」
今度は梅雨で生乾きの洗濯物のような目を向けてきた。
「いや、信じてないことはない! けどさ、ほら言うじゃん?半信半疑は傷付かないための予防線ってさ」
「なんですかそれ。臆病な乙女みたいなこと言わないでください」
こら!サク〇イさんに謝れ!
「とにかく!」
数段ボリュームを上げて深月が吼える。
「私のいうことを聞いてください!」
深月は顎を上げ、腰に手を当て、これはノブレス・オブリージュだとでも言わんばかりの鼻息を漏らす。目まで閉じてやがる。
「あいよ……」
ちらつく苛立ちを抑え、溜息と一緒に返事をする。
「では早速――」
深月はヌンチャクのように右腕を振り回し、立てた人差し指を俺の眉間に向けた。
「服を脱いでください」
「………………へ?」
世界が静止する感覚は、窓の外からカラスの鳴き声が聴こえてきたことで勘違いだと分かった。