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今日も今日とてクマ耳ヨロイ  作者: クマ耳ヨロイ
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第2話 過去に襲われるクマ耳ヨロイ_2

 荒野の中、二人の戦士が対峙している。

 一人は青い甲冑で身を包み、巨大な水晶のランスを構えるキツネ耳ヨロイ。

 そして、もう一人は黒と紫の特殊スーツを着こなし、恐竜の如き迫力を持つD(ダーク)V(バーチャル)R(ライダー)アクロさん。

 お互いににらみ合ったまま構え、二人の間には張り詰めた空気が流れている。

「ヨロイ殿、これを」

 そんな張り詰めた空気の中、アクロさんは視線を変えないまま私に緑色の石を投げ渡してきた。

 私は慌てながらも何とかそれをキャッチすると、石を持った手のひらからジワリと優しい暖かさが手をつたって全身に流れてきた。

 体に空いた穴には薄い緑の膜ができ、全身の痛みもなくなっていくように感じた。

「これは……」

「俺が開発した鎮痛&治癒プログラムだ。試作品だが、もしものために持っていて良かったぜぇ」

「ありがとうございます、助かりました」

 かなり楽になったおかげで、剣を杖代わりにしながらもなんとか立ち上がることが出来るようになった。

 私が回復した様子を見て不機嫌になったのか、キツネ耳ヨロイのランスを持つ手からギリッと音が聞こえてきた。

「アクロとか言ったか。貴様、どうやってここへ……」

「今日は俺とヨロイ殿、あともう一匹と集まる約束をしていたんだ。お前がヨロイ殿を連れ去った後、残されたやつが早めに集合場所にいた俺のところに連絡してきてな。あとは俺が襲撃場所に向かい、お前が消した雑なゲートの通行履歴を特定し、ここへのゲートを無理やり作ったのさ」

「アクロさん……それ、通りすがりって言わないんじゃあ……」

「とぉりすがりのぉ!だぁーくばぁーちゃるらいだーですぅ!」

 私のツッコミに食い気味でアクロさんが必死に訂正する。

 通りすがりって言葉にこだわり過ぎでは……。

 しかし、残されたやつというのはきっとリントさんのことだ。

 リントさんが心配してアクロさんを呼んできてくれたのか。無事でよかった。

「まあいい。邪魔をするなら、お前も消し去るだけだ!」

 目の前に現れたアクロさんに苛立つキツネ耳ヨロイは腰をひねり、『清涙の歓喜』を放つ構えをとる。

 危ない!

 私がそう叫ぼうとする前にアクロさんは走り出していた。

 キツネ耳ヨロイが構え終わる前にアクロさんは手が届きそうな距離まで迫っていた。

「くっ!?」

 キツネ耳ヨロイは技を発動せずにランスでアクロさんを貫こうとしたが、体を軽く横に動かして避けられる。

 懐まで飛び込んだアクロさんの拳がキツネ耳ヨロイの顔面に伸びるも、キツネ耳ヨロイも攻撃に反応してランスの柄を盾にして拳を止めた。

「ちっ!」

 キツネ耳ヨロイは柄を強引に払い、アクロさんと距離を取ろうとする。

 だが、アクロさんはしつこくキツネ耳ヨロイに近づいて超近接戦闘に持ち込もうとする。

「貴様……!」

「見えてたぜぇ、お前の技ぁ……だいぶチャージに時間がかかりそうだなぁ!」

 苦しい声を上げるキツネ耳ヨロイとは対照的に、アクロさんはワクワクと嬉しそうな声を上げて追い詰めていく。

 さすがダークバーチャルライダーと言ったところだろうか。

 普段はすごく優しくてライトバーチャルライダーって感じの方なんだけど、まあ言わないでおいてあげましょう。

 キツネ耳ヨロイは片手を払うと、周囲に四つの光球を発生させる。

「数で押そうが……!」

「そんなつもりはないさ」

 キツネ耳ヨロイは自分の周囲で光球を爆発させる。

 爆発の衝撃で砂埃が舞い、キツネ耳ヨロイの姿を隠してしまう。

「ちっ!」

 アクロさんは砂埃の中に突撃し、回し蹴りで風を起こして砂埃を散らせた。

 だが、そこにはすでにキツネ耳ヨロイの姿はなかった。

 アクロさんは構えながら周囲を警戒する。

 離れた場所にいる私も辺りを見回すがキツネ耳ヨロイらしき姿は見えない。

「いったいどこに……」

「……まさか!?」

 アクロさんは何かに気づき、今いる位置から離れた。

 ……まさか、上!?

 私がそう気づいたときには、ランスを構えたキツネ耳ヨロイが一〇m上にいた。

 だがもう落ちる場所にアクロさんはいない。

 外した。そう思っていた私の前でキツネ耳ヨロイの突然落下方向が変わった。

 まるでジェットエンジンのようにドンッ!という音をたて、キツネ耳ヨロイはアクロさんに向かって突進していく。

「なっ!?」

 アクロさんもさすがに予想していなかったのか反応が遅れてしまう。

 とっさに体をひねり攻撃を避けようとしたが間に合わず、直撃したアクロさんの体は大きく吹き飛ばされた。

「ぐぅ……くそっ!」

 地面を激しく転がされながらも、受け身を取って素早く体勢を立て直した。

 だが、それ以上にキツネ耳ヨロイの動きが早かった。

「捉えたぞ」

 起き上がったアクロさんの視線の先に、大きく腰をひねりランスを構えたキツネ耳ヨロイがいた。

「いけない!」

「『(ブルー・)涙の(ティアーズ・)歓喜(ディライト)』!!」

 キツネ耳ヨロイの叫びと同時に、技は終わっていた。

 いや、叫ぶ前から終わっていたのかもしれない。

 私は離れたところから見ればあの技を観察し、打開することができると思っていた。

 だがそんなことはなかった。

 何も見えなかったのだ。

 気づけばアクロさんは技の直撃で空中に打ち上げられ、キツネ耳ヨロイはもといた場所から消えてアクロさんがいた位置の先にいた。

 アクロさんは空中で激しく回転し、ゴシャ!と大きな音を立てて頭から地面に叩きつけられた。

「アクロさん!」

「まさか邪魔が入るとは思っていなかったが、これで終わりだ」

 キツネ耳ヨロイはランスの先をゆっくりと私に向ける。

「次はお前の番だ」

「くっ……」

 アクロさんからもらった治療アイテムがあるといっても、多少マシになった程度でしっかりと動ける状態ではない。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 私は杖代わりにしていた剣を構えた。

「往生際の悪いやつだな」

「アクロさんが頑張ってくれたのに、私が頑張らないわけにはいかないでしょう」

「貴様が頑張って何になる。ただ生きて、生きて、生きて……それだけではないか。何も生み出さない。意味も、価値も。その魂にどんな意味がある」

「生き続けた未来に、何があるのかなんてわからない。今何か生み出せなくても、どうにもできなくても、生き続けた未来に何かを生み出せる可能性はいつまでもある。それに、私に生きていいと思っている方がいるのであれば、その方のために私は生き続けたい!」

「そんな少数存在の意見など通るものか!」

「通すんだよぉ!」

 キツネ耳ヨロイの言葉をさえぎる声と同時に、キツネ耳ヨロイの背後からアクロさんの回し蹴りが入る。

 無防備状態で攻撃を受けたキツネ耳ヨロイは大きく横に吹き飛ばされて地面を転がった。

「き、さま……!」

 転がりから体勢を立て直し、キツネ耳ヨロイはアクロさんをにらみつける。

 『清涙の歓喜』の衝撃を受けたアクロさんはスーツの装甲にひびが入るなどボロボロだった。

 だがしっかりと構え、アクロさんも負けじとにらみ返していた。

「誰かに決められて生まれたんじゃねぇ、自分で望んでここにいるんだ!望んで生まれた命を、他人の感情で消されてたまるか!」

「黙れ黙れ黙れ黙れぇ!邪魔なんだ!あの姿で、奴が生きていることが気に食わないんだ!」

 激昂したキツネ耳ヨロイは私の方に視線を移し、ランスを構える。

「させるかよぉ!」

 キツネ耳ヨロイが動く一瞬の前にアクロさんがキツネ耳ヨロイと私の直線上に蹴りを入れる。

 アクロさんの蹴りはタイミングよくキツネ耳ヨロイの突進のランスに当たり、攻撃の向きを変えてくれた。

 おかげで凄まじい突進は私のすぐ横を通り過ぎていった。

 攻撃を外したキツネ耳ヨロイはすぐに反転し、私に向けて高速の突撃を続けていく。

「キレたか?一気に攻撃が荒くなったぞ」

「私の攻撃の影響かもしれません。私が彼にやった攻撃は絶望を力としているのですが、その力は威力だけでなく心にも侵食します。侵食された負の感情が、爆発してやぶれかぶれになっているのかもしれません。ただし、怒りに任せた力で威力が上がっているかも……」

「あー……つまりヨロイ殿の攻撃は相手に混乱を付与するが、攻撃力強化まで付けちゃう感じなのか。だいたいわかった」

 アクロさんが言った感じで正解だろう。

 キツネ耳ヨロイは絶望を無効化したと言っていたが、もしかしたら威力だけが無効化されていただけで、キツネ耳ヨロイも知らないうちに絶望の影響を受けていたのかもしれない。

 あともう少しで私をしとめられるところまでいったが、アクロさんという邪魔が入り上手く行かず、自分と違う考えを突きつけられた怒りなどもブーストさせているとしたら……

 自分の力だが、いやな能力だ。

 動きは雑になり狙いが甘くなっているので避けやすくなっているが、速いということは変わらないのでいつまでも避けられる自信はない。

 そして、怒りで威力が上がっている可能性もあり、当たったらひとたまりもない。

「もともと話を聴いてもらえる状況ではなかったですし、仕方ないですがキツネ耳ヨロイの動きをどうにかして止めて、強力な一撃を与え沈黙化させるしかない」

「強力な一撃、か。ヨロイ殿に当ては?」

「1分ほど時間をもらえれば、可能のはずです」

「わかった。それじゃあ、あいつを止めるのは任せろ」

「お願いします」

 私とアクロさんはお互いに頷いて意見をまとめると、それぞれ反対方向に動いてキツネ耳ヨロイの攻撃を避けた。

「クマ耳ヨロイィ!」

 予想通り、キツネ耳ヨロイは私を標的にする。

「貴様だけは!」

 再び高速の突進をかける、そのはずがキツネ耳ヨロイは動かない。

 正確には上半身は動こうとしているが、下半身……足が地面から離れようとしない。

「なんだ、これは……くそ!」

 キツネ耳ヨロイは忌々しげに足元の地面にランスを突き立て、光球を発生させて地面を爆発させる。

 すると、爆発した地面の中から緑のゲル状の物体が飛び散った。

 飛び散った緑のゲルは、すぐに集まって小さなスライムの姿になっていく。

「死ぬかと思ったわ!殺す気か!」

「その声、リントさん!?」

 さすがに私もびっくりして声を上げてしまった。

 もとの空間にいるはずでは?

「ヨロイさんのピンチに自分も助けに行かないわけないでしょ。アクロと一緒に来てたけど、こういう事態のために地面に潜って機会を待ってたわけよ」

「たかがスライムの分際で……!」

 ちいさいスライム状態でふんぞり返っているリントさんにイラついたか、キツネ耳ヨロイは手に持ったランスを大きく振り上げる。

「おっと、こっちに構ってるヒマ、あるかな?」

「背中がお留守だぜ!」

 キツネ耳ヨロイは背後からの声に振り向くと、上空からのかかと落としで襲い掛かるアクロさんの姿があった。

 だが、アクロさんとキツネ耳ヨロイの距離はどうしてもかかと落としは当たらない間隔に見える。。

「距離を見誤ったか!」

 キツネ耳ヨロイがアクロさんを嘲笑おうとした時だった。

 アクロさんの全身から紫色のオーラが吹き出し、オーラは巨大な恐竜の姿を形作る。

 オーラで作られた恐竜はアクロさんが届かないはずの距離を埋め、大きな口を開けてキツネ耳ヨロイに襲い掛かる。

 とっさのことに回避行動に移れず、上から襲い掛かる恐竜の上顎をキツネ耳ヨロイはランスを横にして受け止める。

「くっ、この程度!」

「おいおい、俺の攻撃はまだ終わってないぜ!」

 キツネ耳ヨロイの目の前でかかとをついたアクロさんは、前に突き出していた足を地面につけたまま半円を描くように後ろに動かす。

 アクロさんは低姿勢から一気に宙返りをしながら蹴り上げる。

 その動きに合わせて恐竜の下顎がキツネ耳ヨロイを切り裂いていく。

「アクロカント・バイトォ!」

「ぐぁあああ!」

 アクロさんの攻撃でキツネ耳ヨロイの体は宙に上げられる。

 その隙を狙い、アクロさんとリントさんがさらに動き出す。

「リントォ!」

「あいよぉ!」

 アクロさんの声にリントさんが反応する。

 緑のスライムボディがぼこぼこと泡立ったかと思うと一気に膨れ上がり、アクロさんと肩を並べるほどの大きさのヒーローのような姿へと変わる。

 二人は同時に飛び上がり、打ち上げられたキツネ耳ヨロイに向かって追い打ちをかける。

「「バーチャルライダーダブルキーック!!」」

 二人の蹴りはキツネ耳ヨロイの体に直撃し、また大きく飛ばされる。

 そして、キツネ耳ヨロイが吹き飛んだ方向に、私がいる。 

 私は剣を肩に乗せ、キツネ耳ヨロイに意識を集中する。


我は絶望を識るもの

我は過去を嘆くもの


血涙を流した眼を開き、絶望の先の未来を望む

共に歩み、共に目指し、希望をこの手に掴み取る


 詠唱に合わせて剣のヒビが赤く輝き出す。

 ヒビからあふれる光は剣だけでなく、私の体全身に伝わっていく。

 光は剣の力。

 あふれ出る力は足元の地面にも伝わり、大気を震わせ大地を砕く。

 砕けた地面からも、まるで噴火したマグマのような激しい閃光があふれだす。

「いくぞ、キツネ耳ヨロイ!」

 足元が強く輝きだし、私の体は数センチ宙に浮いた。

 体を前に倒すと、まるでスケートのように高速で体が進みだした。

 全身を光に包まれて突撃すると、すぐにキツネ耳ヨロイを射程に入れる。

「おおおおおおおお!」

 私はキツネ耳ヨロイに向かって大きく剣を振り上げる。

 だが、その瞬間にキツネ耳ヨロイも体をひねり、ランスを凄まじい速度で繰り出してきた。

「クマ耳ヨロイィ!貴様ダケハァアアアアアアアアアア!」

 憎悪、そして執念が動かしたのだろうか。

 無理な体勢でありながら、水晶のランスを青く輝かせて『清涙の歓喜』を私に放った。

 位置は顔面、避けられない。

 視界は光で真っ白になり、何かが爆発したような音がしてからは耳も何も聴こえない。

 少しだけアクロさんとリントさんの声が聞こえた気がした。


 いま私がどうなっているのかわからないし、思考も回らない。

 ただ、真っ白い視界の中にうっすらと何かが見えていた。

 鎧の姿で私に似ているが、私ではない、何かの姿。

 キツネ耳のないキツネ耳ヨロイ。

 これはキツネ耳ヨロイの元となったキャラクターの姿。

 様々な敵と拳一つで戦い続ける。

 何度負けて、苦しい状況になっても、立ち上がる。

 そんな雄々しい、彼の姿が、見えた気がした。

 彼が目指したはずの、ヒーローの姿を……


「キツネ耳ヨロイィイイイイイイイイイ!」

 何かが砕けた音がした。

 青い輝きが、私の視界全体に広がっている。

 だが、私はそんなことを気にせず、振り上げた剣を改めて力強く握りしめた。

 握りしめた瞬間、剣の光は赤から黄金へと変わる。

 剣の光は高く伸び、雲を吹き飛ばし空を貫いた。

「輝け!『(ブラッディー・)涙の(ティアーズ・)嘆き(グリーフ)』ゥウウウウウウウウウウ!」

 私は剣を思い切り振り下ろした。

 振り下ろされた光はキツネ耳ヨロイの体に直撃する。

 剣を振りぬき、私はキツネ耳ヨロイの体を抜けて3メートル程進んだところで止まった。

 私の背後で爆発が起こる。

 おそらく、先ほどの一撃でキツネ耳ヨロイに放ったエネルギーが爆発したのだろう。

 一呼吸し、振り向いて爆心地を見た。

 キツネ耳ヨロイがうつ伏せで倒れている姿が見え、そばには水晶が砕けてしまったランスの残骸があった。

 若干うめき声が消えているので、死んではいないな。

 うん、セーフ。

「ヨロイ殿!」

「ヨロイさん!」

 ほっとしていると少し離れたところからアクロさんとリントさんが駆け寄ってきてくれていた。

 私も安心し、二人の方を向いた。

「アクロさん、リントさん。助かりました、ありがとうございました」

「………」

 何故か二人が駆け寄ってくるポーズでピタリと固まった。

 嫌な予感がして振り向いたが、キツネ耳ヨロイが起き上がる様子もない。

 ……うん?

「二人とも、なにか?」

「ヨロイさん、その顔……」

 顔?

 不思議に思いながらも私は自分の顔に触れた。

 そこに普段の私の感触ではなかった。

 私のマスクは砕け、隠していた鋭くとがった顎と赤く輝く二つの目が出ていることに気づくのはそう遅くなかった。


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