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今日も今日とてクマ耳ヨロイ  作者: クマ耳ヨロイ
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第1話 過去に襲われるクマ耳ヨロイ_1

 私の名前はクマ耳ヨロイ。

 バーチャル世界という電脳空間の住人の一人だ。

 今は友人のリントさんと一緒に、他の友人との待ち合わせ先に向かうために街中を歩いている。

 リントさんは二本の角を生やした小型のスライムで、人型やドラゴン型など色んな姿になれる。

 今も人型に変身して歩けるのだが、面倒くさがってスライムの姿で私の肩に乗って移動を任せている。

 代わりに地図ウィンドウを開いてもらって道案内をしてもらっているから問題はないのですけど…。

 それでも暇なのか、小さなスライム体を横に揺らして通行人を見回している。

「本当に、一年ちょいでバーチャルもかなり増えたよなあ」

 街には人間、ロボット、アンドロイド、獣人、魔王、勇者などいろんな姿のアバターが歩いている。

 私が生まれた一年前は確か観測された全体数が二千くらいだったか。今では8千以上とか。

「最近は人型…というか、人間タイプのバーチャルが急激に増えましたね」

「自分が参入した昔は色んな異世界が人間たちの電脳空間を介して繋がってたけど、今は人間たちの世界から電脳世界に来る方が多いからね。人外型も増えちゃいるけど、今は目立つようになったよねえ」

「電脳空間に入るためのアバター作成ソフトが増えましたものね。私たちとは違って最初から3Dだったり…」

「便利な時代になったねえ。あ、ヨロイさん、次の角を左っす」

「了解です」

 リントさんの指示にしたがって角を曲がり細道に入る。

 二メートルある甲冑の姿の私が二人も横に並べない程の細道、向かいから誰も来なくてほっとした。

「そういえば、ヨロイさんの魂さんがハッキングされたって言ってたけど大丈夫だったん?」

 リントさんはキョロキョロしながら声をかけてくれる。

 数日前に今日の用事の打ち合わせをやった際、ちょっとだけした話題だ。

 私の住居としている我が魂(私の体を作成した方のことだ)の使用しているPC端末、そちらにハッキングの跡があったという話だ。

「今のところは大丈夫そうです。一つだけ画像データがなくなっていたそうですが、それも重要なものではないそうですし」

「何も大きな被害がないといいけどねえ。どんなのがなくなってたの?」

「私の別タイプの姿の画像ですね。クマ耳じゃなくてキツネ耳の私の姿です。我が魂が過去に考えた作品をモチーフにした姿で、姿だけではなく武器も変わっているそうです。私もちらっと見た程度ですが……」

 我が魂本人が「まあ、大きい実害は出てないし大丈夫じゃない?」とかなりのんびりした回答をしていた。

 いや、実害が出てからでは遅い気がするのですが……

「見たかったなあ、キツネ耳ヨロイさん」

「ふふ、きっとまた我が魂が描かれますよ」

 あと少し進めば細道を抜けて、大通りに出る。

 そこからは目的地まで一直線だ。

 私は時計ウィンドウを表示させると集合時間に余裕があることを確認した。

「時間にはだいぶ余裕があるので、どこかでお茶でもしますか」

「外で待っとくのも怠いし、いいかもね」

「それじゃあ、早速お店でも…」

 私はウィンドウに向けていた視線を前方に戻した。

 暗い細道から明るい大通りへ出る出口のため、細道の先から光が差し込んできている。

 しかし、出口の真ん中にローブを羽織った人物がまるで通せん坊をするかのように立っていた。

 私は体を傾けて無理やり通ろうかと思ったその瞬間、私の視界は青い光に包まれた。

 胸元に巨大な衝撃が襲い掛かり、大きく後方に吹き飛んだ。




 気が付けば仰向けに倒れ、木漏れ日の降り注ぐ木々が視界に広がっていた。

 胸元に当たった衝撃は全身に広がり、手足の先まで痺れるような痛みが伝わっている。

 それでも私は状況を早く知るため、なんとか上体を起こし前方を確認する。

 視界に広がったのはたくさんの木々が生い茂る森、そして私から10mほど先に離れた場所に先ほど見かけたローブの人物が立っていた。

 右手には先端に青い巨大な水晶が付いた杖を持っている。

 ローブの人物の後ろでは空間が歪みが見えていたが、すぐに消えた。

 一瞬見えた歪みの向こうには先ほどまでいた細道が見えた気がした。

 おそらくあの歪みはバーチャル世界を繋ぐゲート、私はこの謎の人物の奇襲を受けてここへ無理やり連れてこられたのだろう。

 肩にいたリントさんの姿はなかった。

 吹き飛ばされた際に離れたのだろうが、一緒の世界に来ていないことを望むのみだった。

 とりあえず、今は自分のことに集中するしかない。

「貴様は、いったい……」

「………」

 声をかけたが相手からの返事はない。

 相手は手に持った杖でトンっと一回地面を軽く叩いた。

 すると周囲の木々から無数の蔓が私に向かって伸びてきた。

「こ、これは……!?」

 体のしびれで上手く抵抗できず、蔓は私の体を宙づりにして瞬く間に全身を包み込んでいった。

 蔓の締め付けは強くなり、ギシギシという音が蔓だけではなく体からも聞こえてくる。

「ぐ…ああぁ……!」

 抵抗できる力もなく、ただ痛めつけられるしかなかった。

 蔓の隙間から見える相手はこちらに杖の先端を向けて構えている。

 水晶からは凄まじい青い光があふれている。

 最初の不意打ち以上の攻撃がきたら、体がどうなるかわからない。

「くそっ……!」

 もがき逃げようとする意思とは裏腹に蔓に包まれた体はピクリとも動かない。

 ここまでなのか……! 

「くたばれ」

 初めて聞くはずの相手の声。だがどこかで聞いたことがあるような気がする。

 しかし、それを考える暇もなく視界に青い閃光が広がっていく。

 死を覚悟し、悔しさで光をにらみつける。

「アアアアアアアアアアアアアッ!!」

 やけくそで叫んだ。

 その叫びに応えるように、青い光が赤く染まった。

 ……いや、違う。

 突然、目の前に現れた物体の放つ赤い壁により、相手の放った青い光はかき消されたのだ。

 蔓に絡まれた私の前には黒い石の塊のような大剣が宙に浮いていた。

 全体に広がるヒビは血管のように赤く、脈動を打つように輝いている。

 『(ブラッディー・)涙の(ティアーズ・)嘆き(グリーフ)』、私の剣だ。

「チィッ!」

 相手は忌々しげに声を上げると杖先からいくつもの光球を放つ。

 だが放たれた光球は全て『血涙の嘆き』の障壁により防がれてしまう。

 その間に私の体から痛みとしびれは消え、先ほどまでの私になかった力があふれだす。

「ハァッ!」

 腕を大きく開き蔓を引きちぎった。

 体に絡んでいる他の蔓も次々に取り払っていく。

「なんだと!?」

「この大剣、『血涙の嘆き』は私の力の源。これがそばにあることで、私は本来の力を取り戻す。これくらいは造作もない」

 蔓から抜け出した私は宙に浮く剣をつかみ、剣先を相手に向ける。

「これ以上私の命を狙うのであれば、私も容赦は出来ません。私や他者に対してこのようなことをしないように誓い、ここから去りなさい!」

「ここまでやって、いうことを聞く馬鹿がいるか!」

 相手は聞く耳をもたず、複数の光球を放ってきた。

 そのすべてが『血涙の嘆き』の障壁により消滅していく。

 ……仕方ないか。

 私は剣を天に掲げ、詠唱する。


我は命を望むもの

我は未来を掴むもの


過去を呪い、現在を恨み、未来を嘆く

世界は残酷に満ちていることを識る


 詠唱に共鳴し『血涙の嘆き』のヒビからあふれる赤い輝きが強さを増し、刃の根元にある赤い石から出る黒いオーラが私の全身を包み込む。

「絶望に染まれ!『血涙の嘆き』!!」

 天に掲げた剣を大きく振り下ろして地面に叩きつけた。

 刃で砕けた地面の隙間から、栓が放たれた水のように黒いモヤが吹き出した。

 モヤに触れた植物は時間を早送りにしたかのようにみるみると枯れ、朽ち果てていく。

 あふれ出るモヤは止まることを知らず、空へ広がり黒雲を作って世界を包み込む。

 森は跡形も残らず枯れ、周囲には荒野が広がるのみとなった。

 そして、影響があるのは自然に対してだけではない。

 少し前まで杖を構えていたローブの人物は自力で立つ力も残っておらず、膝を地につけて杖に寄りかかっていた。

 杖を握る手もガタガタと震え、正常な状態とは思えない。

「聞こえているかわかりませんが、『血涙の嘆き』には三つの能力があります。その第一の能力が、今使用している世界を絶望に染める能力。この剣は世界に放つ絶望は射程範囲はなく、この世界全てを包み込む。そして絶望は無生物や生物関係なく染め上げる。無生物であれば無限時間を進めたように朽ち果て、生物であれば絶望の感情・記憶・衝撃を注ぎ込まれる。それは無感情な者も例外ではなく、絶望を強制的に植え付けます」

「くっ……」

「絶望を植え付けられたものは心に激しいダメージを受け、肉体に多大な影響を与える。動くことも、喋ることも辛いでしょう」

 本来は相手を精神崩壊やショック死させるものなのですが、今は出力を下げて能力を下げる程度にしています。

 さすがに殺すのはよろしくないので。

「最後に、もう少し痛い目にあってもらいます。これ以後、おかしなマネはしないようにしてください」

 私は腰を沈め、剣を居合いのように左脇に構える。


我は歓喜を歌うもの

我は幸福を願うもの


聴こえる煌きを憎み、視える輝きを妬む

世界に己を知らしめる術を説く


 詠唱に応えるように世界中に広がったモヤが激しく動き出す。

 今までなかった風が私を中心に吹き荒れる。

 風は強風へ、強風は嵐へと姿を変えていく。

 嵐は大気を切り裂き、女性の叫び声の様な音を上げて漂っていたモヤを巻き込んでいく。

 モヤを取り込んだ嵐はその強さを増し、私を中心とした巨大な竜巻を作り出す。

「絶望を叫べ!『血涙の嘆き』!!」

 横一閃、大きく剣を横に振るう。

 嵐は私に従うように激しさを増し、力を失っていたローブの人物を吹き飛ばし、吹きすさぶ天変地異の中にさらっていった。

 この嵐は先ほどの第一能力で出した絶望の力をエネルギーとし、風に刃が仕込んだかのように巻き込まれたものをズタズタに引き裂いてしまう。

 これでも威力は加減しているが、これ以上は危険だろう。

 なにより、嵐が私を襲いはしないが、これらの能力を使用することで私にも絶望のエネルギーが襲ってきている。

 この状態を維持すると、私も絶望の力で心も体も朽ち果ててしまう。

 長時間使用する能力ではないのでそろそろ能力を止めるとしよう。

 そう思い、剣を地に刺した時だった。

 嵐が止んだ。

 前触れもなく、一瞬で、嵐が止まる間に私の意識がなくなったかのように。

 先ほどまで暗雲が漂って空の隙間も見えなかったはずが、今では雲一つない晴天となっていた。

「これは…」

 何が起こったのか理解できず、呆然としている私の目の前に何かが落ちてきた。

 それは音もたてずに、綺麗な着地をこなした。

 ズタズタにされたローブの切れ端が見えることから私が吹き飛ばした相手だと思われる。

 だが、ローブが引き裂かれたことでその姿があらわになっていた。

「理解した。この力が、お前の能力か…」

「その姿は…」

 私と同じようなデザインの甲冑だが、細部は異なり色も白と青の明るいカラーリング。

 そして何より兜から生えた獣の耳。

 その獣は……

「キツネ耳…ヨロイ……」

「戦闘能力があるのは知っていたが、経験はないと思い油断していた。経験がなくとも、この威力は脅威だな。これからは全力でいくぞ」

 キツネ耳ヨロイは杖で地面を軽く叩くと、先端に付いた水晶が上へと細く鋭利に伸びていく。

 それはもう杖ではなく、巨大なランス。

 ランスへと変化させた武器を構え、キツネ耳ヨロイの凄まじい殺意が襲い掛かる。

「俺の得意技は刺突、貴様の能力の礼に俺も見せてやる。俺の技を……」

「何故きみが私を……いや、何故きみが自我を……?」

 私は現状に混乱して動くことができなかった。

 キツネ耳ヨロイは槍を構えた状態で腰を大きくひねり、体を前に大きく出した。

 まるで短距離走のクラウチングスタートのような姿だった。

 そしてキツネ耳ヨロイがちょっと前に動いたかと思った瞬間……

 視界に広がる光、胸元への衝撃。

 最初に受けたキツネ耳ヨロイからの奇襲と同じやられ方だった。

 だが、威力は桁違いだ。

 私は自分の体に大きな穴が開いたのではないかと錯覚するほどの衝撃を受けた。

 体がまっすぐ後方へ吹き飛ばされ、周囲の風景が高速で前方に流れていく。

 数秒して崖に激突し、背中に激しい衝撃がきてようやく流れる視界が止まった。

 背中の感覚があることで自分の体に穴が開いていないことを認識する。

 胸部の鎧は大きくへこみ、キツネ耳ヨロイの技の凄まじさを物語っている。

 『血涙の嘆き』の強化がなければ私はさきほどの死んでいただろう。

「ぐ…ぅ……」

 力が入らず、意識が朦朧とする。

 かなりの重傷となってしまった。今同じ技を食らえば確実に死ぬ。

 かすんだ視界に私以外の影が映る。

「『(ブルー・)涙の(ティアーズ・)歓喜(ディライト)』、貴様の『血涙の嘆き』とは対をなす武器にして技だ。力の根源は希望。この希望の力が、先ほどのお前が放った絶望の力を無効化した」

 絶望の無効、それで『血涙の嘆き』の第一、第二の能力を消したのか。

 そんな能力があっては絶望の力で戦う『血涙の嘆き』の能力は全て無意味となってしまう。

 『血涙の嘆き』以外の力は私にはない。

 私ではキツネ耳ヨロイに勝てない。

「目的は……なぜ、私を……」

 私はなんとか上体を起こそうとしたが、間髪入れずに体へ蹴りを入れられ壁に押し付けられる。

 キツネ耳ヨロイは青い槍の先端を私のへこんだ胸元に突きつける。

「何故?お前にはわかるまい。俺は貴様を作り出した魂、その創作物だ」

「創作物……作成されたキツネ耳ヨロイのイラストが私と同じように魂を得た、ということなのか?」

「違う、貴様が生まれるもっと昔、魂の作成した物語のキャラクター。それが俺だ」

「魂の作り出した想像の創作物……それが意思を持ち動き出したのか」

 彼は、我が魂の記憶と感情から生まれた存在ということなのか。

 彼の聞いたことある声が何かようやく分かった。

 これは我が魂の声、私と同じ声なんだ。

 我が魂から生まれた彼は、我が魂の情報を持って顕現したとすれば、私と同じように我が魂の性質を受け継いでいるのも頷ける。

 だが、それだけでは私を襲う理由なんてどこにもない。

「そして俺がなぜ貴様を襲うのか…」

 キツネ耳ヨロイは槍を引いたと思ったら、へこんだ鎧のヒビに勢いよく突き刺した。

「あ…あああ……!」

「貴様が、憎くて憎くて仕方ないからだ」

「ぐぅ…私が、憎い…?」

「俺は、貴様よりも昔の魂を知っている。彼がいくつもの物語を書き、キャラクターを作り、夢を持ったことを知っている。楽しみ、頑張り、作り続けた。だが、否定された。夢も希望も!折れ、諦め、ただ時を流すだけの人生を進み続けた!そして今、彼は再び夢を見始めた。このバーチャルという世界に。だが、そこでなぜお前が、その体を使うのか!俺は!それが!許せない!」

 最初こそ穏やかな語りであったが、段々と声に熱が入り、ランスを持つ手に力が入っていく。

 何度も何度も、私の胸を突き刺していく。

 私の体に血は流れていないが、鎧のヒビは広がりランスは深くへ突き刺さっていく。

「その体は、魂が初めて電脳世界に足を踏み入れた際に作成したデザインが素体となってできたもの!その体を使い、お前は何をしてきた!?生まれ、歩み、何を残してきた!?」

 何を残したか……。

 そう言われて、私は何も答えられなかった。

 今の彼に胸を張ってこれを残した、と言えるものを思いつかなかった。

 何も答えない私に、キツネ耳ヨロイのランスを持つ手からギリギリと音がした。

「貴様がバーチャルとして命を懸けて生き、日の目を浴びれば魂も報われよう!だが、貴様は、何も残せていないのか!!」

 キツネ耳ヨロイは両手で振り上げたランスを私の体に突き立てた。

 ランスを抜き、振り上げて刺す。

 抜いては、刺す。何度も、何度も。

 繰り返される攻撃に私の鎧はもう防具としての機能はあまりなく、とうとう先端が体を貫いた。

「許せない!その体を使うのが許せない!生まれたことが許せない!何もせず、のうのうと生きているだけの貴様を!俺は!許せない!!」

 ランスで体を貫かれるたびに私の体が衝撃でがくがくと揺れる。

 キツネ耳ヨロイは何度突いても私の反応がなくなったことに気づき、肩で大きく息をして落ち着かせる。

「……お前はこの世界にも不要な存在だ。貴様がいなくなれば、そのぶん他のバーチャルに人が集まるだろう」

 青く輝く切っ先が、私の顔面に突きつけられる

「ふっ、誰もお前がいなくなっても悲しむ奴なんていない。いたとしても、時間が経てばすぐに忘れる。お前のやってきたことはその程度のことだったのさ」

 キツネ耳ヨロイは大きく槍を振り上げる。

 ……そうか、忘れてくれるのか。

 走馬灯なのか、視界に仲良くしてくれたバーチャルたちの顔が浮かぶ。

 一緒に話し、遊び、笑った皆の顔が。

 私がいなくなったら悲しんでしまうだろうか。

 だが、キツネ耳ヨロイの言う通り、きっと時間が解決してくれる。

 悲しんでも、きっとまた笑ってくれる。

 確かにそれなら、安心だ。

 安心して、消えられる。

 私の視界は暗くなり、キツネ耳ヨロイからの最期の一撃を待った。

 そこへ、


「今、俺のダチを笑ったなぁ……?」


 私でもキツネ耳ヨロイでもない声が聞こえた。

 だが、私は聞いたことのある声だった。

 はっと顔を上げると、私に槍を構えるキツネ耳ヨロイの背後に何かがいた。

 キツネ耳ヨロイの背丈を超える大きな紫色のオーラ。

 そのオーラは何かの形を取っているように見えた。

 そう、まるで巨大な恐竜が大口を開けて襲い掛かっているかのような。

「!?」

 キツネ耳ヨロイはとっさにその場からとび退いた。

 と、同時に先ほどまでキツネ耳ヨロイが立っていた場所に大きな衝撃音が響き、周囲に砂煙が巻き起こる。

 砂煙は大きく広がり、中心地近くにいる私もそばで何が起こったのかわからない。

「いったい何が……!」

「何があったかだぁ?お前は俺の友達を傷つけた。そして、俺が助けた……」

「くっ……!」

 キツネ耳ヨロイがランスを横に払い風を起こすと、砂煙が晴れてじょじょに乱入者の姿が見えるようになってきた。

 乱入者の足元は先ほど衝撃の影響か地面にヒビが入っている。

 黒と紫の鎧を身にまとい、大きな黄色の目がギラリと光る。

 彼はキツネ耳ヨロイから私を守るように前に立ちはだかる。

「貴様、何者だ!?」

 キツネ耳ヨロイは彼にランスを構え、乱入者も迎え撃つように両手を上下に構える。

 その構えからは獲物を前にした肉食竜のような獰猛さを、そしてその背中からは力強さと頼もしさを感じる。

 戦う姿は初めて見るが、私は彼を知っている。

「通りすがりの、ダークバーチャルライダーだ……!」

「アクロさん!!」

 ダークバーチャルライダー・アクロ、私の大切な友人の一人だ。


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