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神さまイタズラ その1

こんばんは、お久しぶりです!『死にたい僕と、生きたいキミ』の更新です!

それではどうぞ!

  『僕』

 

  闇の中から意識が浮上する。そんな表現が一番近いと思う。

  次第に戻ってきた感覚は、ベットのスプリングを感じ始め、布団の温もりを感じた。

  朝が…来たんだな。

  ゆっくりと瞼を持ち上げて、大きく息を吸う。

  ほんのりと残ったコーヒーの匂い、真白な天井。ハンガーにかかった洋服。間違いなく僕は()()()()()()()()()()()らしい。

  頭をぼりぼりと掻きながら上体を起こす。窓から射し込んだ日光がちょうど僕の目を突き刺した。

  舌打ちと同時に目を細める。

「なんだよ…効果ないじゃん。」

  壁に掛った時計を見ると時刻は既に9時半を指していて、普通の高校生である僕にとっては一時間の遅刻ということになる。

  そしてもう一回舌打ち。

「面倒だな…」

 季節は冬、朝は十分に冷えこむ。だからこの温もりから抜け出してしまうのは実に残念なことだが、ノートを誰かに写させてもらったり、なんと言っても今日の席替えで誰かに机を移動してもらうのはしたくない。

  ため息をついてしまいたいが、それを吐き出すともう一度布団の中に戻ってしまいそうなので、ため息を噛み殺し、ベットの外へ。

  部屋を出る途中、床に落ちていた白いボトルを蹴り飛すと、カランカランと音を立てて部屋の隅まで転がった。どうやら、昨夜全部飲んだと思っていたら、実はまだいくつか残っていたらしい。

  ひとまず朝食を取るためにドアノブを捻る。

  そして、ドアが閉まる寸前の隙間からは、さっき蹴り飛ばした睡眠薬のボトルが目に入った。

 

 

  朝食を済ませて、家を出て、既に遅刻しているのでもう、そんなに慌てる必要がなくなった僕が学校に到着したのは昼過ぎのこと。

  手の自由が効かなくなる程冷え込んだ通学路を歩いておおよそ1キロ弱。小高い丘の上に存在する、豆腐のように真四角で、真っ白なこの建物が僕の通う高校だ。

  階段をゆっくりと上がり、廊下を進む。

  まだ睡眠薬の効果が少しだけ残っているせいだろうか、学校全体がいつもより騒がしく感じる。

  すると、校舎内でさえ息が白くなるぐらい寒いと言うのに、開いたままのドアが目に入った。中から暖かい空気と共に食べ物の匂いが混じり外へ流れ出ているのが分かる。これじゃ暖房がなんの意味を成しているのか分からないな…

  その事をみんな気がついているはずなのに誰も閉めない。きっと誰かが閉めてくれる。そんなことを考えて常に他人任せ。日本とはそういう国だ。

  暖かい空気と一緒に食べ物の匂いの通り道となっていたドアを閉めた。 その瞬間、ムワッとした悪い空気が教室を充満する。

  さっそく自分の席につくと僕はコンビニで買ってきたものを広げた。ツナマヨのおにぎり、サラダスパゲティ、サラダチキン。

  炭水化物が多くなってしまったが、まぁいいだろう。

「いただきます」

  割り箸を割った。



  僕…

  雪ノ下蒼葵(ゆきのしたそうき)は、あえて形容するなら、一部除いて普通の高校生である。歳は18歳と3ヶ月、身長171センチ、ウエストは…これ以上は長くなるので自重しよう。イメージとしてはGoogleで『日本人 平均』と調べたのものだと思ってもらいたい。

  そんな普通の高校生なのだが、一つだけまさにイレギュラーみたいな一面がある。

  そのことに関して皆からこう言われた。


  ―空気読めない。

  ―異物混入。

  ―おせちのイワシの1匹だけ逆方向向いているやつ。

 

  まぁ、僕的に最後のやつはセンスがあるからちょっとだけ好きなのだが、とりあえず世間一般的に見て『雪ノ下蒼葵』は致命的なコミュ症らしい。

  その証拠に小中高と合わせて友達と呼べるのは、両手で指折り数えても薬指と小指が残ってしまう。

  そんな1匹だけ逆方向を向いているイワシは、文字通り部活や帰宅でみんなが歩く方向とは真逆の図書室に向かっている。

  何の変哲もない廊下をどこまでも紅く、西日が色彩を付けていた。

  その廊下には当分の間、コツコツと僕の足音だけが寂しい廊下に響き渡る。

  進んだ先の重そうなドア…と言うより、その見た目からはむしろ扉と言った方が正解だろう、僕は図書室の扉の前に立った。図書室の扉だけは他の教室のような引き戸とは違い、本の劣化を極力防ぐため、より密封性が高いドアノブがついているタイプの扉になっている。

  ドアノブを握り、下に捻る。一連の動作を繰り返し、開かれた扉からは古びた本と新品の本の匂いが吹き抜けた。

  スゥーと息を吸って肺の中に本を満たすと、満足感と共に吐き出す。まるでタバコを吸っているみたいだ、なんて少しだけ自分で思っていたりする。

  ちなみにタバコ好きを一般に『ヘビースモーカー』などと言うが、僕のこの行為をあえて形容するなら『ヘビーブッカー』みたいになるんだろうか。

  本の匂いだけで今日一日のストレスと、眠気を発散した僕は奥へ足を進める。

  この高校の図書室はそんじょそこらの本屋や公民館よりも大きく、またかなりの書庫数を誇る。それゆえ、毎週日曜日に図書室のみ一般公開がされている。ちなみに原則として一般人への貸出は禁止とのこと。

  さらに言うと、さすが腐っても新学校だ。図書室の大きさは大雑把に体育館の半分ほどの面積を有していて、本を読めるスペースが用意されている。

  パソコン完備。冷暖房完備。非の打ちどころのないこの図書室は、本好きの間では天国とまで謳わるほど。

  そして、この図書室こそが僕の入学理由と直結すると言うわけだ。

  何人かの生徒が椅子に座って読書をしているのを尻目に、僕はさらに奥へと向かう。今回の目的は何千部とある本を読み漁るためでも、この空気を吸いに来た訳でも無い。

  『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたA4サイズの紙が貼り付けられている、黒塗りの高級感漂う扉の前に立つとドアノブを下に捻る。キィーと古風な音が薄暗い部屋に鳴り響いた。

「うぃーす、古川いるか?」

  その声に帰ってくる返答は以外にも早かった。

「いません、お引き取り願います」

  彼女は僕に目を向けず、本棚の整理をしながらそう言った。後ろ髪が肩で忙しそうに揺れる。

「なんだよ、冷たいな…」

「だって、私が雪ノ下を暖かく歓迎する理由なんて無いでしょ?」

  それに。と彼女は続けた。

「暖かく接したところで意味無いじゃん。 ()()()だけに。」

  と、振り返ったこの瞬間、初めて僕と視線を合わせる。

  僕は思わず「さむっ…」と身震いする仕草を見せた。

  そして少しの沈黙の後「雪ノ下」と僕を呼ぶと、ドアに向かって人差し指を立てる。

「そこの張り紙読んでくれた?」

「もちろん読んだぞ」

「うん、私が愛情込めて作ったの、素敵でしょ? だからさっさと帰って。私は現在進行形で忙しい」

  シッシと手で払う動作を見せ、古川は再び作業を始めた。こうなってしまっては仕方がないので一度中に入ってドアを閉める。部屋の中は思った以上に篭った空気で満ちており、一度この悪い空気を換気するように促そうとしたが、たぶん今はまともに聞いてくれはしないのだろう。

  8畳ほどの部屋にダンボール箱と、棚にギッシリと詰まった本。それらがこの空間を圧迫しているせいか実際に使えている範囲はおおよそ半分かそれ以下。

  そんな狭い部屋の隅っこに設置してある椅子に腰をかけた。

「お菓子あるじゃん。いただきます」

  机の上に用意してあったクッキーに手を伸ばす。

  一方、古川の方は、帰って欲しいから忙しいと言ったのもあるだろうが、あながちその言葉は嘘ではないらしい。その証拠に華奢な腕には分厚い本を3冊ほど抱えている。んーと背伸びをして一番上に本をしまった。届かないなら意地を張らず台とか使えばいいのに…

「雪ノ下」

「はい、何でしょう?」

「そのクッキー食べたら、次こそ出禁ね」

  クッキーに触れかけた指を急いで引っ込めた。危なかった…僕の入学式理由である図書室を出禁になる所だった…

  しかし、クッキーを食べるという目先の『コマンド』を奪われてしまった僕は、とうとうやる事が無くなり、残るは低身長にも関わらず棚の一番上にチャレンジする古川を観察することしか無くなってしまった。しかしずっと見ていても「なに見てんの、キモいんですけど…出禁ね」と、あの古川なら言いかねないので、そこら辺に置いてあった本を手に取り読むことにした。

  題名は『そして、君のいない九月がくる』。

  一ページ一ページ、文章を頭の中で映像化していく。

  そして、読み始めた小説が3分の1程に差し掛かったあたりで古川のため息が聞こえた。

「やっと終わった…」

「おう、お疲れ」

「まだいたんだ…もう6時前だよ」

「まぁな、別に帰ってもやることないし、それなら本でも読んでようかなと」

「ふーん、それならここじゃなくて向こうでお願いします。」

  とドアの向こう側を示すように人差し指を立てた。古川はドスッという音をたて、椅子に腰をかけるとさっそくクッキーを口に運ぶ。

「それで、なにかあったの?」

  少しの沈黙を切るように口を開いた。

「さすが古川、ある程度見通させれるって事か。」

「うん、だってここに来る時は大抵本を読みに来るか、相談事でしょ」

  その後に小さく、「ほんとに迷惑だから」と言ったのは聞き流すことにしよう。

「まぁな、こういうことは古川に相談するのが一番得策だと思ってる。それにこの部屋が一番落ち着くし、それにクッキーもある。」

「なるほど、確かに友達が私しかいないんじゃ総体的に頼れるのも私だけになるね」

「なんだ、嬉しいのか?」

  すると、僕をキッと睨み、

「雪ノ下、調子に乗るな。」

  と小さく『出禁』の二文字を顔で示してきた。僕はアハハ…と軽く笑う。

「ごめんって、でも古川を頼ってるのは間違いないよ。」

  これは紛れもない事実だ。本好きで名を馳せている古川は、その本から得た知識でまさに頭脳明晰だった。成績はクラスで常にトップ。高校1、2年生と二年連続で皆勤賞。一方、運動はと言うと筋金が10本入っているぐらいに運動音痴で、100mを25秒という逆好タイムを出したことでも有名だ。そのことに関して本人曰く「今後の人生の中であと何回全力疾走するんだろう。そう考えればきっとこのタイムだって必要ない」とのこと。

  ちなみにそれを見た一部の男子からは、『完全型文化系美人』と評され、図書室に行けば一定の確率で会える。とプチ有名人だ。

  すると古川は、「そう、それで本題は?」とメガネを押し上げた。

  恐らく『頼れる』と言われて嬉しくなったのだろう、嬉しくなるとメガネを押し上げるという照れ隠しを知っている僕は、その仕草に思わず口角を上げる。

  しかしそれもすぐに勘づかれて「なに笑ってんの」と再び睨まれる結果に。

  とりあえず、さっさと本題に移ろう…間違いなく信じてもらえないと思うけど。

  僕は決心を決めて口を開く。

「なぁ、古川って心霊現象って信じるか?」

  はぁ?と拍子抜けしたような声を出す。

「なに、相談ってそういうやつ? つまらない。さっさと帰って。」

  椅子から立ち上がろうとする古川を慌てて止めた。

「いやいや、結構真剣な話だから。頼む最後まで聞いてくれ。」

  真っ直ぐに古川を見据え少しの時間視線がぶつかった。そして、先に折れたのは古川の方。

  はぁ、とため息をつくと椅子に座った。

「分かったよ…それで心霊現象を信じるかどうかだっけ? 私は信じないよ」

  それに関しての説明を続ける。

「まず第一に心霊現象って言ってもいっぱいあるから有名なやつで説明するとポルターガイスト。あれは心霊現象以外にも、風に吹かれただけとか、近くの工事の振動が伝わって皿が落ちるとか、大体のものが科学的に証明できるの」

「なるほど…じゃあ単刀直入に聞くけど、もし古川の身の回りでそういう非科学的な事が起きたら科学的に解決する自信はある?」

  すると、顎に指を添えて少し考えるような仕草を見せた。

「できる範囲でなら…それ以上は高校生のやる事じゃない。」

  と、少しだけ遠回りな発言をした。

  たぶん古川自体にはそれを解決する自信はあるのだろう、しかしそんなふうに遠回りでものを言うのは、出来ることが限られているからだ。まぁ、僕達は高校生なわけで、どれだけAmazonに頼っても科学的に実験や検証、捜査できる道具はある程度しか揃わない。それ以上は警察とかそういう専門の人達のやる事、と言うことだろう。

  でもそこまでを考えて発言をしているのだから、さすが古川だ。やっぱり頼って良かった。

「オッケー。分かった。それじゃあ次の…」

「雪ノ下…さっきから遠回しでくどい、さっさと本題に移ってくれない?」

  シビレを切らしたような口調に僕は唇の端を釣り上げる。少なくともこの話に興味はあるらしい。

  そのことに安堵した僕は、胸を撫で下ろした。

「分かったよ。でも今から言う話は多分信じてもらえないと思う。だけどこの現象について相談できるは古川だけだ。だから僕は古川を頼ってこの話をする」

「どんな話か分からないけど、私が持っている知識で協力出来ることはするよ。」

  そう言った古川は、またメガネを押し上げた。

「ありがとう。それじゃあこの話の始まりは、今から二週間前の深夜のことだ。」

  僕はその時のことを鮮明に思い出しながら、脳で言葉に変えていく。この魔訶不思議な出来事の発端を。

『神様のイタズラ』その1、どうでしたでしょうか?ここで登場した主人公のキャラは、もうどこでもありがちなコミュ症キャラです。さて今回のタイトル『神様のイタズラ』なのですが、今後明かされる2人の不思議な力に沿って考えました。それも含めて、次回更新を楽しみに待っていてくださると嬉しい限りです。

最後に、誤字脱字、感想、アドバイス、コメントなど快くお待ちしております…と言うよりコメントお願いします!やっぱりコメントなどがあった方が活動の励みになります。それでは…おやすみなさい。

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