いきなり生徒同士で戦闘勃発なのです
たまにさいたまの中の厨二が疼き荒ぶるのだ…このようにして…
「これで心置きなくぶっ潰せるんで助かるわ」
リデアの鞘からすらりと剣が抜かれた。
リデアの愛武器。銘刀『薄雲』。
先端の刀身の薄さはミリ単位を数える東洋の職人の狂気と言えるほどの業によって磨き上げられたその鉄塊は鋼さえも『断つ』。
ニホントウと呼ばれるその武器は芸術品の如く凛とした光を放っていた。
対するエイムは既に詠唱を終え大地に身を伏せ手をかざした。途端に巨大な土竜が発生したように土が盛り上がっていく。
エイムの詠唱時間の短さは学園の中でも抜きん出ている。また、土属性の魔術は攻守共にバランスが良い。敵に回すと厄介な所以でもある。
『大地乃憤怒』
大地がうねり対象を追尾するように追い掛けその体を飲み込む術式だ。片足でも取られたら実戦では致命的なディスアドバンテージとなる。
加えてそのいやらしいほどの追尾性能。
リデアが左右への鋭角なステップでかわそうとすると、先回りしてくる。
さらに左右に陣取った二人の生徒たちはエイムよりは火力は劣るようだが、術式を正確に組み上げ広範囲に火球を放ってくる。
足元にも火球にも気を配らなければ即相手の術中に落ちるという状況下でも、リデアは正確無比なステップで追撃を左右にかわし、交差してくる火球を刀で『切り落とす』。
「馬鹿な!?」
「火球を剣で真っ二つに切るだと!?」
「あっはははは!!芸がないわね芸が!!」
端から見るリデアの表情は怖気を振るうような笑顔だった。
「な、なんなんだあの女は…!」
もはや戦いの端緒なんて忘却の彼方。戦いにより生成されるアドレナリンの愉悦に酔っている。
リデアは根っからの戦闘狂だ。
針の穴を通すような正確さで、弾幕とでも言えそうな三人の魔術師の攻撃を左右に躱し、切り落とし切りはらう。
リデアとエイムたちの距離はじりじりと近づいていた。
そんなリデアの様子に決着を焦ったか、手下の二人は長めの詠唱から大量の火球を一斉に放出した。
その時、リデアの赤髪の下に覗く口の端が愉快そうに歪んだように見えた。
瞬間。リデアの奇をてらってようなトップスピードからの鋭角なバックステップ。並みの胆力ではできない芸当だ。
「な!?あのトップスピードで切り返すだと!?」
火球はリデアを追尾する大地にも着弾した。当然の帰結として土煙が一面に舞う結果となる。
「しまった!?」
「どこに行った!!」
「こ・こ♪」
視界を自ら塞がれた手下二人の首筋に氷のような刀身が閃いた。
『凍える天神』
刀身から絶対零度の冷気が放たれる。
「か、体が!!??」
二人の魔術師の四肢は氷の中に封じられた。
「本来であればあんたら程度に魔術なんて必要ないんだけどね、温情よ」
「甘いぞ!七光り女!!」
エイムはリデアの右手めがけて皮の鞭をしならせる。魔法科では(本人が吹聴するので)言わずと知れたエイムの近接戦闘用の隠し武器だ。
リデアは獲物を取り落とした、ように見えた。
「そっくりそのままあんたに返すわ、それ」
リデアは無手になった右手の親指を天井に向かってくいと突き立てた。
「上!?」
修練場の屋根近くまで高く跳躍したカインの影が差した。
「な!足が…!?」
ご丁寧にエイムの足元に突き立った『薄雲』の刀身の冷気により足元は既に固められていた。
もちろんリデアの計算通りである。
戦闘における恐ろしいほどのこの抜け目のなさ、リザイアと並んでアレフガルドの『赤髪の魔女』と呼ばれる所以だ。
「ちゃんと受身は習ったか、エイム!」
それは一応カインなりの優しさであったのだろう。
その一撃の激烈さからすると何の助けにもなっていなかったが。
『炸裂する大地』
「いぎゃああああああああああああ!!??」
カインが着地と同時に振り下ろされた剣は爆発的な轟音を立てて大地ごとエイムを遠くへ吹き飛ばしていった。
もうもうとした土煙が徐々に晴れるとそこにあったのは巨大なクレーターだった。
盾にもなる剣にもなる攻守一体の大型剣による火力で切り込むだけ、と言うカインはそのスマートなルックスからは驚くほど脳筋な戦い方をする。
「カイン…あんた毎度やりすぎじゃない??私だって悪党でも一応生け捕りにするくらいの慈愛はあるんだけど?」
「相手に全力を尽くすのが剣士としての礼儀だろう」
カインは背中に巨大な剣を横刺しにした。
「さて…と、生き埋めになったエイムを探しにいくぞ」
「あんたが吹っ飛ばしたんだから自分で探しなさいよ!!??」