若干暴走気味なのです
「…何してんの…エイム?」
「な、なぜ私だとわかった!?」
「…魔法陣の端っこに自分の名前サインする癖どうにかしたら??」
魔法陣の端っこには、エイムの名前が筆記体で走り書きしてある。
大陸広しといえど、魔法陣に自分のサインを書くのはエイムくらいのものだろう。
どれだけ自分のことが好きなのだろうとハーシュはいつも感心する思いだった。
「余計なお世話だ!!」
「それよりもこれ早く解呪してくれないかな…?せめて顔見て話そうよ」
「く!?ハーシュ!貴様はその顔をもて、また悪戯に私の心をかき乱す気か!!」
「…何のこと?」
「とにかくお前はそのままでいい!!じっとしていろ!!ふんじばれ!!」
『サー!』
「うわ!?ちょっと!!何する気?!」
ハーシュは粗目のロープで手を腰のあたりでぐるぐる巻きにされた。
「さあ!連れてけ!」
『ラジャー!』
そういうとエイムの連れの二人があっという間に小柄なハーシュを担ぎ上げた。
「なんで!?てゆうかこの人たち誰!?」
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ハーシュが連れてこられたのは魔法科の屋内修練場だった。
「ここまで来れば静かに話ができるな…」
エイムは縛られたハーシュを見下ろす形で話す。
「普通に教室でよくない…?」
「ハーシュ!!お前に言いたいことは一つだけだ!!私の恋を返せ!!」
「…はい?」
「なんだその反応はあああああああああああ!!」
エイムは地団駄を踏み始めた。
「何も知らずに告白してきた私はさぞや滑稽だったろうなハアアアアシュ!!」
「(そうか…リデアの言ってた面倒臭いってこう言うことか…!?)」
「なんだその妙に腑に落ちたとでも言わん顔は!?」
「…とにかくこれ外してくれないかな?ちょっと胸の辺りとかきついから緩めて欲しいんだけど…」
ハーシュがもごもごと身動きを取ろうとすると、胸のアンダーを締め付ける縄の影響でバストがいい感じに強調されるのだった。
「なっ…ハーシュ貴様!!この期に及んでまだ私を誘惑して愚弄する気か!」
「…えぇ…流石にちょっとツッコミが追いつかなくなってきたんだけど…」
「黙れハーシュ!!少しぐらい可愛いからといって調子に乗るなよ!!」
「はあ!?なんで!?調子乗ってないよ!?」
「ククク…ハーシュ…貴様にはたっぷりと後悔させてやる」
エイムはジョジョ立ちの風合いでハーシュの前に仁王立ちした。
前から自分大好きだなこの人、とは思ってたけれど本気のエイムがこんなに話が通じない奴だったなんて思わなかった…とハーシュは独りごちる。
「はあ…で、後悔って…どうするの?殴るの?」
ハーシュは若干諦めというか、早く話を終わらせたいがために若干投げやりになってきた。
「う…女性相手にそれは私の流儀に反する…」
「じゃ、じゃあハーシュたんの○○○に○○○を○○○○○○して○○するまで…ハアハア」
脇の怪しげなモブその1が提案してきた。
「誰がお前の妄想の話をしろと言った!?」
「…何を話してるの?早くこれ解いて欲しいんだけど…」
ハーシュは首をかしげる。エイムの顔を覗き込んだつもりが、上目遣いに懇願するような格好になった。
そしてそれがその時エイムの心臓を撃ち抜いた。
「ぐあっ!?」
「ひっ!?」
ハーシュは完全に危ない人を見る目で、胸を押さえうずくまるエイムを見ていた。
「ハーシュ…おのれ貴様ァ…!!貴様のほっぺたはさぞ柔らかそうだな!」
「本意気で何を口走ってんのさ!?」
「うるさい!!問答無用だ!!」
「わ!?」
ふに
エイムの指先がハーシュのほっぺたを突いた。
「…な、何してんの?」
ハーシュはエイムの奇行に若干怯え気味だ。
「(な、なんという柔らかさだ…!?)」
「え、エイムさん…あんだけ言っといてほっぺたツンツンするだけですか!?」
横のモブその2がツッコミを入れる。
「うるさい!これからだ!私を怒らせるとどうなるかとくと見ていろ!!」
エイムはまたジョジョ立ちし直した。
「ハーシュ…私は…今からお前の胸を揉んでやる!」
「(…うわあ)」
ハーシュは完全に引いた。
「ハーシュ貴様!?あからさまに引いた顔をすると少し傷つくだろうが!」
「も、元男の胸なんか揉んで楽しいのか!?っていうか女性に対する流儀はどうしたんだよ!?」
「策士は勝つための手段など選ばない!!既成事実を作った者が勝ちだ!!」
エイムはにじりにじりとハーシュに近づいていく。
「意味がわからないし!!??ってちょ、うわ!本気!?本当に生理的に無理なんだけど!!??」
「ガハッ!?」
『生理的に無理』これ即ち女子の言葉の凶器トップファイブに入るほどの凶悪さを持つ。
※よいこは簡単に使っちゃダメだよ♪
「ハーシュ…貴様言ってはならないことを言ったな…もう謝っても許さんぞ…」
「…言っても無駄だと思うけど…今謝るとこあった…??」
「…ハーシュがどこにもいないと思えば…エイム何してんの??」
「まったく…こんなところで何を油を売っているハーシュ?」
聞き慣れた声がして振り返るとそこには呆れ気味のカインとリデアの二人がいた。
「どう見ても不可抗力でしょ!?」
「見た所随分と香ばしい様子だけど…今ならまだ許してあげてもいいわよエイム」
「カインに七光り娘!!…はっ!剣士風情がほざくな!」
「あ、そうゆうこと言っちゃう??」
リデアのこめかみにぴきっと青筋が立つのが見えた。
「え、エイム…そろそろやめた方が…」
「七光り暴力女に魔術の恐ろしさを叩き込んでやるいい機会だ!!」
言うなりエイムは術式の構成を始めた。
「エ、エイムは本気で怒ったリデアを知らないんだよ!!」
「いいのよ、ハーシュ」
そう慈愛に満ちた顔で笑うリデアからは既に怒りの色は消え去っていた。代わりに首筋の辺りにひやりとした冷気を感じる。
「これで心置きなくぶっ潰せるんで助かるわ」
リデアの鞘からすらりと剣が抜かれた。