TS女子の人気者率の高さたるやなのです(おっと、メタ発言なのです)
ざわざわ…
朝からアレフガルド学園の生徒達はざわついていた。
(あんな子いたっけ?)
(おい、すげえ可愛い子がいるぞ…)
(肌白…綺麗…)
「リデア…」
「何?」
「なんかすんごい見られてるみたいで落ち着かないんだけど…」
ハーシュは新しく新調した女生徒の制服に袖を通して居た。
男の制服と勝手も違うし、スカートはスースーするし色々と落ち着かない。
微かに主張する胸にも慣れないままだ。
「気のせいよ、自意識過剰よ」
「そうなのかな…カインはどう思う?」
「何をだ?」
「なんかすごい見られてる気がして」
「ああ…?見慣れない顔だから物珍しいのだろう。お前がハーシュだとわかればすぐに静かになる」
「そうなのかな…?」
リデアがものすごい胡乱な目でカインを見ているのが目に入った。
「はああああ…(この男は…何もわかってない)」
リデアがものすごくあからさまにため息を吐くが、ハーシュは不思議に思い小首を傾げるだけだった。
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「しかし、ハーシュくん本当にいいのか?」
カインのドア破壊事件から数日が経ち、今ハーシュの目の前にはリザイア、セルシア、ポムデリアの三人が座っている。ハーシュの最終的な復学の方針を決めるためにリザイアの学園長室で話し合いを行っていた。
「いいんです…もちろん変な目で見られるかも知れないし心配ですけど…」
伏せながらも強い光がこもった目でハーシュは言った。
「それよりも自分の犯した過ちから逃げたくないんです」
「ハーシュくんは素直でいい子だねえ」
ポムデリアは両頬杖をついたまま満面の笑顔を向けてくれた。
「ポムデリア先生…」
「でもハーシュくんは少し生真面目過ぎるところがあるのです」
セルシアは嗜めるような顔をしたあと、優しい眼差しでハーシュを見た。
「それで、宿題はどうでしたか」
ハーシュは数日前のセルシアとの会話を思い出した。自らの焦りの根源を明らかにすることについてだった。
ハーシュは数日前のカインとの一幕を鮮明に思い出した。今となってはぼんやりとした靄がかかっていたものがすっきりと明確に見える気がする。
「僕の焦りは親友のことを信じて自分の心の内を話すことができなかったことです」
どんどんと前に進んでいくカインのことをずっと引け目に感じていた。自分も強くならなければならないと自分で自分を追い込んでいた。カインはそんなこと微塵も気にしていなかったのに。
ハーシュは膝の上の拳をぎゅっと握りこんだ。目線を落とすと今の自分の性別の象徴と言える膨らんだ胸が目についた。
「初めからずっと信じてもらえてたのに、そんなこと知らずに一人相撲して挙句…この様です…バカみたいですね」
「ハーシュくん」
気がつくとハーシュの拳をセルシアの手が包み込んでいた。
「そのことに気がつけたから、きっと結果的によかったと思うのです」
「ハーシュくんの今の顔、海から上がってきたみたいにすっきりしててとっても素敵だと思うよ!」
ハーシュが顔を上げると、三人の教師たちの優しい笑顔があった。嬉しい驚きだった。
「困ったことがあればいつでも相談しに来るんだぞ」
「はいっ」
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ざわざわ…
魔法科の教室に入って席に座った後もざわめきは静かにならなかった。
周りを見渡すと咄嗟に目線を外す生徒か、なぜか顔を真っ赤にする生徒か、目が合ったことに対してきゃいきゃいと喚く生徒の3タイプだった。
そんなに自分は不自然だろうか、ハーシュは急に不安に襲われる。
どうしよう、非常に居づらい。いたたまれない。
耐えられなくなったハーシュはせめて参考書を読んでいるフリをしてやり過ごすことにした。
と、机のそばに影が近づいて来るのが見えその影は目の前で動きを止めた。
ハーシュが参考書から顔を上げるとそこには見知った顔があり、そのことでハーシュは少しホッと安堵を覚えた。
「あ、エイ…」
「麗しき銀髪の君、どうか貴女の御名を教えてくれないか」
エイムはハーシュの両手を強引に掴むとハーシュの座っている机の前に跪いた。
エイムのいつになく真剣な表情にハーシュは目を白黒させた。男に両手を包み込まれている気色悪さは驚きで二の次だ。
「え、エイム…どうしたの急に…頭大丈夫??」
ハーシュが若干引き気味にそういうとエイムのキラキラと上気した顔にさらに光が差した。
「!?わ、私の名前を知っているのかい?こ、これは運命に違いないどうか私と付き合ンブフ!?」
「エイム、あまり調子にのるな」
ゴヅン、と鈍い音が響きエイムが床に潰れるとそこには長身のカインが立って居た。
エイムは持ち前の生命力で颯爽と起き上がるとカインの存在に気がついたようだった。
「カイン!?剣士科クラスの貴様がどうしてここに!?人の恋路の邪魔するなんて無粋なことをしないでくれ給え!」
「エイム、お前のことはそれなりに距離感を保ちつつ仲良くしたい程度に友だとは思っている。が、こいつに変なことしたらお前の見境なさに絶望してお前を殺してしまうかもしれないからよく気をつけろ」
こいつ、という言葉と同時に頭にポンと手を置かれる。前から身長差はあったが女の体になって一回り小柄になったからか何の違和感もなかった。
「か、カイン…そこまで言わなくても…」
「な!?カイン貴様馴れ馴れしいぞぶっ!!??」
そんなエイムが今度は横向きに吹っ飛んでいった。今度の犯人は初めから明確だった。
「ゴッメ、足が派手に滑った」
「な!?剣士科の七光り暴力娘まで!?どうしてお前らが魔法科にいるんごぶう!!??」
リデアが追い打ちをかけるようにエイムの鳩尾めがけてつま先で蹴りを繰り出した。流石のエイムも悶絶してうずくまっている。リデアは本当に容赦がない。
「私の名前はリデアだ。きちんと体で覚えとけ」
リデアが捨て台詞を吐いた後くるりとこちらを向き直った。
「ていうかカインのそれ何?独占欲?ハーシュに対して独占欲?ホモなの?死ぬの?」
そういうリデアは何故だか少し不機嫌そうだ。
「違う…男の親友同士がことに及ぶ…そんな恐ろしいことになる前に俺は間違いなくエイムを殺めてしまうだろう」
無表情なカインが珍しく頰に一筋の冷や汗を垂らしそう言った。
どれだけカインにとってBL展開はNGなのだろうか?
「なんでエイムを殺す一択になってるのよ!!??」
「そういうわけだハーシュ、お前もよく気をつけろ」
カインはハーシュに対して諭すように言った。
「こっちだって好きでこんな目にあってないよ!!??」
「嫌だと言えば済む話だろう」
「嫌だという前にこんな状況になってるんだけど!?第一、2人とも授業はどうしたんだよ!」
「人が心配して見に来てやったのに何よ、可愛くない。ハーシュ顔は可愛いのに態度が可愛くない」
「かわ…!?リデア!!わざと言ってるだろ!?」
「お姉様方、ご機嫌麗しゅうございます」
何やらまた聞き覚えのある声が聞こえた。
「何、クラいたの?まあ居ても居なくても変わらないけど」
「あふっ…リデアお姉様は、相変わらずの切れ味ですわね」
クラシステリアはよろりとよろめくとハアハアと息を荒くした。
リデアがこういう人間達の扱いにある意味慣れているのは姉の存在もあるのだろうか、なんて邪推をしてしまう。
「クラシステリア…」
そうだった、そういえばこの子も魔法科だった。
というかお姉様お姉様って言ってる割に普通にリデアと同級だったとは…
「というわけで、ハーシュお姉様の身柄は私が責任を持って組んず解れつ保護いたしますのでご安心あれ」
「今、変な単語さらっと入れなかった…?」
「というわけでカイン様もお気になさらず、ご自身の教室にお戻りください」
「クラ、あんたさりげなくハーシュと二人きりになろうとしてないでしょうね?」
「そうだ。それに様付けで呼ぶな、第一何故俺の名前を知っている?」
「あら、剣士科では一番の有名人ですもの。知らない方がどうかしてますわ」
「え…カインそうなの?」
「知らん」
「何言ってんのよ。自分の誕生日には机に山ほどの貢物を溢れさしてるくせに」
「それは普通のことではないのか?」
「あんた…背中に気をつけなさいね」
リデアが恐怖と怒りが混じった声でカインに言った。
(続く)