お前がそんな風に急に女らしくなるからだろう!
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夕方を過ぎて夜になると村の中心の泉には月光虫という虫が無数に現れエメラルド色の美しい光を発していた。
リデアたちは例の悪ガキたちをギルドまで連れて行ったあと、湯冷ましがてら一旦宿まで着替えに戻るということだった。
カインは特にあてもなく村の中を散策していたところ、この場所にたどり着いた。
この付近はどうやら観光スポットらしく暗くなると次第に遠目にもちらほらと人が見えるようになってきた。
「あ、いたいたカイン」
遠目にハーシュがこちらに手を振るのが見えた。
「…ハー、シュ」
先ほどのハーシュの裸体のフラッシュバックが脳裏に浮かびそうになるのを必死に抑えるため、カインは別のことを必死で考えた。
「リデアは二日酔いもあって疲れたから宿で休むって言ってたよ」
「そう、か」
「あ、カイン、さっきはありがとう。あと、鼻血止まった??」
「……………………ああ」
「そっか、よかった……疲れてたのかな?変なものとか食べたわけじゃないよね?」
親友の裸を見て鼻血を出したなどとは口が裂けても言えない。
そもそも、ハーシュは今でこそ見まがうことなく女だが、その内面は男なのだ。男に対して欲情することなどあってはならない。
「よいしょ」
ハーシュが隣に腰掛けるとカインの内心に畳みかけるようにふわりといい香りがした。
カインはめまいがするような思いがした。
「…なにかつけているのか?」
「え?ああ、リデアに言われてさ、お風呂上りに髪が乾燥しないようにって香油つけてるんだ」
カインがじっとハーシュの髪を見つめていると、ハーシュはドギマギと少し首を傾げた。
「…その…変かな??………リデアがつけろって……その…」
どうやらハーシュは香油をつけるのは女々しいことかと気にしているらしい。
「いや…いいんじゃないか?」
似合ってらとか、余り余計なことは言わない方が無難な気がした。
「…そ、そっか」
ハーシュはカインの返答にほっとしたようだった。
それにしても考えれば考えるほど、見れば見るほどハーシュが女にしか思えなくなってしまう。
そしてそうやって考えれば考えるほどカインは普段以上に無口になってしまい、いつしか二人とも無言になっていた。
「…こ、ここら辺って夜なのに結構人が多いね、ほらあそこらへんと…か…?」
沈黙に耐えられなくなったのだろうハーシュが指さした先には、不運なことにカップルが二人抱き合って熱く唇をむさぼり合っているところだった。
ハーシュはそれに気が付くと音速で話題を逸らした。
「うわあああぁっと?!ほら!!あっちの方とか月光虫がたくさんいて綺麗だ……ね…?!」
ハーシュが指をさした方にはボートの上のカップルがこれまた熱い抱擁中だった。
気が付けば四方八方をカップルに囲まれているようで、目のやり場に困るような状況だった。二人の間に何とも気まずい沈黙が流れる。
カインは横目でちら、とハーシュの方を見るとハーシュはうなだれるように膝を抱えていた。耳朶まで赤くなっている。
カインは周囲の様子に全く無頓着だった迂闊さに内心で後悔しつつ、ハーシュに場所を移ることを提案しようかと思ったその時、ハーシュが消え入りそうな声でつぶやくのが聞こえた。
「なんか最近さ…」
「なんだ?」
「いや、その…」
ハーシュはうなだれたまま、恥じらうように前髪をいじりながら言った。
「最近なんかカインがよそよそしい気がして…どうしたのかなって」
カインは図星を突かれたような気がした。
だが、今真実を伝えていいものかどうか判断がつかなかった。
なので、曖昧に答えるほかなかった。
「…そうか?」
「うん」
「気のせいじゃないか?」
「…本当に?」
ハーシュは不安そうな顔でカインの顔を上目遣いに見上げた。こういう時は少しだけ話に真実を織り交ぜた方が信憑性を増すものだ。そう思い、咄嗟にカインは言った。
「何というか…ハーシュは変わった、な」
「え!変わった??」
ハーシュの顔がぱっと明るくなった。
反応から見るとハーシュはおおよそ、成長した、とか大人っぽくなった、とかそういった言葉を期待しているのだろう。違う、そういうことではないんだ、とカインは思う。
「…それで、なんでカインがよそよそしくなるの??」
核心にあっという間に踏み込まれカインは狼狽した。
「いや…………それは…………」
「ねえ」
ハーシュがずずいと顔を近づけてくる。カインはたまらずその頭を軽くぐいと押し返した。
「…顔が近いぞ!ハーシュ!」
「えー!ほらー!やっぱり何かよそよそしい!」
(お前は!こちらの気も知らずに…!)
不満げなハーシュの非難がましい視線と声が一瞬カインの理不尽な我慢を重ねていた神経を逆撫でた。
「お前がそんな風に急に女らしくなるからだろう!」
「え」
「あ」
咄嗟に、言ってしまった。
「………」
「………」
気まずい沈黙が再三流れる。
「………どうゆう…意味……」
「………」
誤魔化しようもない。
「…………先に行く………」
ハーシュの目が大きく見開かれる。
「……………ねえ、カイン………!!」
カインは無言で立ち上がる、そして宿の方へ歩いていく。背中に痛いくらいのハーシュの視線を感じながら。
(最低だ…)
カインは爪が手のひらに突き刺さるぐらいに拳を強く握りしめるぐらいしかできなかった。
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「…リデア、起きてる?体は平気?」
ドアの方からハーシュの声がして、きしとベッドの端が軋む音がした。
「…んー?どうしたのハーシュ…」
リデアは、眠たそうに眼を擦りながら起き上がり枕元のランプに灯をともす。
「………最近のボクってどんな感じ??」
ふと見やったハーシュの表情は如何にも深刻そうで、リデアは起き抜けに固まった。
自分が眠っている間に一体何があったのか?リデアはまだ動きの鈍い脳をフル回転させだした。
「ええっと……??…質問の意味がちょっとよくわかんないんだけど…?」
「カインはね…ボクが前より女っぽくなったんだって…だから、前みたいに仲良くはできないんだって言ってた…」
ハーシュの声がみるみる湿っぽい涙声に変わっていく。その手は何かを堪えるようにぎゅっとシーツを握りしめる。
「そんなこというなんて…おかしいよね??カインらしくないよ…こんなの…」
ハーシュの目からはぽたぽたと大粒の涙が零れていきシーツに一つ二つと染みを作った。
(……………ぇええええええええええええええ…………?)
リデアは思う。これは…大分話がすれ違っているようだ。
つまり、カインはカインでハーシュを女として意識してることを迂闊に口走ったのをおそらく焦っていて、ハーシュとしては、女っぽくなったからお前はもう男友達じゃないと意地悪を言われたと思ってる。
…それにしても、ハーシュの無自覚っぷりも筋金入りだ。まあ、いきなり親友にそんなことを言われたとしても女として意識されているからだ、なんて思いようもないのかもしれない。
「あのね…ハーシュ…」
と言いかけてふと思う。今ここで『カインはあんたのことを女として意識してしまっている』という真実を言ってもいいものなのだろうか。
カインに対しても余計なお世話だろうし、伝えたことで余計にこじれる可能性だって十分ありそうだった。
「…どうしたの??リデア??」
ハーシュはすんすんと泣き顔で聞いてくる。
「…ハーシュ、よく聞くのよ……カインは…………女性恐怖症なのよ………」
悩んだリデアは嘘の情報をでっち上げることにした。
ハーシュはきょとんとしていた顔をしている。
「ジョセイキョウフショウって……なに??」
「よ、ようは…そうね……幼少期の不幸などによって女性に対して恐怖心やコンプレックスを拗らせてしまい女性というものとはまともに話せないし触れることも出来ないという奇病なのよ…」
「そ、そうだったんだ……カインがそんな病気だったなんて……」
ハーシュは得心したような表情を見せ、リデアはほっとした。だが、ハーシュはすぐさま疑問を投げかけてくる。
「…あれ??でもリデアとは普通に話してるよね…??」
「よ、要は慣れよ慣れ!!私は長い付き合いだからカインもきっと普通にしゃべれるくらいにはなったのよ。だからハーシュにもきっと慣れれば問題なく話せるようになるわよ!」
「なるほど………え、それってつまり、カインって男が好きってこと…??」
リデアは咄嗟に吹き出しそうになり、軽く咳き込んだ。
「……ゲホゲホ!!……そ、そうゆうわけではないんじゃないかしら……たぶん……」
「そっか……」
しばらく考えるような表情を見せたあと、ハーシュはぽむと相槌を打った。
「よし、決めた」
「え」
「要はカインは女の子と付き合いたくても付き合えない状態ってことでしょ??」
「え、あ、まあ…そうともいえる…かもしれないわね」
「だったら、ボクにできることがきっとあるはずだよ。ほら、ボクも一応今は女だしさ。第一おかしいよ!リデアには言ったのにボクには言ってないなんて水臭いよ!!」
ハーシュは見る間にふんすとやる気満々になっていた。
リデアはまさかそっち方面に話が行くとは思いもしなかった。
「えっと…それで…具体的にどうするつもり…?」
「え、話しかけたりとか…」
「まあ、それぐらいは普通に…」
「…体くっつけたりとか…?」
「それはやめてあげて」
咄嗟にリデアの本心から出た一言だった。
次の村に行きます




