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TS magics  作者: 藤原埼玉
13/41

カオス式魔術(後編なのです)

「こんばんわお姉様方」


「ようやく来たわね」


クラシステリアの妙案とやらで、夜にまたハーシュの部屋に集まったのだった。


ハーシュと二人ババ抜きをしていたリデアはババ入りのカードの束をバッと投げ出したのでハーシュから小さく非難の声があったがスルーした。


「…で、どうするのよ?相手はこっちの探知を察し済みでしょ?また同じ方法じゃ埒が明かないわよ」


「はい、私に案がございます」


クラシステリアは胸を張り気味にドヤ顔で言った。


「まずハーシュお姉様はご入浴くださいませ!」





皆の頭の上に?が浮かんだ。


「…なんで?」


「いいえ!決してハーシュお姉様の入浴シーンが見られるなんて僥倖だなんてことは微塵も思っておりませんので!!ハアハア!」


「鼻血拭け!!」


「げふ!」


リデアの一喝と共にビンタがクラシステリアの頬にぴしゃりと飛んだ。


「し、しかしお姉様方、この作戦にはきちんと勝算があるんですの!どうか信じてくださいまし!」


クラシステリアはなけなしの誠意を示すかのようにその場にひざまづいた。


「それならいいけど…まさか覗いたりしないよね?」


「私が見張っとくから大丈夫よ」


「今となってはリデアも微妙に信用できないんだけど…」


「なんでよ!!」


「この前散々人の胸を揉んだのを忘れたの!!??しかも食堂の公衆の面前で!!」


ハーシュはその時のことが余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして激しい剣幕で怒った。


「…ご、ごめん」


「…いいからとっとと準備して入ってこい、俺が見張る」


「あ、ありがとうカイン」


ハーシュはスタスタと着替えを取りに向かった。


「何よハーシュ!!その対応の差は!!差別よ!!差別!!」


「どの口が言う」


食ってかかろうとするリデアを後ろからカインが押さえつけた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


アレフガルド学園は学生用のシャワールームと浴場が用意されている。


当然男子と女子で分けられているが、ハーシュに関しては特別措置として浴場を使用時間をずらして入ることになっていた。


「それで…作戦とやらについてだが」


「…ハアハア、この壁一枚を隔てたところでハーシュお姉様がそのいやらしい姿態を存分にさらけ出しあまつさえ、シャワーの水の玉がその上を舐めるように滑って…ハアハア」


クラシステリアは浴場の壁に横顔をスリスリと擦り付けていた。


「…なぜ、最近のハーシュの周りは変態の割合が高いんだろうな」


「あんたよく平然として言えるわね…」


「ふーお待たせー、入ってきたよー」


風呂から上がったハーシュは入浴後の緩みきった顔で頭にバスタオルをかけたまま薄いタンクトップにショートパンツの姿で出て来た。


普段は体のラインが目立たないローブを身につけているギャップもあり、ハーシュの風呂上がりの姿は体に密にまとわりつく衣服のせいで非常に扇情的であった。


風呂上がりの上気したピンク色の頬。濡れた髪。細く伸びる健康的な手足。それは正に僥倖の景観であった。


『…』


「ん?どうしたのみんな?」


「お、お姉さま゛ばっ!!」


「ぎゃー!!!???」


クラシステリアの鼻から鮮血が吹き出した。


「お姉様の…い、色香が…色香が強すぎますわ…!!」


そう言い残してクラシステリアはがく、と床に沈んだ。


「おい、ハーシュ…」


「え、何??」


カインが見かねたように顔に手を当てて呟いた。


「何か着ろ…」


「え、着てるじゃん??…ってわあ!!??な、なに!?リデア!?」


「あ…」


唐突にリデアがハーシュに抱きついた。咄嗟の行動だったのか、ハッと我に返り顔をカアアと赤く染めた。


「あ、いや…これはその…」


「な、なに…ど、どうしたのリデア…?」


ハーシュも突然のことに動揺したのか頬を赤く染め、目を白黒させた。


「だ、だって!!い、今のは不可抗力よね?!クラ…」


「しっ!ましたわ!」


鼻にティッシュを詰めたクラシステリアの目が爛々と輝いた。


「かかりましたわ!!」


クラシステリアが廊下を駆け出していく。


「え、ちょ、ちょっと!!かかったってどう言うこと!?」


慌てて三人もクラシステリアの後を追いかけていく。


「敵は入浴後の無防備なハーシュお姉様を狙ったのですわ!!しかし!こんなこともあろうかとハーシュお姉様が今日着ける下着にいくつか目星をつけて私の血痕をつけて予め魔法陣を発動させておきましたの!!」


「それドヤ顔で言うこと!!??人の部屋で勝手に何してくれてんの!!??」


「ここの部屋ですの!!」


クラシステリアは己の蛮行へのツッコミは華麗にスルーした。


「ちょ、ちょっと待って!!ここの部屋って!!??」


「オッケー!!カイン!!ぶち破れ!!」


「…承知した」


カインが戦闘用の皮グローブの中の拳を握り込んだ。トップスピードに乗った重戦士ならばこの程度のドアに獲物も不要である。カインが気合を込めて全体重を乗せた拳をドアに叩きつける。


「うおおおおおおおお!!」


破裂音とともにドアが木っ端微塵に破砕されると、そこには見知った顔が三つ。


そのうちの一つがそこにあるのは至極当然のこと。


なぜならばそこは学園長室だったのだから。


リザイア、セルシア、それにポムデリア。


その三人は異様なシルエットの黒装束を身につけ、暗い部屋の中で不思議な色の光を放つ魔法陣を取り囲むように立っていた。


四人と三人はしばらくお互いを見つめたまま時間が過ぎた。


「あの…先生方…すごい嫌な予感がして聴きたくないんですが…一体何をされているんです?」


「ふむ…」


リザイアは落ち着き払って眼鏡の縁を指でくいと押し上げた。


「獅子は子を千尋の谷に突き落とすという…」


「なんか語り出したこの人!?」


「迷う子羊を導くことは容易ではない。時として合理的な非情さが必要とされる…私たちが行なっていたことはつまりはそういうことだ」


「…それはそれとして、具体的には何をされていたんですか?」


「危険なのです、ハーシュくん。これ以上は生徒が踏み入ってはならない黄昏よりも昏い昏い修羅という名の業のみなのですよ…」


「いや、あの、だから具体的には…」


「そうだよ!ハーシュくん!」


「ポムデリア先生はハーシュのどこが好きなんですか」


「えー!?全部可愛いけど…例えばあの脇とかぺろぺろしたくなっちゃ」


「馬鹿!ポムデリア!」


「あっ…」


ポムデリアの頬をだらだらと冷や汗が流れて行く。


「…先生方…だったんですね?」


「…くっ!!」


リザイアたちはフルフルと肩を震わせていたが、突如堰が切れたように唸るような声とともにひざまづいた。


「許してくれ!!悪気はなかったんだ!!」


「うう…!私たちはただハーシュくんの色香に惑わされただけの哀れな子羊たちなのです…」


「…別に惑わしてないですけど?!」


「うわーん!!ごめんなさーい!!」


四人はしばらくさめざめと泣きだしたいい年をした先生方三人を見下ろしていたが、リデアが言葉を発した。


「まったく…つまり先生方はハーシュの部屋を覗き見して…」


「あれ…その魔法陣…ひょっとしてカオス式魔術!?」


何かに気がついたハーシュは先生方の向こう側にある魔法陣に駆け寄っていった。


「…ハーシュ??」


「うわー!!本物だ!!古代魔術の一つを生で見れるなんて!!」


ハーシュは目が突如として輝き始めた。


「は、ハーシュくんはカオス式魔術に詳しいのですか?」


先生方三人は突如体裁を取り戻したかのようにむくりと立ち上がった。


「一時期古代魔術に傾倒していたことがあったんです!!そっかー!!だから3人なんですね!!」


リザイアは意味ありげに眼鏡をくいと指で持ち上げて言った。


「そうだ…カオス式魔術は制約が多いし戦闘向きではない…古代人の叡智の結晶と言えば言えなくもないが…実態は玉石混交。無駄なものも数多い…」


「そこがまたいいんですよ!!戦闘特化の魔法体型は利便性は高いけど班を押したように魔術を軍事力としか捕らえない今の魔術のあり方はどうかと思うんです!!」


「そう…正にそうなのです!!私たちは(ハーシュくんにバレると言う)危険も顧みず!!寝る間も惜しんで!!こうしてカオス式魔術の研究を行っていたのです!!」


「そ、そう!!じ、実はそうなんだよー!」


セルシアとポムデリアも拳を掲げて力を込めて言った。


「せ、先生方は…なんて素晴らしい先生なんでしょう!!自らの労を厭わず…魔術の発展とその夜明けの為にひたすら自らの信ずる道を行く…先生たちは魔術師の鑑です!!」


ハーシュが感極まったように男泣きに拳を握り締めると、リザイアたちはここぞとばかりに胸を張った。


「そうなのだ!!ハーシュくんならわかってくれると思っていたぞ!!このカオス式魔術の素晴らしさを!私たちの魔術研究にかける想い(と欲望)を!!」


「もちろんです!!」


「ハーシュくん!!本当に(チョロくて)よかったのです!!」


「わーいわーい!!やったー!!」


「…」


キャッキャウフフと盛り上がるハーシュと三人の先生方とは対照的に、リデア以下三人は生気の抜けた顔で立ち尽くしていた。


「…ねえカイン」


「どうした?」


「…無性に誰かをぶん殴りたい気持ちなんだけど私はどうしたらいいと思う?」


「…あの四人のうち誰を殴っても俺は許されると思う」


「…だよね」


この後四人は一人残らずリデアの正拳を脳天に見舞われた。


今日もアレフガルド学園は平和だった。

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