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TS magics  作者: 藤原埼玉
12/41

覗きダメゼッタイなのです(前編なのです)

 カオス式魔術。


 それは7つある古代魔術のうちの一つであり、古代魔術とは戦闘特化型の現代魔術の礎である。


 現代魔術と比較すると古代魔術の特徴は端的には儀式が必要であったり詠唱が複雑であったりと使い勝手の悪さが挙げられる。


 また、その内容も玉石混交でありシンプルに戦闘が第一目的とあっさりと割り切っている現代魔術に比べて古代人たちの英知と欲望といった清濁がまさに混沌として渾然一体となったスペルの数々は書に残されているものの方が少ないと言われている。


 さらにその中でも現在解析できているものは数割に満たず、一部の偏執狂マニアにとっては未だに垂涎の研究対象であるのだった。


『深淵より来たりて闇と睦まじきニュクス


 争乱エリスの羽音  


 破滅アテ破滅アテ


 我と結べ 誓いを結べ


 悲嘆アルゴスに暮れし混沌ケイオスに 


 忘却レテ甘露ネクタルを与え給え』


 魔法陣の内側にホログラムのように風呂上がり薄い部屋着を着てバスタオルで髪を撫でているハーシュが浮き上がった。


「きたああああああ!!」


「ハーシュたん!!!!」


「萌え!!萌え!!」


 要は魔術の悪用がなされていた。

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「くし!」


 ハーシュが一つくしゃみをする。


「どうしたんですの?ハーシュお姉様」


「いや、何だろう。なんか最近絶えず誰かに見られているような気がして…」


「お疲れー」


 カインとリデアが合同講義室に入って来た。


「何の話してんの?」


「かくかくしかじか…というわけで最近ハーシュお姉様が誰かに見られているような感じがするらしいのですわ」


「…ふうん??」


 リデアは訝しさ満点の笑顔で少し遠巻きに聞き耳で座っていたエイムを見る。


「な、なぜそこで私を見る!?」


「エイム…貴様そこまで堕ちたか…」


 カインは軽蔑のあまりかミシミシと机に拳を押し付けた。


「ち、違う!!私がそんな低劣なことをする訳がないだろう!!」


「ああん??どの口が言うのよこの変態ストーカーが??どうせ夜の処理にでもハーシュを使ってるんじゃないのあんた??」


「な、ななななななな何を根拠にそんな…!!??」


 エイムの顔から汗がブワッと吹き出る。


「さあ!!吐け!!さっさと吐いてスッキリなさい!!」


「さ、さすがにエイムじゃないんじゃないかな??」


 後ろからハーシュがひょっこりと顔をだす。


「確かに最近のエイムは挙動がおかしなところがあるし、たまに気持ち悪い視線を向けてくる気がするけど…」


「ゴフ!?」


 エイムが盛大に吐血した。


「なんかそう言うのとは違うと言うか…もっとこう複数人に見られているような感覚というか…」


 しばし場に静寂が訪れた。沈思黙考。


「…ふむ、まあハーシュがそういうのなら、そうゆうことにしておこう」


「ちっ、命拾いしたわね。次やったらタダじゃおかないわよ」


「…お前らどう見ても私を疑っているだろう!?」


「まあまあ♪何はともあれ…」


 クラシステリアが仲裁するように間に入り、指をピンと立てていった。


「私たちの力で犯人を捕まえるのは如何です?」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ヒャッフー!!お姉様のお部屋はいい匂いがするのですわー!」


「いきなり学園長みたいな反応やめてよ!!??」


 続いてクラシステリアはベッドにダイブしてシーツの香りを嗅ぎ始めた。


「お姉様のベッド!!!…クンカクンカ!!柑橘類の果実のように甘酸っぱい香り…た、たまらんですわー!!」


「な、何してんの!!??やめてほしいんだけど!?」


「やめませんわ!!お姉様の下腹部のあたりのシーツも嗅ぐのですわー!!」


「うわー!!やめろー!!??」


「…やめなさいよあんたは」


 見かねたリデアがクラシステリアを耳から持ち上げた。


「い、いだいいだいいだいちぎれるのですわー!!リデアお姉様!!」


 リデアが手を放すとクラシステリアは床に崩れ落ちた。


「…で、クラの提案でハーシュの部屋にやってきたのはいいけど…まさか今のが目的じゃないでしょうね?」


「ち、違いますですのよ」


「何で目を逸らすのよ」


 クラシステリアはこほんと小さく咳払いを挟んだ。


「ハーシュお姉様のお話では、自室にいるときも見られている気がして落ち着かないということでしたの。ハーシュお姉様は魔力が弱っている状態なのですから相手方からの魔術効果を認識しにくい状態になっておりますの。だから私たちが一緒にいればもし相手が魔術を仕掛けてきているのであれば認知することができると思うんですの」


「それって魔術ってこと?しっかし、覗き見なんてそんな悪趣味な魔術使う人間なんてこの学園にいるのかしら」


「うーん」


 頭を抱える二人にクラシステリアが提案する。


「何はともあれ待機と言うことで、皆様お好きなように過ごされてはいかがでしょうか」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 今、ハーシュとリデアとクラシステリアは三人で向かい合い目をつぶって座っている。


 マナパンの生成。


 マナパンとは、魔力マナの結晶のこと。白い塊がパンのように見えることからマナパンと呼ばれる。


 マナパンの生成は初等科で先ず習う初歩的な魔力養成の訓練だ。


 他の術者と合わせてこの訓練を行うことで、お互いの魔力同士の触発により養成・コントロールなどの訓練も兼ねられる。


 三人の間にもごくごく小さな塊であるが、マナパンが徐々に生成されていく。


 それがこぶし大になったところで、三人は集中を一旦解いた。マナパンがぽとりとテーブルの真ん中に落ちる。


「大福か?」


「黙れこのうすら天然ボケ」


 リデアがカインにツッコミを入れる。


「第一女子しかいない部屋に何土足でのこのこと入りこんでんのよ!!」


「俺は普通に男友達の部屋に来たつもりだったが」


 カインは何の気なく棚の魔道具カタログを読んでいた。


「ま、まあまあリデア、別に僕は気にしないよ」


「あんたはもう少し気にしなさいよね!!例えばその太もも!!」


 リデアはすでに部屋着に着替えていたハーシュの細く健康的な太ももを指差した。


「自室にいるからって少し気を抜きすぎよ!!そんな露出度高い服だと健康な男児なんかピーーーでプーーーであっという間にピピピーーーーーなことになるんだから!!」


「…リデアってなんかおじさんみたいだね…」


「下衆だな」


「黙れカイン!!引くんじゃねえこの男共が!!」


 リデアとカインのどつき合いがひと段落したところで、クラシステリアの様子が変化していたことにカインは気がついた。


「クラシステリア?さっきから何をやっている?」


「さっきから粘っこい視線が絡みついて非常に不快でしたの…」


 クラシステリアが袖元から器用にナイフを取り出すと左の手の甲を一つ引っ掻いた。傷口から鮮血が球のように浮き出る。


「わっ!?大丈夫!?…クラシステリア?」


「あら、お姉様方、私の魔術をお忘れですの??」


 クラシステリアはテーブルの上に血で魔法陣を素早く描き、その上に右手をかざした。


 血液を媒介にして自ら強力な魔術力場を作り他者の魔術の効果範囲から魔術の効果や術者の情報、又は術者そのものに干渉する。


血乃契ルト・コントラクト


 魔術力場の発生によりクラシステリアの周囲に突風が吹く。


「わっ」


『血は言よりも雄弁に語りき大地との契約なり


 天なるウラヌスの全知を我に分け給え


 追いし給う 追いし給う


 我は知る の横顔…』


 しばらくするとクラシステリアが閉じていた目を開け口惜しそうに小さく舌打ちをした。


「ちっ、咄嗟に効果範囲を縮小して逃げやがったですの…敵も中々やりますわ」


 クラシステリアはテーブルの魔法陣をティッシュで拭き取り、ポケットから紙とペンを取り出すと、何かを書き始めた。リデアがクラシステリアの手元を覗き込むとそこには三つの名前の綴りの断片と複雑な魔法陣の断片が書かれていた。


「これは…名前…と魔法陣?」


「これって…クラシステリアの予想通り魔術だったってこと…??」


「そうですわ、名前の一部と術式を読み取りましたの」


 クラシステリアがメモをハーシュに手渡す。


「これは…三人…?全員名前の末尾がAで終わってる?」


「見たこともない術式ね…やっぱり古代魔術かしら??」


「お姉様方、私に妙案がございますの」


 メモから顔を上げるとクラシステリアの得意げな表情があった。

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