4話 王の演説
時刻は正午を示す。
活気が最高潮に達し、客が賑わう頃合。
王国から別の外国への行き来も盛んに行われる時間帯。
しかし、今は商店通り住宅街に人っ子一人も居なかった。
それもそのはずだ。現在、ライリール王国の民は全員ワグナー王の宮殿の中庭に集められていたのだ。
民衆が騒がしい。ライリール宮殿の中庭は、広大な敷地で、坪もかなりの桁だ。
しかし、広大な中庭を埋めつくほどの国民が宮殿内へと溢れかえようとしていた。
それを塞き止める門番の兵士。
ワグナー王から事情を聞かされてない国民達は、多少のパニックを起こしている様だ。
「なんて人の数……」
その中に一人、国民の波に飲まれながら、青ざめた表情をする少年が居た。
茶髪で透き通った青い瞳をしたミロス・オーレンだ。
ミロスも兵士とはいえ、下級。
国民の一人として、ワグナー王の宮殿への招待に、馳せ参じたわけだ。
しかし、思った以上の人の数で、腹から酸味のある液体が零れかけようとしていた。
「これは……まずい!」
ミロスは、口に手を抑える。
国民は依然として、現状を理解出来ず、騒ぐばかりだ。
左右に揺れる国民の波は、凄まじい。
ミロスの胃は限界だった。
しかし、ここで救いの手が差し伸べられた。
「あーあー。皆の衆よ、今日はよく集まってくれた。感謝する」
宮殿のテラスから出てきたワグナー王の声によって、国民は静寂となる。
それに応じて、国民の波は収まり、ミロスはなんとか緊急事態から抜け出せた。
「今日は国民の皆に話しておきたい事が多々ある。なのでこの時間に収集をかけた。迷惑と思ったなら謝る。済まない」
「そんなことないですよ、国王ー!」と、励ましの声が飛び交う。
「話しておきたいのは、二つ」
人差し指と中指を提示し、ピースを手で作るワグナー王。
「まず一つ目は、先日勇者となった者の事だ。この機会に彼を皆に紹介しようと思う。それでは、キリス・バルジーナよ、表へ出るのだ」
「はい」
国民の歓声によって宮殿から顔を出したのは、ミロスの幼馴染であり、先日「約束の勝利の剣」をその手に掴み、勇者となった美青年キリスだ。
「ごほん。えー私が今世代の勇者となりました、キリス・バルジーナです」
国民の歓声が上がる。
爽やかな声に、優しい声音。女性陣は既に恋に落ちていた。
「私が勇者になった理由は、ある目的があったからです」
キリスの演説が始まった。キリスが勇者を目指したその目的。ミロスも詳しくは知らない。
知っていることは"魔王を倒したい"とキリスが言っていたことだけ。
「私は、魔王を積年の恨みとして滅ぼすために、勇者を志しました。魔王は人類の敵、ただそれだけです。魔王を滅ぼす事が、私の目的なのです」
キリスは、一礼すると、国民からの拍手が、中庭一帯に響いた。
ワグナー王も笑を浮かべて、絶賛していた。
「キリスってやっぱ勇者だなぁ」
改めて実感するミロス。
「今の彼が、人類の希望なのだ。それに神竜様がさずけて下さった神話の剣、「約束の勝利の剣」がある。人類は勝てるかも知れない。皆の衆よ、彼が困難に遭遇したら助太刀してくれ。私からの少ない望みだ」
ワグナー王の言葉に、国民達は同意の心を歓声で示した。
「それと二つ目、今から三日後、魔王が支配する北の地域「ノース」に遠征に出ようと思う」
それは、王国騎士団による、魔王が支配する「ノース」という地帯への遠征だった。
二つの軍隊に分かれて、左右から遠征をするというものだ。
北の地域は、人類にとって危険領域。いつ魔物と遭遇してもおかしくはなく、魔王軍と遭遇することだってある。
そんな地域に遠征に出向こうと言ったワグナー王には、特に秘策がある訳でも無かった。
しかし、北の地域を支配されたままではむず痒いので、遠征をすることよって、北の地域の状況を知ることにしたのだ。
「皆に報告したかったのはこの二つだ。特に遠征については、精を尽くしたいと思っている。では、皆の衆、仕事に戻るがいい」
ワグナー王は、宮殿の中へと戻っていき、国民も商売や狩りをしに宮殿を出ていった。
宮殿の中庭は、静寂が支配した。
~~~~~~~~~
ミロスは、ワグナー王の所有する宮殿内へ居た。
実は、ミロスは今日ライリール宮殿へと招待されていた。
キリスの頼みもあって、ワグナー王が許可したのだ。
「美味しそう……」
ミロスの目の前には、豪勢な料理が並んでいた。
どれも普通に生活していたら目に入らない食品だ。
ミロスは、高級魚を白身を摘んで口に運ぶ。
「上手い……!」
「そうじゃろう!我が自慢の料理長が作った料理じゃ」
そこにやってきたのはワグナー王と後方に居たキリスだ。
「ワグナー王…」
「昨日の勇者選定儀式以来かの」
ワグナー王とキリスはそれぞれ空いている椅子に腰掛ける。
「キリス、これは一体……」
「ああ、ワグナー王がミロスに話があるらしい」
ミロスは、ワグナー王に顔を向けた。
一国の王と、顔を合わせ、鼓動が早くなる。
(俺なにかしたか?)
「実は、昨日の勇者選定儀式を見て、思ったのだ。キリス君と同様、君もなかなか威勢がある。だから決めたのだ」
いったい何を決めたというのだろうか、緊張するミロス。
そしてワグナー王は口を開く。
「ミロス・オーレン、君も「ノース」への遠征隊に加わってもらう」
「えっ」
下級兵士なので、どうせ後方支援かなんかだろうと、愚痴を零しつつ、有難く引き受けたミロスだった。
ワグナー王とキリスは、喜悦していた。
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