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雷霆の戦士の異世界譚  作者: 明日乃 諒
第一章 旅立ち
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3話 マリナの料理

勇者選定儀式は、無事良い方向に終わり、広間に居た大勢の兵士達の姿は見当たらなかった。

時刻は太陽が沈んだ夜。街灯が歩道を照らし、たくさんの人が歩いている。

この国「ライリール王国」の象徴でもある時計塔には、大きな見出しでこう書かれていた。


ーー勇者爆誕!!


そのせいか、いつもより一段と民衆の活気がある。

店も勇者爆誕記念として、商品が半額になっている。

そんな活気のある歩道を歩く、一人の少年が居た。

顔を俯かせ、絶望の色を漂わせていて、体に鎧を纏ったミロスだ。

ミロスは、自宅に帰宅すると、鎧を脱ぎ、ベッドに覆いかぶさった。


「はぁ~」


約束の勝利の剣(ティルフィング)」のせいなのか、疲労感がいつもより増して凄い。

ミロスは、数時間前の勇者選定儀式の事を思い出していた。


ーーキリスが勇者となった、あの瞬間、光景を。


ーー数時間前

約束の勝利の剣(ティルフィング)」を抜いたキリスは、一息ついて壇上から飛び降りた。

キリスの手元には、あの神話上の武器がある。

それを見たワグナー王は仰天していた。


「キ、キリス・バルジーナ……お主……」

「ワグナー王よ、「約束の勝利の剣(ティルフィング)」は私を選びました。よって私が今世代の勇者です」


キリスは、その証明に神話上の武器を見せつける。


「是非、私が魔王を滅ぼして見せましょう」

「お、おう。頼むぞ、勇者よ!」


ワグナー王は、勇者となったキリスに絶賛の声を浴びせる。

正直驚いていた周りの兵士達もつられて、勇者を讃える。

そんな光景に、何処か寂しくなったミロス。


「我が忠実な神話の剣を以て、邪悪な魔王を討ち滅ぼす!!」


キリスの雄叫びに続くように、「うおー!」と叫び、兵士達の士気が上がった。


ーーああ、こんなに遠く……


キリスの輝いた光景に耐えられなくなったミロスは、早々にその場を後にした。


ーーそして現在。

ミロスは、ひとまず自室を出て、冷蔵庫に向かった。

すると、ピンポーンと部屋に鳴り響く鐘の音が聞こえた。

玄関に向かって扉を開ける。

すると、そこに居たのは茶髪を旋毛辺りで結んだポニーテールの少女、マリナが立っていた。


~~~~~~~~~


「ったく……」


マリナは、片手でグツグツと音を立てる汁にお玉を入れて、かき混ぜながら、ため息をついた。


「私が来なかったら夕食どうしてたのよ」

「別に要らなかった。食欲ないし」

「あのねぇ……」


呆れた表情を浮かべるマリナ。


「確かに、勇者になれなかったのは残念だったと思う。ミロスには、勇者になるべき目的があったし……」

「けど、その目的は果たせない」

「キリスが勇者になっちゃったんだもんね……」


ミロスとキリス、お互いに現時点での能力は低くとも、潜在能力は計り知れない。

ミロスも「約束の勝利の剣(ティルフィング)」に選ばれてもおかしくはなかった。しかし、ミロスは、「約束の勝利の剣(ティルフィング)」らしき声に、拒まれた。

勇者は二人いてもいい筈だ。しかし、ミロスは選ばれなかった。


「俺が勇者になれなかったのは、ただ単に俺に潜在能力が無かっただけなんだよ。それに比べてキリスを見てると凄まじい才能を感じるよ」

「そんなことない!」

「同情はよしてくれ」


マリナは、ミロスに背を向け、額にシワを浮かべた。

マリナは知っているのだ。幼少期に発現したミロスの潜在能力を……。

それにしても勇者になれなかったミロスの精神的ダメージは甚大だ。

そこまでして勇者に拘るのは、聖戦とミロスの親が関係していた。


「ごめん……父さん、母さん……」


その言葉を聞いたマリナは、心が痛くなった。


ーーそれはミロスが幼少期の頃だった。

ミロスは、父親と母親と仲良く暮らしていた。

ミロスの父親は、「ライリール王国」王国騎士団の主力。

長年休戦だった聖戦も再開の兆しが見え、父親は聖戦に出向くことになった。

家にミロスと母親を残して。

ミロスは寂しさを紛らわすために、幼馴染であるマリナとキリスとよく遊んでいた。

虫取りをしたり、ボールで遊んだりと、その時間はミロスにとって幸福だった。

そして何より大好きだった存在がーー母親だった。

いつも優しくて、料理が美味しくて、抱きしめられたら心が安堵に満ちる。

ミロスは幸せだった。しかし、そんな時間も長くは続かなかった。


父親が戦死したのだ。死因は魔王直属の部下による虐殺。

亡きものとなった父親の遺体は、惨いものだった。

悲しみに明け暮れた日々を鮮明に覚えている。

そんな事も束の間、母親も殺された。

その光景を、自宅の押し入れに隠れて見ていたミロスは、恐怖で体全身が竦んだ。

ミロスの母親を殺したと思われる魔族は、父親を殺した魔王直属の部下だった。

ミロスは両親を殺した魔族を憎んだ。憎くてしょうがなかった。

その時の事を思い出すだけで、胸が締め付けられた。

ミロスが勇者になろうとしたのは、両親の仇である魔族を殺すためだった。

特に魔王直属ともなれば、並の武器じゃ殺すことは出来ない。

神の力を宿した神話の武器を持つ勇者でないと殺せない。

だから勇者になろうとミロスは奮闘した。

しかし、結果はキリスが勇者になるという結末を迎えたが。

精神に穴が空いたミロスは、暫く放心状態が続いたが、それを癒してくれたのは幼馴染である二人。

特にマリナは、毎日のように家に来て、ミロスの心の傷を癒そうと懸命に励んでくれた。

ミロスが元のミロスに戻れたのは、マリナの存在が大きかった。

その名残か、今も毎日食事を作りに、ミロスの家を訪ねてくる。


両親を懐かしむミロスの姿を一瞥すると、マリナは作り終えた料理をテーブルに置いた。


「まずはこれを食べて、心を温めてよ」


ダイニングテーブルに置かれたのは、湯気が揺らぎ、熱々のご飯に掛けられた、茶色の湖。カレーライスだった。

ミロスは、次々に腹にカレーライスを入れていく。


「上手い……上手い」


ミロスが両親を亡くした頃に作ってくれたマリナの料理。

それを久々に食べたことや、気持ちが沈んでいたこと、過去を振り返ったことによって、涙と共に、感謝の言葉を込めた。


(母さんも、よくカレーライス作ってくれたっけ…)


懐かしの味が、ミロスの決意を固めた。


「きっと勇者じゃなくとも、あの魔族をどうにかする方法はあるはずだ」

「うん」

「キリスは勇者で、俺は下級兵士だけど、お互いに出来ることがある。だから俺は俺で頑張る」

「そうだね」


ミロスは拳を握ると、腹一杯に食べて眠たくなったのか、自室に向かった。


「マリナ、今日はありがとな」

「うん、元気が出たみたいで良かった!それじゃあ私は帰るね!」

「うん」


靴を履き、玄関を飛び出すマリナの表情は、嬉しさと切なさに満ちていた。


(両親を殺されて、悲しくて、仇を取りたいのは分かるよ……けどね、ミロス。復讐のあるがままに魔族を殺しても、そこにあるのは虚しさだけだよ……)


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