2話 勇者となるのは……
ライリール王国建設記念日である祝日に行われた
「勇者選定儀式」。
とある街の一角にある広間には、沢山の兵士達が詰め寄せていて、広間の中央にある剣に目を奪われていた。
その中央に立つ二人の兵士ーー
「ミロス・オーレンとキリス・バルジーナ……か」
隣に居た一人の近衛兵が渡した紙を読み上げるワグナー王。
その紙を見て名前を呼んだ事から、あの紙に個人情報が載っているようだ。
「お主らは互いに下位に属する兵士の様だな。」
「はい、まだ新米ですから」
「右に同じです…」
縮こまる体を抑えるミロスとキリス。
「お主らなかなか根性あるじゃないか。それに比べて他の兵士となれば…目も当てられんわ」
ワグナー王の放った一言によって、広間に居た兵士は気まずそうな表情を浮かべた。なんせ自分より下位の者が壇上に上がったのだ。
ミロスとキリスをワグナー王が賞賛してもおかしくはない。
そんな二人が臆することなく、壇上に上がれたのは、勇者になるべき明確な目的があったからだ。
「奴らまだ新米なのにすげぇな……」
「俺は俺自身が憎い…」
「へっ、ただの怖いもの知らずなんだよ」
ミロスとキリスを賞賛する声や、自分の情なさを憎む兵士の声など、様々な声が飛び交う。
が、ワグナー王の「静まれ」の一言で、急速に静寂が辺りを取り込んだ。
「それでは、始めようとするか。どちらか前に出て、この剣を引くに値するものなのか、挑むのだ」
ミロスとキリスは、目の前の台座に刺さる、神々しい剣を見やる。
神話上の武器、「約束の勝利の剣」
この剣を引くには、根性や力などは必要ない。
「約束の勝利の剣」が、勇者になる者としての資格があるのか見定めをし、選ばれたら勇者になる、それだけだ。
「キリス……俺から行くぞ」
「頑張ってこい、お前の目的の為にも……」
「ああ」
ミロスは、片足を前に出して、光放つ剣に向かって、歩を進める。
そして剣の柄に、手が届く距離に着く。
(「約束の勝利の剣」……お前を俺は引き抜いて勇者になる……!!)
勢いよく、柄の部分に手を掛ける。
もう片方の手も、柄の部分を掴むと、肩を空一杯に振り上げ、引き抜かんとする。
ぐぎぎ…と呻き声を上げるミロスと、微動だにしない「約束の勝利の剣」。
ミロスの額には血管が浮かんでいて、顔が真っ赤に染まる。
体全体が、疲労感により震えているのに対し、
どんなに引っ張っても、その剣は抜かれようとはせず、ただただ台座に刺さっているだけだ。
「くそぉぉ!!抜けてくれよぉぉぉ!!」
あまりの疲労感から、本音が漏れるミロス。
「俺は……勇者にならないと……いけないん…だぁぁ」
『お前には……無理だ……』
突然、頭の中から響いてきた謎の声にたじろぎ、剣の柄から手を離してしまうミロス。
一気に力が抜け、後ろに退く。
すると案の定、激しく尻餅をついてしまった。
「いてて……」
「大丈夫か?」
キリスが手を差し伸べ助力する。
手を取り、立ち上がったミロスは、虚無感を痛感していた。
「くっ……俺は……なれなかった」
掛ける言葉が見つからないキリス。
「ミロス・オーレン……この壇上に上がれただけでも良好だ」
「……」
ワグナー王の慰めが今は鬱陶しく思え、唯々絶望感を漂わせた。
そんなミロスを横目に、キリスは頭を欠くと、「約束の勝利の剣」に向かって歩を進める。
「しょうがないな……ミロスの目的も俺が果たしてやるよ」
剣の柄に両手を掛け、勢いよく腕を振り上げた。
その時だった。
広間が膨大な光の量に包まれたのは。
目を開けることが出来ない程の光。
思わず、壇上から転げ落ちてしまうミロスとワグナー王、そして側近の近衛兵。
「ぐっ……眩しすぎて目を開けられない……!」
顔を腕で覆いカバーするも体全体に浴びせられる光の量は甚大で、後ろに引きずられるミロス。
そんな強烈な光も、一瞬で収まった。
辺りを見渡すと、倒れ伏せた者や片膝をついた状態の兵士が散乱していた。
ふと壇上を見上げたミロスは驚嘆した。
「ふぅ」
両手に神々しい光を淡く灯す刀身、金髪碧眼の美性の顔立ち。
そこに立っていたのは、「約束の勝利の剣」を構えたキリスだった。
それが意味するのは、たった一つ。
「キ、キリス……お前……」
「ミロス……お前の分まで俺は頑張るよ」
人類に新たな希望が誕生した瞬間だった。
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