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照月の鬼【前編】  作者: 早月
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出会い、そしてその先へ

  月明かりが真っ暗な地上を照らし、周りの風景をうっすらと映し出す。見えるのは折れた木々やえぐれた地面、ボロボロになった仲間の姿だけ。


「はぁ......はぁ......お前さん、ようやってくれたな。こいつぁかなりのお返しをせんとなぁ......」


 1人の男がボロボロになりながら、対面していた"ヤツ"に向けて言葉を発する。


「ふふふ、いいよいいよ〜その顔、目つき。人間らしさを感じるねぇ」


 打って変わって余裕の喋りをするのは目の前にいる人間とはかけ離れた存在。額にはツノが生え、大きい牙は口から少しはみ出している。

 しかしながら見た目は幼い少女そのもので、ツノや牙が見えなければほとんど人間の子供と変わらないだろう。


「威勢がいいのは大好きだよ。でも......そんな体で私に刃向かうのはもう無理なんじゃない?死んじゃうよ?お仲間さんだってみんな限界じゃないか。出直したらどうだい?」


 男の血の滲んだ着物の裾を見た"ヤツ"は、殺してしまうのも味が悪いと言うような微妙な顔で撤退を思案する。

 しかし男が歩みを止めることはなかった。


「仲間は帰らせるけぇ、大丈夫だ。......でも俺はやめないぜ。村のみんながお前さんに怯えて暮らすことが無くなるためなら、俺は死んでもお前さんを道づれにせなあかんのや......」


 フラフラで勢いもない歩みは確実に"ヤツ"との間合いを詰め、大きく振りかぶった刀が空気を切り裂く。月明かりに照らされた刃は確実に敵に向かい、怪しくきらめいた。

 しかし、それが"ヤツ"にダメージを与えることはなく、無残に折れた破片が遠く彼方に飛んでいった。

  衝撃の出来事に男は目を丸くし、これから自身に向かってくるであろう攻撃の数々を想像し恐怖に陥る。

 少女のようなそいつは刃の当たったとこを撫で傷がないことを確認すると、男に向かって手を伸ばした。

 絞め殺されるのかと身構えた男、しかし体に感じたのは苦痛ではなかった。


「お前バカなのか?刀が私に効くわけないだろ。しかも死んでもいいとか、自殺志願者なのか?変なヤツだ」


 伸ばされた手は首ではなく、頭に置かれていた。

 子供をあやすような優しさで撫でた後、ポケットから何かを取り出した。


「私に挑んだ勇気を認めてこれをやろう。私が小さい頃に折ってしまった自分のツノだ。村に持っていけばみんな私をやっつけたと言って喜ぶだろうよ。」


  "ヤツ"は「ほれ」と押し付けるように男の手に握らせ、立ち上がって月を見上げた。その日は眩しいくらいの満月で、照らされたツノや牙が一層の輝きを見せた。

 渋いような顔をした男はもらったツノを懐にしまいながら問いかける。


「......殺さないのか。俺を。」


 それを聞いた"ヤツ"は大笑いをして答えた。


「なんで殺さなきゃいけないんだ?お前みたいな変わった人間は見たことがないよ。是非、これからも手合わせ願いたいものだ」


 そう言うと、"ヤツ"はスタスタと男の前に歩み寄って対面した。

 少女さながらの小さな手を伸ばし、握手を求める。


「また今度、必ずきて欲しい。村に手を出すのもやめる。だから今度また来て、勝負したり酒を飲んだりしようじゃないか」


 ニコッと笑った顔は全く人間とは変わらず。

 差し出された手を見た男は、参ったと言うような表情で手を差し出す。


「......お前さんには叶わんなぁ」


 怪我した仲間を助けながら村に戻る準備をする男。

 帰り際、振り返った顔は笑顔だった。


「......じゃあまたな。鬼」






 数ヶ月経った頃、「鬼」と呼ばれる少女は村から少し離れた川にやって来た。村には手を出さないと言ったせいか、やることがなくなって毎日が暇なのである。あの男もあれ以来姿を見せることはなかった。

 川の中をスイスイと泳ぐ魚を見つけると、人間では不可能な速さで手を伸ばして捕まえる。


「......今夜の飯になるぞ、お前」


 イキのいい魚に捕食の宣告をして、それを袋に入れる。

 魚を捉えているうちにだんだんと下流の方に向かっていたのだろう、人間の姿が見えた。下流は村に通じるためたまに人が出入りするのだ。

 早く気づいた鬼は静かに川から出て茂みに身を隠す。木々の隙間から人間の様子を見ることができた。

 人間の数は1人、大人のようだ。短髪の頭からするに性別は男だろう。手には大きな棒を持っていた。きっと釣りでもしに来ていたのだ。


「......ん?」


 様子を伺っていた鬼は違和感を覚える。見覚えのある着物。袖からでた腕には白い布が巻きつかれており、赤黒い染みが見えた。


「あいつ、私を倒しに来たあの男じゃないか!」


 しばらくの間会っていなかった顔をみた鬼は喜びの表情を浮かべ、茂みから飛び出した。


「おーい!そこで何してるんだ?久しぶりじゃないか」


 大声に気づいた男は鬼の顔を見て驚いた表情で笑いかけた。持っていた釣竿を置き、鬼に歩み寄る。


「鬼じゃねーか!久しぶりじゃけぇ。ちっとばかし大きくなったか?」

「人間と違って成長速度は遅いんだから大きくなるはずがないよ。しばらく見てなかったじゃないか、何してたんだ?」

「いやぁ、あのツノを見せたらみんな倒したと思い込んでなぁ。もう鬼退治には行かんでええ言うけぇ、なかなか村の外には出れんのじゃ」


 参った参ったと困り顔で頭を掻く男。久しぶりの再会で男が無事であったことに安堵する鬼。快晴の空にきらめく川のしぶきも合わさり、はたから見ればなんとも平和な光景だった。


「ところで、なんで下流まで来てたんだ?見た感じ釣りをしに来たように見えるけど」

「ああ、晩飯を取りに来たんだ。今日は焼き魚にしようと思ってなぁ」


 男は釣り竿を拾い上げ、釣りを再開しようとする。

 魚と聞いた鬼は自分がとった魚があるのを思い出し、男に「待って」と静止を求めた。


「さっき私も魚を取ってたんだ。1人で食べるのも味気ない。一緒にどうだい?」


 背中に背負っていた袋を下ろし、中の魚たちを男に見せる。男はたくさんの魚を見て喜び、「村に戻って酒を取ってくる。一緒に飲もう」と走っていった。

 すっかり笑顔の男を見た鬼は安心し、帰ってくるまで準備をしようと火をおこすための薪を拾いにいった。



 帰って来た男の手には一升瓶が握られていた。


「すまねぇ。大した酒はなかったんだ、これで勘弁してくれ」


 そう言って鬼に酒を差し出す。

 鬼は自前の盃を出し、男が注ぐ酒の輝きをひたすら見ていた。

 ゴクリと喉に通した酒は焼けるように熱い。ほんのりとした苦味がまた良い味を出している。


「......良い酒じゃないか。すごく美味しい」

「お前さんのとった魚もすごいうまいじゃねぇか、いい焼き加減だ。ガキのくせにやるな」

「ガキとはなんだい、こんな見た目だがお前らよりもずっと長生きなんだぞ?」

「ははは、違ぇねえ」


 大きくひと笑いした後に男はゴクリと酒を飲み干す。

  暮れはじめた空は紅く染まり、満月が顔を出し始める。


「今日は満月か。俺がお前さんに挑んだ時も満月だったなぁ」

「不思議だねぇ。満月の日に会う運命だったりして」

「なんじゃそりゃ。運命なんざ存在しないんだぞ?」

「夢がないなぁ。......そう思ってても全てが筋書き通りかもしれないんだからね?」

「もしそうだったならば、俺は神様を恨んどるわい。......しかしまぁ、お前さんと仲良く話すようになるなんざ神様は愉快な筋書きを残したもんだ」


 ゲラゲラと大笑いし、「普通なら食われとるで」と親指を首の前で横に動かす。

 それを見た鬼は「私はそんなに野蛮じゃない」と睨みを利かせる。

 そんな会話をしてまた2人は大笑いをし、夜が深くなるまで2人だけの宴会は続いた。



 夜も更け、男は「そろそろ村に戻らにゃみんなが心配する」と後片付けをはじめた。鬼もそれに続き、宴会の痕跡をなくす。


「バレたら死んでしまうわ。入念にやっとかんとなぁ」

「まあでもさすがにこのくらいで良くないか?お前も帰らないとだろう?」

「まあな。じゃあこの辺でお暇するか」


 空の一升瓶などを詰めた荷物を背負い、男は川を後にしようとする。

 鬼は見送ろうと背中を見ていたが、ハッとして声をかけた。


「おい!今度会うときは私のことはお前さんじゃなく名前で呼んでくれ!私の名前は華だ!」


 大声で叫ばれた男は振り返り、ゲラゲラと笑って返事をする。


「鬼のくせに可愛い名前しよって!また会おう、華!」


 満月の明かりに照らされた背中は大きく、左右に振って別れを告げる包帯まみれの腕はたくましく見えた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

拙い作品ではありますが、次回も頑張ります。

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