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RUPE ~みらいいまださだまらず~  作者: ネームレス
第01話 ―開戦― ビギニング・ソング
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3 東条 雅(とうじょう みやび)

 福祉教育部の向かいにある校舎の一室。

 そこは数年前に新設された部室棟より前に、文化系の部室に使われていた小さな部屋がいくつか残されている。

 瀬野 戒は、本来所属している部活の部室で、コーヒーの香りを楽しんでいた。

「戒くん。一方的に頼むだけ頼んで、結果だけ聞きに来るとはいい度胸ね?」

「で、結果は?」

「文句の一つも言わせてくれないわけ?」

「頼んだことは、間違っていなければ結果を出してくれるのが、君の良いところだと思ったが?」

「結果を出すのが良いところ。口を出すのが良いところ。手を出すのがよいところだけど?」

「……東条 雅。是非とも、今度の休みに何かおごらせてくれ」

 降参の意を込めて、休日に頼み事のお礼をすることを提案した。

 東条 雅は、風野宮学園で唯一、戒が苦手としている女性である。

 論を詰めれば、言い負かすことができるが、根本的にブレがないので、逆に言い負かされる……というより、強引に押し通されることが多い。

 合理的な判断を心掛けている戒にとって、気が強く信念をもって、時に非合理的な押しで行動する彼女は好意的な人物として認識している。

 戒の判断が間違ってるときは、真正面から間違ってくると突っ込んでくるので、苦手と同時に対等の相手として敬意を払っている。

「よろしい。甘味をお願いするわ。頼まれごとのことだけど、確かに学園外に怪しい人たちを見かけた報告はあるわよ」

「流石、仕事が早い。風紀委員会にその人ありと言われた『鬼の雅』殿、頼りになる」

「おだてても、何も出ないわよ。で、今回はどんな厄介事?」

 戒は雅に、どこまで話すか思考を巡らせた。

 全部話せば、間違いなく関わろうとするだろう。逆に話さなければ、勝手に調べ始めるのは、火を見るよりも明らか。

「全部は話せないが、その前に今回だけは、絶対に関わらないと約束してほしい」

「二つ条件を飲んでくれれば、約束するわ」

 条件を付けて、約束をすると言った以上、雅は必ず守るのは、1年以上の付き合いがある戒は、よく理解していた。

 無条件で約束をしないのは、事件に関わるチャンスをすべて放棄することを理解しているからであろう。

「一つは、手助けがほしいときは迷わず私を頼ること。もう一つは、どんな結果であれ、事件の報告をすること」

 手助けを条件にしたのは、戒に事件への介入をどこまで認めるかを委ねる意図が見えている。

「これは、私が今後、どのように行動するか、決めるために必要だから、絶対にゆずらない。いい?」

「わかった。約束しよう……それと、やはり、君は苦手だ」

 こちらを立てつつ、最低限の利得を確保を譲らない。そして、それを押し通る雅の性格は、彼女の持って生まれた資質だと認めざる得ない。

「好意的な言葉として、受け取っておくわ」

 そう言うと、雅は戒の隣に移動し、手に持っていたタブレット端末を起動させる。

 この時代の科学水準では、一般に普及している携帯端末で、空中に画面を投影できるのだが、確実な作業を行う場合などは、今でもノート型パソコンやタブレットが使われている。

「まず、今回、関わってる事件は……」

「その経緯だと、私を安全のために関わらせないのでなく、手札を温存しておきたいのね」

「そうだ。以前、渡した有事VIP300名リスト該当者を注意しておいてほしい」

「なかなかに、女をその気にさせるのがお上手で。動向を探るくらいなら風紀委員の仕事で、うまく誤魔化せるわ」

「褒められた気がしないな。特に注意が必要な人物は……」

 実務の打ち合わせになると、途端に息の合う二人。

 彼らが、見ているリストは、この関係が出来てから1年間で調べ上げた『学園内にいる危険要素を持つ人物』のリストである。

 戒は、ソフィアの持ち込んだ事件で、有事VIP300名リストに載っている人物が動くことを危惧していた。

「もう、夕方か……急がないと……」

「あら? 他の女のところへお出かけかしら?」

 雅は、以前から戒に女性の影が、見え隠れしてるのが気になっていたので、いい機会だと思い切り出した。

「釘を刺しておかないと、介入してきそうだからな……不満か?」

 雅が驚いたことに、戒は女性の存在を否定はしなかった。

 だからこそ、その女性にハッキリとした意思表示をしておきたくなった。

「いいえ。ただ、その女性に『いずれ、どっちが正妻かハッキリさせましょう』って、伝言をお願いするわ」

「伝えておこう。しかし、正妻って、俺が大奥みたいに、複数の妻を持つみたいじゃないか?」

「私は、そうなると思ってるわよ。英雄色を好むって言うでしょ。だから、きっちりと立場はハッキリさせておきたいわ。興味ないの?」

「俺の意思が、反映されてない取り決めなど、知ったことではない」

 冷静に雅の世迷言を切り捨てるように、厳しい言葉を吐いたが、いずれ、本当に人を肴に争う予感がして、ジゴロの知識を仕入れておけばよかったと後悔した。


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