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RUPE ~みらいいまださだまらず~  作者: ネームレス
第01話 ―開戦― ビギニング・ソング
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2 福祉教育部

 私立風野宮学園。

 扶桑島の建造に関わった財団によって設立された。

 自由な校風が人気を呼び、多くの生徒が集うマンモス校である。

 元々、多くの学生を一か所で効率よく育成することを念頭に作られた学び舎は、全国でもトップクラスの広さと設備の充実を誇る。

「戒君にも困ったものです。ソフィアさん。雅人君から事情は伺いました。大変だったと聞いています」

 落ち着いた印象を抱かせる。しっとりとした長い髪と相まって、日本人形のような美しさを持っている女性が、少しふくれている姿を見てソフィアは可愛らしいと思った。

「申し遅れました。私は神本 一恵。雅人君の友人で、福祉教育部の部長を務めています。」

 メガネを掛けた少年が、携帯端末を確認しながら声をかけてくる。

「雅人が、校門に着いたみたいだよ。あ、戒と雅人の友人で城戸 博です」

 ソフィアは戒に、福祉教育部の部室まで連れて一恵たちに預けると、どこかへ行ってしまった。

 一度、現状を整理してみると、確かにここは安全であることは間違いなかった。

 この時間であれば、部活動や委員会などで残っている生徒も多く、それを監督してる教師もいるし、風野宮学園は常駐の警備員がいるので、ソフィアを追いかけていた暴漢達が入り込もうとすれば、目立ってしまう。

「はーい。ひーちゃんでーす!」

「向日葵さん。まずは、ソフィアさんにご挨拶をしてくださいね」

「ごめんなさい。かずえちゃん」

 ふわりとした日向のような少女は、手に持っていた荷物を机に置いてソフィアに笑顔で挨拶をする。

「こしいし ひまわりです。よろしくおねがいします」

 部室のドアが勢いよく開くと、威勢のいい声が響き渡る。

「戒の奴、今度は何しやがった!」

 小麦色に肌を焼いた少女が啖呵を切っている姿に、ソフィアは暴漢達を連想し身を思わず固くしてしまった。

「あ、悪い。脅かしちまったか。アタイは横路 真理亜。なんだ……その……驚かせてすまなかった。ごめん」

「いえ、お気になさらずに・・・・・・」

 向日葵がお手製のクッキーを並べて、一恵が紅茶をいれ、その横から堂々とつまみ食いをする真理亜に注意をする博。

 ――何人か、この場にはいませんが、雅人に触れて見たイメージは、この場所で、この人たちに囲まれて過ごす。優しい未来なのですね。

 ソフィアは、自分が予知した未来が正しかったことを確信でき反面、他の予知も外れていない事実に気が付き、背筋に冷たいものが流れた気がした。

「遅くなった……せはぁ、ぜはぁ……」

「思ったより早かったな。流石、運動部の救世主」

「バカイが、雅人を置いてきたからでしょうが!」

 部室に入ってきたのは、戒に強気に文句を述べてるツインテールの少女と、全く相手にしていない不愛想な戒と、疲労困憊の雅人であったが、公園から学園までの距離を考えれば、ずいぶんと速いことから運動には自信があるのだろうとソフィアは推察した。。

「雅人君、お水です」

「サンキュー、一恵……って、全員揃ったのか?」

「そこの発情した猫のように、やかましい娘。お客様に自己紹介くらい、できないのかな?」

「後で、覚えてなさいよ。ワタシはクロエ・スタインベルト。アナタがソフィアね。安心して、力にあるから」

 体の中から溢れんばかりの元気を感じる少女で、彼女も予知に出てきた少女だった。

「挨拶が遅れましたが、わたくし、ソフィア・プロフェードと申します。雅人様、戒様。先ほどは助けていただき、ありがとうございます」

「いやぁ、たいしたことはしてないから。改めて、何だけど……ソフィア。あの暴漢達は、何で君を追いかけていたんだ?」

 雅人からの連絡で、ここにいるメンバーはおおよその事情は知っているが、今に至るまで、肝心なソフィアが追われている理由を聞く余裕がなかった。

「戒から聞いたけど、暴漢達の中に超能力者いたって聞いたけど、超能力が原因なのか?」

 ソフィアは追われていた理由を話すか悩んでいたが、雅人と戒に助けを求めてから、今までの会話での違和感がつきまとっていた。

 超能力は科学で解明されていないため、現在も眉唾ものと扱われている。

 ソフィアは、自身が予知能力を使えるようになったので、超能力の存在を認めている。

 だが、世間では眉唾物でオカルトの域を出ていない。

 ――皆様、超能力が存在していることを前提に会話をしている。

 だがらこそ、雅人達を信じて、追われている理由を打ち明ける決心をした。

「実は、わたくしは超能力を持っていまして、触れた相手に関係する未来をランダムで予知できる能力なのです」

「あー! ひーちゃんとおなじ、ちょうのうりょくだね!」

「やはり、皆様も超能力を使えるのですね」

「えええ、僕達もおのおの、超能力を使うことができます。追われていた理由は見てしまった予知ですね」

 戒と違った鋭さを見せる博の指摘に、ソフィアはゆっくりとうなずく。

「はい。それはとても恐ろしく凄惨な内容でした」

 その予知を思い出すだけで震いが止まらなくなる。

 超能力を使えるようになって、はじめて後悔した予知だった。

「ソフィアさん。無理に言わなくても……」

「ありがとう。一恵。大丈夫です……続けます」

 のどの渇きを感じ、出されていた紅茶を一口だけ飲むと話を再開した。

「電車に乗っていた時に、偶然にも暴漢達のリーダーに触れてしまい。彼らが実行した結果、扶桑島で大規模な人災に見舞われる未来を見ました」

 部室に重苦しい空気が漂うが、ソフィアは最も重要なことを告げた。

「それは、暴漢達によって、引き起こされたことだったのです」

「おい! ちょっと待てよ! それって、すげぇーやばいじゃねぇ?」

「真理亜、驚くなとは言わないけど、ソフィアさんに詰め寄らない!」

 ソフィアの話の内容に、驚きと興奮で勢いに任せて、詰め寄ろうとした真理亜をクロエが止める。

 逆に同じように衝撃を受けた一恵は、目まいを起こして向日葵に心配されていた。

「予知で見た未来となると、問題は的中率ですね……予知が必ずあたると言う訳ではないですから」

「同じ予知能力の向日葵も、外れるときは外れるけど……暴漢達が形振り構わず追いかけてきたから、外れるとは思えない。戒はどう思う?」

「計画している以上、計画の漏えいには十分注意を払っているだろう。ソフィアを追いかけて来たということは、計画は絶対に成功させるつもりだろう。恐らくテレパシーあたりで、思考を読み取れるように警戒していたのだろうな」

「そうなると、的中率は現状で100%だよね」

 男性陣は、予知の的中率を推測するため意見交換を始める。

 博は、予知の正確さを求めようと、現実的な視点で考え、雅人は暴漢達の行動から推察し、戒は計画性のある集団が取るべき行動を分析して、意見を総合して結論を出している。

「これが、わたくしが追われていた理由です」

「普通に警察案件だな。通報して任せるで、いいな?」

「ねぇ、バカイ。疑問なんだけどさ『予知で、計画的に災害を起こそうとしてる人がいるのを知りました。逮捕してください』って、普通信じる?」

「形ばかりの対応して、3分以内に忘れるな」

 戒の常識的な提案に対して、クロエは超能力という非常識な内容では対応してもらえないと考えてしまう。

「そんじゃ、警察は無理じゃねぇーか! だったら、アタイ達で解決しちまうのがいいじゃん! かずっちも雅人もそう思うだろ?」

「そうですね。超能力が前提になりますと、解決までは無理でも警察に動いていただけるような、確証は必要だと思います」

 戒が警察に頼ることを提案したとき、ソフィアは内心、焦りを感じた。

 だが、クロエと真理亜のおかげで流れが変わったので、個人的な事情で警察にるわけにはいかなかったので、そっと胸をなでおろした。

「戒君。このまま、警察に頼ったとして、ソフィアさんの安全は保障されると思いますか?」

「五分五分と言ったところだな……普通ならばな……」

 博の指摘に対して、戒はソフィアを見据えて返答した。

 ――先ほどの焦りを、戒様に見抜かれたのでしょうか?

「だけどさ。超能力が絡んでるなら、同じ超能力で対処した方がよくないか?」

「日本は法治国家だ。目の前で違法をすると言うならば、友として忠告せざる終えない」

 戒の忠告は、至極真っ当なものだ。そして、雅人の考えも人としての美点と言っていい。

 それ故に、両者に意見が均衡し、部室内の空気は重苦しいものになった。

「それなら、こんな提案はどうかな?」

 博の眼鏡が逆光で光り、そのレンズの向こうにある瞳に火がついたような輝きを見せる。

「まず、ソフィアさんが見た、イメージの場所を特定する。これで、雅人の意見である超能力で対処することになります」

「なるほど、流石、ひろしっちは頭がいいぜ。それなら危なくないしな」

「次に、場所がわかり次第、暴漢達が出入りしていることを確認したら、そこで警察に通報して、後はお任せする。この流れならば、戒も納得できると思います」

 福祉教育部のメンバーの中で、控えめな印象があったが、意見が別れ対立しそうになる前に、折衷案をまとめ上げた博の印象をソフィアは密かに修正した。

「落としどころとしては、しかたがないか……」

「みなさん。福祉教育部は、博くんの案を採用します。異議のある方はいますか?」

 一恵は方針が決まったので、最後の確認を皆に求めた。

「では、決まりです。がんばりましょう!」

「皆様。ありがとうございます。よろしくお願いします」

 ソフィアは個人的な事情から、公的機関との関わりは、極力避けたい事情があったので、意図的に話の流れを作り出したうしろめたい気持ちはあったが、福祉教育部の決定は大変ありがたいものであった。

「そうとなれば、ソフィアが見た予知のイメージを聞いておかないとね。バカイ、悪知恵の使いどころよ」

「否定はしないが、クロエに言われると腹が立つな」

「あー。おちゃとおさらをおかだつけするね」

 決まってから、それぞれの動きが速く、先ほどまでお茶とクッキーが置かれてた机には、地図と筆記用具にタブレットが並べられていた。

「雅人様。皆様、手慣れている印象がありますけど……」

「まぁ、何というか……俺たちも超能力に目覚めたときは、いろいろあってさ、超能力で困ってる人がいたら助けようって決めているんだ」

 福祉教育部は、超能力に覚醒した生徒の相談から解決まで、出来ることをやってきた。

 これは中心になっている雅人の人柄による要因が大きい。

「ソフィアさん。話すのは辛いかもしれませんが、予知のことを詳しく聞かせてください」

「はい。博様。まず、部屋の窓から扶桑セントラルタワーが見えました。それと……」

「晴れていましたか?」

「はい。空が赤くなり始めていたので、夕方頃だと思います」

「音に関して、何かないか?」

「車ではないと思いますが、エンジンの音だと思いますが、耳に残っています」

 矢次に出される質問に、ソフィアは一つ一つ、慎重かつ確実に答えていく。

 見た予知を写真出来れば、場所の特定する近道になったのだが、残念ながら福祉教育部にはソートグラフィティー……念写能力を持った超能力者がいなかった。

「聞くことの出来たことから、場所を特定するって難しい」

 広げた地図に、ソフィアにした質問の答えを元に、様々な印や書き込みをしたのだが、うまく絞れず混沌とした状態になってしまった。

「一恵、ソフィアの提示した情報を書き留めてたな? 見せてくれ。クロエ、新しい地図を出せ」

「あ、はい。こちらにまとめてあります」

「命令するな。バカイ!」

 出された資料を手に戒は、地図を見比べる。

「まず、予知でイメージを見た方角を特定する。扶桑セントラルタワーはこの向きで見えたのは間違いないな? 日光から太陽の位置がわかるから……北北東の方角だろう」

 扶桑セントラルタワーは扶桑島のほぼ中央にある塔で、島の管理をする施設の一つであり、観光名称でもある。

「周辺の建物がハッキリしない……画像検索で出てきたタワー周辺の写真で、見えたものに近いものがあるか?」

「あ……はい。これに写っているビルは、たぶん、見えていたと思います」

「となると、このあたりか。絞り込みが出来ないが距離とすると……扶桑セントラルタワーから、北北東に10kmから20kmの範囲が可能性が高いな」

「すごい……戒様は、いったい何者なのですか?」

「なんと言いますか……マニアな人でしょうか?」

 戒の時折見せる探偵のような知識と技術は、一恵にとっても不思議なことで、どうして身につけたかと、理由を聞いても答えてもらったことがない。

 雅人や真理亜から聞いた話から、特定の知識に詳しい人だと一恵は思っている。

「この程度なら、そんなに難しいことではない。写真でもあれば、誰でも正確に特定できた可能性が高いが……雅人」

「わかってる。後は、探し回るしかないな。博、行こうぜ」

「アタイも行くぜ!」

「わりぃ、真理亜は一恵達と一緒に、ソフィアを守ってくれると助かる」

「うぅぅぅ……雅人が、どうしてもって言うなら、しかたがないか!」

 ソフィアを守り、安全を確保するのが前提条件である以上、雅人の頼みを釈然としないところはあるが、真理亜は素直に従った。

 誰かのために、真っ直ぐ頑張っている雅人のことが好きだから、彼の助けになれるなら気持ちを前向きに切り替えられる。

「護衛は同性の方がいい……それと俺は別行動を取る」

「戒、気になることでもあるのか?」

「そんなところだ。雅人、何かあれば連絡する」

 戒は残っていた紅茶を飲み干すと、振り返らずに部室を出て行った。

「まったく……バカイも一緒に動けばいいのに……」

「戒様は、お一人で行動することが多いのですか?」

「福祉教育部の部員じゃないから、時々だけど協力してくれるのは、助かるんだけど……やっぱり、超能力を持ってないことを気にしてるのかな?」

 クロエは仲間の輪で、戒が常に一歩引いたところにいることを気にしていた。

 そのことはソフィアも感じていたが、それ以上に気になったのが、戒が超能力を使えないことであった。

 明らかに異質な存在であるから、超能力が使っているといつの間にか思い込んでいたが、それは間違いであった。

「……少し、警戒しておかないといけませんね」

「よっしゃ! 俺たちも行くぜ!」

「はい。福祉教育部、活動開始です!」

 ソフィアの呟きは、雅人達のやる気に満ちた掛け声にかき消されて、誰の耳に届くことはなかった。


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