クニヒコ、祝採用?
「どうぞ」
扉の向こうには、40代半ば位の年恰好の、優しい笑顔の男性が待っていた。
「あぁ、良く来てくれたね。
君がクニヒコ=レインホープくんだね。
まあ、どうぞどうぞ。座ってください。」
低くてよく通る声で言った。
「初めまして。クニヒコ=レインホープです。
本日は、この様な採用選考の機会を与えて頂き、ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
クニヒコはガチガチに緊張しながらも、なんとか挨拶を終え、イスに腰掛けた。
「わたしが、この冒険者パーティーのリーダーを務める、グレーマン=ドーズだ。よろしく。」
クニヒコは顔を上げてグレーマンを見た。
やや背が低いが、がっしりした体格のグレーマンは、
優しくクニヒコに微笑んだ。
グレーマンによると、近いうちにいつもより大きなクエストを受注する予定で、そのために現在のメンバーでは、人手が足りないそうだ。
普通なら、フリーランサーの冒険者を短期アルバイトで雇う所かも知れないが、グレーマンの方針では、常に専属の冒険者としかパーティーを組まない。
後に、グレーマンがクニヒコに語った所によると、
「超一流は別として、そこら辺でくすぶってる流れ者なんてのは、口ほどに仕事の出来る奴なんていないぜ。
そもそも、それなりの実力があるなら自分がパーティーを集めて、実績をあげてるはずだ。
オレに手助けするヒマがあるヤツの実力なんて、たかが知れてるってもんだよ。」
だそうだ。
さて、グレーマンによるクニヒコの面接に話は戻る。
クニヒコの留年歴と退職歴には多少の不安があるものの、その性質が悪人ではない事をグレーマンは見て取った。
「よし。今度のクエストにはお試しで参加してもらおう。その時の働き次第で、正式メンバーとして雇用するか判定させて欲しい。
また、クニヒコ君も、一度一緒にクエストをこなしてみてから、我々の正式な仲間になるか決めてくれれば良い。」
即、正式採用とはならなかったが、クニヒコはこの申し出を喜んで承諾した。