プロローグ
2010年10月13日。
この日、帝京は平和な日々を送っていた。
帝京駅から、会社に行くサラリーマン。
賑やかに登校する小学生達。
渋谷のスクランブル交差点から
流れる音楽。
この後に起きる惨劇は
この時は誰も知らない。
帝京から離れた山奥の豪邸で、
私は学校の支度をしていた。
「佳奈お嬢様。朝ご飯の支度が
出来上がりました」と執事の優さんが
私の部屋をノックして入って来た。
「変態。人の着替え覗かないで」と
下着姿の私は、お気に入りの髪留めを
優さんに投げつけた。
「佳奈お嬢様。いつものタイミングで
投げるのは止めて下さい」と執事の優さんは
苦笑いしながら、お気に入りの髪留めを
キャッチした。
ドSの優さん嫌い。いつものタイミングで
お気に入りの髪留めを、すぐにキャッチ
するの。
そう考えていたら、お腹が鳴っている。
「優。今日は、見逃してやるわよ。
次はないからね」と私はツンデレ風に
言ってやった。
「佳奈お嬢様。いつものワガママは
旦那様は効きますけど、僕には
一切効きませんからね」と執事の優さんは
悪魔な微笑みを浮かべて、キッチンの方に
戻って行った。
めっちゃ悔しかった。
昔は、すごく優しかった。
執事の優さんは、私が生まれた時に
神崎家の執事としてやってきた。
優さんは、私にいろんな話を
してくれた。
あの頃の優さんが、一番好きだった。
今の優さんは、一番嫌い。
学生服に着替えて、朝ご飯を食べていた。
「旦那様と奥様は、朝早くから
お出かけでございます」とエプロン姿の
執事の優さんがミーストローネのスープを
スープ皿に注いでいた。
「どうせ、いつもの宝石店巡りでしょ」と
私はオニオンソース炒めの焼きそばを
食べて、テレビを見ていた。
テレビを付けた瞬間、帝京の首都が燃えていた。
この時、私の運命の歯車が回り始めていた。