第二十話「紅魔再戦」
夜を止めていたのは、紅魔館の吸血鬼レミリア・スカーレットとその従者である十六夜咲夜。悠子と幽々子は里の人たちを救うため、そして妖夢師匠を狂わせた元凶を断つために、再び紅魔組に戦いを挑む――
それでは、東方悠幽抄、第二十話です。批評、コメント等ありましたら、よろしくお願いします。
――――私と幽々子は夜を止めた犯人を追いかけ、竹林を駆けていた。
竹林は爛々と輝く月に照らされ、不思議な魔力に満ちているようであった。
このおかしな月に照らされている幻想郷は、夜を止められたことで過剰な月の魔力により狂気に覆われようとしていた。
夜を止めている犯人は――紅魔館の吸血鬼、レミリア・スカーレットと、その従者である十六夜咲夜だ。
彼女たちを止め、里の人たちを――そして、妖夢師匠を助けなければならない。
そう決意し、先を急ぐ私に後ろから声がかけられた。
「悠子、おいてかないでよー……」
情けない声の主は、私の半身である幽々子であった。
幽々子は息切れし、近くの竹にもたれかかった。
「はぁはぁ――もう無理、走れないわ…… 私、ここで待ってるわ」
妖夢師匠の技により実体となっている幽々子は、亡霊体の時と違い空を飛ぶことができない。
日頃、亡霊として浮いてばかりいた幽々子にとっては、走ることは苦痛のようであった。
私は立ち止まり、幽々子に手を差し伸べた。
「幽々子は稽古不足なのよ。――ほら、手を引いてあげるから一緒に走りましょ?」
幽々子は渋々といった様子で私の手を握った。
そして、頬を膨らませながら私に文句を言った。
「私はすでに死んでいるから、稽古しても体力は大してつかないのよー」
私は幽々子の言い訳に呆れ、ため息をついた。
「はぁ、亡霊だからって千年も怠けていた結果がこれなんじゃないの?」
「私だって妖鬼さんがいたときまではそれなりに稽古はしていたのよ~」
妖鬼さん――妖夢師匠の、師匠。
話でしか聞いたことは無いが、妖夢師匠に剣の教えを授けた人。
私は妖夢師匠の力を借りてここまで来た。
少しでも師匠に近づけているのだろうか?
――ドゴーン!!!
私と幽々子がそんな軽口を交わしていると突然、遠くから大きな音が聞こえた。
音のした方を向くと、凄まじい光の柱が収束したところであった。
「一体、何があったのかしら?」
「行くわよ、幽々子!」
「あ~ん! 待って~、悠子! もう少し休ませてよ~」
私たちはその光に向かって走り出した――
◆
――――光の柱が収束した地点では、周囲の竹が薙ぎ倒されていた。
その場所には吸血鬼、レミリア・スカーレット、そしてメイド長、十六夜咲夜がたたずんでいた。
そして彼女らの足元には、衣服がボロボロになった霊夢さんが膝をついていた。
「スペルカードブレイクよ。なかなか楽しかったわ、霊夢」
レミリアはそう言って霊夢さんを見下した。
霊夢さんは悔しそうにレミリアを睨みつけた。
「くっ…… やっぱり二対一は辛いわね」
霊夢さんはそう呟き、頭を垂れた。
レミリアはそんな霊夢さんの姿を見てニコニコしながら容赦ない一言を言い放った。
「弾幕ごっこで負けたんだから、良い子はさっさと帰って寝なさい。まだまだ、夜は続くんだから」
「お帰りはこちらですよ、霊夢さん」
咲夜さんはスッと人里の方向を指差した。
霊夢さんは脇腹を押えながら立ちあがった。
「くっ、あんたたち宴会の時は覚えてなさいよっ……」
悔しさをにじませながら、霊夢さんは脇腹を庇いながらゆっくりと飛び去って行った。
脇腹――そこは以前、私の起こした異変で怪我をした場所と同じであった。
「霊夢さん……すみません」
霊夢さんはきっと脇腹を庇っていたため、負けたのだ。
もし私が異変を起こしていなければ――そんな後悔に襲われた。
だが、それは結果論だ。もう、どうすることもできない。
――そんな後悔を含んだ私の呟きが、レミリアと咲夜は耳に入ったのか、こちらを顔を向けた。
しかし、まるで興味がなさそうにくるりと背を向けた。
「さぁ、咲夜――行きましょう」
「はい、お嬢様」
私はレミリアと咲夜さんに向かって声を張った。
「待ちなさい!」
私は小太刀を素早く引き抜き、レミリアに飛びかかり、刃を振り下ろした。
――キィーン!
刃がレミリアに届く寸前のところで、私の一撃を咲夜さんがナイフで受け止めた。
咲夜さんは私と鍔迫り合いをしながら、冷たい視線を向けてきた。
「お嬢様に手を上げるのなら――容赦しませんよ?」
私はそのまま、つまらないものを見るような瞳で私を見るレミリアに向かって言い放った。
「あなたたちを止めないといけない! 夜を止めているあなたたちを!」
「ですから、私がいる限りお嬢様に手は――くっ!?」
突然、凄まじい妖気と桜の花びらを纏った弾幕が咲夜さんを吹き飛ばした。
振り向くと、先ほどまで息を上げ黙り込んでいた幽々子が高々と扇子を掲げていた。
そして、掲げた扇子を下ろし私に囁いた。
「センスオブチェリーブロッサム…… 面倒だけど、従者は私が相手をするわ」
「でも、咲夜さんは……」
「私を誰だと思っているの? 年期が違うわ。 ――それに、あなたが勝てたのに私が勝てない道理はなくてよ?」
幽々子はそう冗談染みた口調で言った。
私はそんな変わらない幽々子に少し嬉しくなってしまった。
「ありがとう、幽々子」
私は幽々子に感謝の言葉を述べた。
幽々子は小さく微笑み私に背を向けた。
私も幽々子に背を預け、レミリアに向き直った。
「ふんっ、使えないメイドね。 まぁ、咲夜のおかげでここまでできるんだけどね」
レミリアは吹き飛ばされた咲夜さんの方に目を向け、鼻を鳴らした。
「あなた、夜を止めるのを――時の流れを正常に戻しなさい!」
「なんで私が指図されにゃならんのよ」
レミリアは全く聞く耳をもたなかった。
「でなければ、私が……」
「どうするって? 私に手も足も出ずに負けた人間風情が」
レミリアはそう言って私を見下した。
だが、今の私はあのときの私とは違う。
「今の私には妖夢師匠の力がある――それに、幽々子もいる!」
そして、小太刀を力強く握りしめた。
そこから、妖夢師匠の妖力が溢れだした。
「ならば、見せてみなさい! その力とやらを!」
レミリアは私の妖力を見て興が乗ったのか、翼を大きく広げ臨戦態勢を取った。
私は先手必勝とばかりレミリアへと踏み出した。
「行くわよ! 断命剣『冥想斬』!」
私は小太刀を大上段に振りかぶった。
そのまま、霊気を纏った一撃をレミリアに叩きつけた!
レミリアはその一撃を見上げながら、ニヤリと笑った。
「前みたいに能力に頼った単調な動きではなくなっているわね。少しは楽しめそうね」
そう言いながら、レミリアはひらりと私の剣撃をかわした。
私は振り下ろした小太刀を持ち直し、レミリアの脇腹に向かって素早く撃ち込んだ!
「胴っ!!」
胴は確実に決まった。
だがレミリアは、あろうことか小太刀を素手で受け止めていた。
「くっ……」
「ただの小太刀で勝てると思った? 吸血鬼に対して何も弱点をもっていないなんて、舐めているの?」
レミリアは小太刀を手で受け止めたまま、真正面まで持ちあげた。
まさに鍔迫り合いのような位置関係となった。
私の必死な顔を見つめながら、レミリアは愉快そうに笑った。
「吸血鬼と人間の格の違い。前回、教えたはずだけど?」
逆に私は一つも笑わず、小太刀を強く握りしめた。
「私はもう負けない――わっ!」
私は小太刀を押すのではなく、自分の方へと引きつけた。
レミリアは突然の私の行動に驚き、体勢を崩した。
私はその隙を見逃さなかった。
この至近距離なら、当たる!
「面っっ!!!」
私は一歩引いた姿勢から一歩踏み込み、レミリアの頭部に引き面を撃ち込んだ!
――バサッ
レミリアの帽子が宙を舞った。
小太刀の先が帽子の装飾に引っ掛かり、レミリアの頭からずり落ちたのだ。
やはりレミリア――吸血鬼は速かった。
あの一瞬、まさに刹那で体をずらしたのだ。
この至近距離でも一撃を加えることができなかった。
私は額に嫌な汗が伝った。
レミリアは気にした風でもなく、地面に落ちた帽子を見て残念そうな声を上げた。
「あーぁ、私のお気に入りの帽子が。ちゃんと洗濯して返してよね?」
その余裕そうな言葉に対し、私はまったくもって笑えなかった。
どうすればいいのかわからなかったが、私は小太刀をレミリアに向け震えながらも声を絞り出した。
「つっ、次は外さないわ」
「プルプル震えて可愛いわねぇ、人間?」
レミリアはそう言って舌なめずりをした。
そして、空に飛び上がった。
背後の狂気の月に照らされた姿はまさに――夜の女王〈クイーン・オブ・ミッドナイト〉。
私は声を失ってしまった。
レミリアの言葉が夜の竹林に響き渡る。
「私は運命を操ることができるの。あなたの運命は――再び私に負け、霊夢と同じ道を引き返す運命よ」
私にはレミリアの言葉が死刑宣告に聞こえた。
――殺される……
私はそんな嫌な想像を振り払い、再びレミリアのいた中空に目を向けた。
――が、そこには爛々と輝く月しかなかった。
「どこっ! どこに行ったの!?」
私は動揺し、周囲を見渡した。
しかし、こんな明るい夜でもレミリアの姿を見つけることができなかった。
こんな真夜中に吸血鬼に勝負を挑んだこと自体が無謀であったのだ。
「バンパイアキス……」
背後からレミリアの声が聞こえた途端、首筋に鋭い痛みが走った。
――私には一瞬、何が起こったのかわからなかった。
だが、否が応でも伝わってくる――私の首筋に突き刺さった、冷たい『牙』の感触が……
「いっ、いやあぁぁぁっ!!!」
私は恐怖から、本能的に悲鳴をあげた。
私の中から何かが吸い上げられる感覚がある。
膝を折り、天を仰ぐ私から容赦なく奪い取られていく。
そして、私の意識は――――
◇
――――幽々子と咲夜は互いに一歩も動けずにいた。
吹き飛ばされた咲夜はそれを追いかけてきた幽々子と弾幕勝負を展開していた。
幽々子は咲夜が時を止めるのを警戒し、咲夜は初めて会った幽々子が一体何をしてくるのか出方をうかがっていた。
咲夜はこの沈黙に耐えきれず、幽々子に声をかけた。
「あなた、何者なの?」
「私はしがない亡霊ですわ」
幽々子はそう言ってにっこりと笑った。
咲夜はそんな幽々子に対しニコリともせず言葉を続けた。
「そう…… でも、あなたの出自なんて実際どうでもいいわ。今晩のお嬢様はせっかく気分がよろしかったのに――台無しですわ」
咲夜は笑ってはいなかったが、不機嫌そうな瞳を幽々子に向けた。
一方幽々子は、そんな咲夜の言葉に落ち着いた声で答えた。
「それを言ったら、うちの悠子なんかあんたの主人のせいで、この数ヶ月――滅茶苦茶よ」
「??? 何のことかしら?」
「呑気でけっこうなことね」
幽々子の顔は相変わらず笑っていたが――目が笑っていなかった。
咲夜はその恐ろしい笑顔を見て、悪寒が走った。
まるで、子どもの頃に向けられた純粋な悪意のようなものを感じた。
だが、紅魔館のメイド長・十六夜咲夜はその程度では怯まなかった。
懐から幾本ものナイフを取り出し、構えを取った。
「どんな恨みがあるにせよ、私にはお嬢様をお守りする使命がある! バウンスノーバウンス!」
咲夜は突然、上空に向かってナイフをばら撒いた。
しかし、どこからもナイフが幽々子を襲うことは無かった。
「どうしたの? ちゃんと狙いなさいな」
「油断しないことね、スクウェアリコシェ!」
今度は幽々子に向かい一直線に一本のナイフを投げた。
幽々子は体をわずかにずらし、ナイフを回避した。
そして、扇子を広げ、口元を隠した。
「一体何を狙って――!?」
――キィーン
幽々子は反射的に扇子を薙いだ。
弾き飛ばされたのは――咲夜のナイフ。
先ほど上空に投げたものの一つであった。
幽々子は周囲を見渡した。
咲夜の投げた無数のナイフが、しなる竹に跳ね返り飛び交っていた。
(やってくれたわね……)
幽々子が一人ごちた直後、再びナイフが背後から飛来した。
幽々子は振り向きざまにナイフを弾き飛ばした。
「小細工ばかりっ」
幽々子はまるで舞を舞うかのように襲いかかるナイフを叩き落とした。
だが、ナイフに気に取られていた幽々子の背後から咲夜のスペルカード宣言が響いた。
「ナイフにばかり気を取られている場合ではないわよ! 傷魂『ソウルスカルプチュア』!!」
咲夜は手に持った銀のナイフで幽々子に斬りかかった!
そして、素早い無数の斬撃が幽々子を襲った!
「きゃあ!?」
幽々子はとっさに広げた扇子で防いだ。
が、扇子だけでは防ぎきれず、斬撃を受けた扇子がボロボロになり宙を舞った。
幽々子の服は裂け、小さな血しぶきが飛び散った。
――幽々子は大きく後退し、ボロボロになりながら息をついた。
「はぁはぁ、やってくれたわね……」
咲夜は足元に散らばるナイフを拾いながらゆっくりと幽々子に近づいてきた。
「どう? 亡霊か何だか知らないけど、この銀のナイフの前では妖怪でも鬼でも何でも切れるわよ?」
咲夜はボロボロになった扇子にちらりと目をやり、小さく笑った。
幽々子は扇子に目も向けず、妖夢から受け取った白楼剣を抜き、構えた。
「流れるような動き、そして凄まじい空間制圧能力ね。だけど、所詮は子供騙し…… 死蝶『華胥の永眠』!!!」
「ぐっ!」
突如、幽々子を中心として、美しい蝶の弾幕が展開された!
それは、月に照らされた竹林を覆い隠して行った!
周囲にバウンドするナイフはすべて弾幕にかき消され、地面に落ちた。
咲夜はその弾幕に視界を奪われ、ひるんでしまった。
すると、目の前で次の幽々子のスペルカード宣言が聞こえた。
「 蝶符『鳳蝶紋の死槍』!」
咲夜はとっさにナイフを構え、妖気を纏った凄まじい突きを受け止めた。
刃物と刃物がぶつかり合った高音が静寂を支配した。
「へぇ、私のこの一撃を受け止めるなんて、やるじゃない」
「私は油断しませんのよ」
「それは、良い心がけだ――こと!」
幽々子は白楼剣をずらし、咲夜の手に握られた銀のナイフを弾き飛ばした。
咲夜はナイフ弾き飛ばされ痺れた腕を抑えながら幽々子を睨みつけた。
すると、幽々子はふと疑問を口にした。
「何でお得意の『時止め』をしないの?」
「何ででしょうね?」
咲夜は幽々子から目をそらさず、とぼけた。
しかし、幽々子は感づいていた。
おそらく、この夜を止めている張本人はこの従者だ。
そちらに能力を割いているために、本人は十分に能力を行使できないのであろう。
この状況、以前に悠子と戦ったときように『手抜き』をしている状態とも受け取れる。
幽々子はこの不完全な体でもこの従者を仕留める自信は十分にあった。
「さて、そろそろ決着をつけたいんだけどね――」
そう幽々子が従者に話しかけたとき、遠くで耳をつんざく叫び声が聞こえた。
「いっ、いやあぁぁぁっ!!!」
幽々子は聞き覚えのある声が聞こえた方向に勢いよく振り向いた――
◇
――――いっ、いやあぁぁぁっ!!!
私、幽々子はその叫び声を聞き、背筋が凍った。
(この声は――悠子!?)
この声の主が悠子であるとすぐにわかった。
だが、この声色。
いつもの悠子ならここまで恐怖に引きつった声はあげない。
きっと良くないことが起こっている。
私はキッと悪魔の従者を睨みつけた。
「一度停戦よ、悪魔の犬!」
「あっ、待ちなさい!」
私は驚く従者を無視して、悠子と吸血鬼の戦っていた場所へと駆けだした。
――私が二人の戦っていた場所に駆け付けた時にはすでに、悠子がレミリアに……噛みつかれていた。
私は悠子の名を叫び、急いで駆け寄ろうとした。
「悠子!」
私が一歩踏み出そうとすると、背後から従者に取り押さえられた。
私はそのまま地面に倒され、頭を地面に叩きつけられた。
そして、体を固定され身動きが取れなくなってしまった。
「あなたの相手は私でしてよ?」
私の目の前で悠子の体が震えているのが見える。
吸血鬼に噛まれると人はどうなってしまうのか?
外の国の噂だと、その人は吸血鬼になってしまうという。
だが、レミリアの異名は――スカーレットデビル。
血を飲みきれず服にこぼしてしまい、服が血の色に染まっていることからの異名。
吸血鬼になることは無いにしても、大量出血で――っ!?
急に頭の中に目の前に血だまり広がって行く映像が見えた。
私は今までそんな血を流したことは無い。
だって、亡霊だったのだから。
では、この映像は――忘れていた過去の記憶?
私の混乱した意識は、体に覆いかぶさっていた悪魔の従者の言葉で現実に引き戻された。
「お嬢様に噛みつかれたあの人間――今回は一回休みですわね」
「くっ……この姿が妖夢の力を借りたものでなければ―― 美しい死に姿をあなたの主人に見せてあげるのに」
「それは御免蒙りますわ」
そんなやり取りをしている間にも、悠子の顔から生気が抜けていくのがわかる。
特に今晩は連戦で疲労が蓄積していて、普通の人間である悠子は限界を迎えつつあるはずだ。
このままでは、悠子がもたない。
だけど、私は身動きが取れない。
私は柄にもなく心の中で悲鳴を上げた。
(誰か――誰かぁ! 悠子を助けてぇ!)
心の中では誰にも見せないような声で懇願をした。
だが、その願いが聞き届けられることは――
「鳳翼天翔!」
突然、私たちの真横を凄まじい炎が通り過ぎた。
そして、その炎はレミリアに直撃し、彼女の羽根を焦がした。
「ぎゃーっ!」
「お嬢様!?」
レミリアはそう叫び、地面を転がった。
悪魔の従者は私を取り押さえるのを止め、羽根についた火を消すために転がっているレミリアに駆け寄って行った。
私が振り向くと、竹林の奥から白髪の少女が現れ――いや、その少女は普通ではなかった。
その少女の腕はこの長い夜の月の光を飲み込んでしまう程、強く輝く炎をまとっていた。
「こんな夜中にうるさいなぁ。ただでさえ、妖怪どもが何だか騒がしいのに、こんなところでドンパチされたらたまらないね」
そう言って、その少女は頭を掻いた。
一方レミリアはやっと羽根についた火の消え、従者に助けられながら立ちあがった。
そして、少し目に涙を浮かべながら、白髪の少女に向かい胸を張って言い放った。
「私は誇り高き吸血鬼であり、紅魔館の――」
「誇り高くても、弱点は隠せていませんよ。お嬢様」
レミリアに対し、悪魔の従者の容赦ないツッコミが入った。
「うーっ、いいのよ!」
レミリアは悔しそうに帽子で顔を隠した。
私はそのとき一つの考えに至っていた。
(そうか、吸血鬼の弱点の一つは―― 炎。これで、あの吸血鬼を倒せる)
私のそんな思考とは関係なく、白髪の少女はレミリアに炎を纏った拳を向けた。
「あんまり騒ぐっていうんなら――私があんたたちを焼き払ってもいいんだよ?」
そう言って、その少女はレミリアを睨みつけた。
真っ赤に燃えあがる炎に照らされ、永遠の夜はさらに深まって行く――
明けましておめでとうございます! 昨年はお世話になりました。
感慨深いもので、この東方悠幽抄もとうとう第二十話を迎えました。ここまで続けてこられたのも東方悠幽抄を見てくださっている方々のおかげであります。最近更新ペースが落ちてきてしまっていますが、今年度も精進していきたいと思っております。
それでは、今年もよろしくお願いいたします!
追記(2013/01/19):最近諸事情で忙しく、次話の投稿はずいぶん後になりそうです。もし待っていてくださる方がいらっしゃるのなら申し訳ないです・・・




