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第十八話「永夜異変」

 悠幽異変が霊夢、魔理沙、そして紫が解決し、白玉楼で謹慎していた悠子と幽々子のもとに新たな異変が襲いかかります。そんな悠子は幽々子の過去を心の中に引きずっていた――

 それでは、東方悠幽抄、第十八話です。感想、批評、誤字脱字の指摘などなど、気軽にコメントをくださって結構です。宜しくお願いします。

 ◇


 ――――これで、姫様を……守れる。


 私の小さな呟きが部屋の中に木霊した。

 私は目の前の三日三晩かけて作り上げた術式がしっかりと機能していることを確認した。

 ――大丈夫、完璧に機能している。

 私は満足し、一息ついた。

 しかし、これからが正念場。

 使者たちはどういう手段に打って出てくるかわからない……

 私は大切な姫様を思い、気を引き締めた。

 すると、奥の部屋から私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「……、どこ……い…の?」


 その声の主は私が守るべき、姫様。

 私は素早く術式を独立させ、立ち上がった。


「姫様、すぐに戻りますわ」


 そう姫様に聞こえるように返事をし、私は魔力に満ちた部屋を後にした。

 窓から見える竹林には、太古の月の膨大な魔力が降り注いでいた――



 ◆



 ――――私、藤見悠子の能力の暴走により引き起こされた異変は、霊夢さんと魔理沙、そして紫さんにより食い止められた。


 正確には紫さんの『境界を操る程度の能力』により私の体から妖怪の力を引き剥がすことによって解決された。

 後で紫さんから聞いたのだが、もしあのまま暴走を続けていたら、私の精神は妖力に飲み込まれ消滅してしまうところであったらしい。

 今では、私の中に封印されていた妖怪の力はほぼすべて取り除かれている。

 ――瞬間移動やパーフェクトフリーズが使えなくなったのは少し残念だが。


 私は異変の後に十分に休息をとり、体も心も元に戻っていた。

 そして、復帰した私は何よりも先に私は慧音先生に謝りに行った。

 霊夢さんは巫女の感で私を疑い、慧音先生のもとを訪ねたと言っていた。

 そのとき、慧音先生は私を信頼し、庇ってくれたという。

 ――私はその信頼を裏切ってしまったことに対する謝罪に向かった。

 自分が異変の元凶であったと。

 罵られても構わなかった。

 そして、寺子屋の剣術指導役も降りようと考えていた。


 ――しかし、慧音先生はそんな私を許してくれた。


「能力を奪い取るのは酷いことだが、今回はまだ害を成す妖怪を退治する意味では正当性がある。 ――本当に大事にならなくてよかった」


 慧音先生はそう言って私の手を握ってくれた。

 私はつい目頭が熱くなってしまった。

 そして、目に涙を浮かべながら一言。

 ――これからも宜しくお願いします。

 とだけ伝えた。


 そして次に、唯一理由なく襲いかかってしまった草の根妖怪ネットワークのわかさぎ姫さんにも謝罪しに出かけた。

 彼女は一方的に襲われたにもかかわらず、すぐに私を許してくれた。

 ――というよりも、彼女はもともとおとなしい妖怪らしく、あんまり人と話すのもなれていないらしい。


「影狼も帰ってきたし良かったわ。この幻想郷にいる妖怪はすべて人間に害を成すわけではないのよ。あのときは、私も必死だったから……」

 そう言って、恥ずかしそうにしていた。

 私は草の根妖怪ネットワークの妖怪たちには人間に害を成さない以上は襲いかからないこと約束し、霧の湖を後にした。


 私が能力を封印していたルーミア、チルノそして大妖精も元いた場所に帰って行った。

 彼女らの場合、白玉楼の二百由旬の庭園という新しい遊び場所が見つかったことに満足しており、私への恨みはほとんどないようであったが……


 こうして、私たちの起こした妖怪の神隠しの変、『悠幽異変』は幕を閉じていった――



 ◆



 ――――最近のあなた妙に優しいわね。


 白玉楼の縁側でお茶を飲んでいた私に幽々子が話しかけてきた。

 私は手に持ったお茶を傍らに置いた。

 そして、少し慎重になりながら返事をした。


(そんなことない……わよ?)

(いや、絶対気を使っているわ。今日なんて私が嫌がるから途中で稽古を中断してくれたでしょ?)

(いや、気まぐれというか……私はいつも通りよ)

(私は楽しかったから、異変のことは気にしていないのに……)


 幽々子はそう呟き、黙ってしまった。

 私が幽々子に気を使うのは異変そのもので幽々子に迷惑をかけたからではない。

 実際幽々子の過去の話を聞いてから、私はどうも上手く幽々子に接することができずにいた。

 異変直後であったから幽々子も何も言わなかったが、そろそろ心配になってきたのだろう。


 ――異変で幻想郷全体に迷惑をかけた私たちは、紫さんに白玉楼での謹慎処分を言い渡されていた。

 子供たちに剣術の稽古も付けることができず、自分の技を磨く日々を送っていた。

 こんな狭い世界の中で私が幽々子に気を使えば、嫌でも目についてしまうのかもしれない。

 

 そんな私の下に庭の手入れを終えた妖夢師匠が顔を出した。

 師匠は私の少し困ったような顔を見てその理由を尋ねてきた。


「どうしたんですか? そんな困ったような顔して……」

「いや、幽々子が――ね」


 私はお茶を濁すような返事をした。

 妖夢師匠は私が何を言わんとしているのか察し、苦笑した。


「悠子さん、剣術を極めようとするもの迷う心は断ち切りませんと。真実は――」

「――斬って知るもの、ですね」


 妖夢師匠は私の言葉に満足そうに頷いた。

 すると、幽々子がぶうたれはじめた。


(二人で何かわかったみたいにしていて、なんだか悔しいわ。妖夢と悠子のくせに……)

「くせに、って……」


 幽々子との会話を口に出した私に妖夢師匠が不思議そうな顔をした。


「何がです?」

「いや、幽々子が私と師匠の仲に嫉妬しているようです」

「!? そんな、私は幽々子様も大好きですよ!」


 慌ててそう言う妖夢師匠に対し、幽々子は可笑しそうに笑った。


(ありがとう、妖夢~ 私も大好きよ~)


 私は自分で振っておきながら、この二人の会話を繋ぐ気が起きなくなった――


 ――そして、夕刻すぎ。


 夜になり寝室へ向かっていた私は、庭で楼観剣を携え、月を見つめる妖夢師匠に声を掛けた。


「師匠はまだ寝ないのですか?」


 師匠は私の方にゆっくりと振り返り、返事をした。


「私はもう少し修行してから寝ます」

「こんな夜中にですか?」


 私は周囲を見渡しながら言った。

 満月の月明かりと幽霊が発するわずかな明かりはあるが、修行するには視界が良好とはいえなかった。

 それに、師匠はいつもはこんな時間には修行しないのだ。

 そんな私の疑問に師匠はゆっくりと説明してくれた。


「蛍雪の功とも言いますし、それは剣術にも通じるところがあります。いつでもどこでも修行を行うことは自らのためになるのですよ。 ――それに、何故かわからないですけど、今晩は力がみなぎってくるのです」

「師匠がそう言うのでしたら…… でも、暗いので怪我だけは気を付けてください」


 私がそう言うと、師匠は優しく微笑んだ。


「ふふっ、弟子に心配される師匠ですか――やっぱり私は半人前なのかもしれませんね」


 師匠はそう返し、真剣な顔つきとなった。

 そして、私に向かいスッと頭を下げた。


「それでは、おやすみなさいませ。悠子さんと幽々子様」

「はい、おやすみなさい」

(ふわぁ…… おやすみなさい、妖夢)


 私と幽々子は師匠に就寝の挨拶をし、寝室へと戻っていった――



 ◆



 ――――スッ


 寝室の襖の開く音が聞こえた。

 音に敏感な私はすぐさま目を覚ました。

 開いた襖に視線を向けると、そこには妖夢師匠がいた。

 しかし、なんだか様子がおかしい。


「師匠、どうしたんですか?」

「……」


 妖夢師匠は何も答えない。

 月の光が背となり、師匠の表情をうかがうことはできなかった。

 しかし、その影の中に赤い瞳が爛々と輝いていた。

 ――これは、異常だ。

 私はその瞳を見て悪寒が走った。


 私が立ちあがろうとすると、師匠が呟いた。


「悠子さんと幽々子様が霊になるはずがない……」


 私はその異常な様子に中腰で後ずさった。

 妖夢師匠は赤い瞳で私を見据えた。


「生霊め……いつの間に悠子さんの寝室に入り込んだ……?」

「何を言っているんですか、師匠?」


 私がそう答えると、カッと目を見開いた。


「悠子さんに化けているのか? ――くそ! 二度と転生できぬよう、輪廻を断ち切ってくれる!」


 突然、楼観剣を振り上げ斬りかかってきた!

 私は横に転がり、剣撃を避けた。

 しかし、それはいつものように研ぎ澄まされた太刀筋ではなかった。

 メチャクチャに剣を振り回す師匠の攻撃を避けながら、幽々子に呼びかけた。


(幽々子、起きて!)

(ふぁぁ……何よ……? 今、気持ちよく寝ていたのに……)

(師匠がおかしいの!)

(――妖夢が可笑しいのは前からでしょ?)


 幽々子はそう呑気そうに言った。

 だが、今は幽々子と言葉遊びをしている暇は無い。


 目の前に迫る衝撃波を飛退くように回避した。


(なんで妖夢が攻撃してくるのかしら……?)

(私にもわからないわ!)


 私は剣撃を避けながら心の中で叫んだ。

 ――このままじゃまずい。

 私がそう思っている間に、幽々子はすぐ一つの答えに辿り着いたようだ。


(悠子、妖夢を止めなさい。容赦しなくていいわ)

(でも……)

(でもじゃないわ! 妖夢がこんなことするはずがない。とにかく止めてあげるのが妖夢のためよ!)


 幽々子の強い語気に押され、私は妖夢師匠を睨みつけた。

 そして、練習用の木刀を掴み、庭園に転がり出た。

 師匠は私を追いかけて庭に飛び出て、素早く上段の構えをとった!


「断命――」


 あれは、迷いを断ち切る大上段技『断命剣「冥想斬」』。

 あの一撃をくらったら私の魂は輪廻から断ち切られ二度と元の体には戻ることができなくなるであろう。

 だが、上段の構えから放たれるあの技は非常に隙が大きい。

 胴周りがガラ空きだ。

 私はその隙を見逃さなかった。


「胴っ!」

「ぐがっ!?」


 私は妖夢師匠が律儀にスペルカード宣言をする前に、脇腹に一撃を撃ち込んだ!

 妖夢師匠は腹部への強烈な打撃によろめいた。

 私はそのまま飛びかかり、妖夢師匠の頭部に追撃を打ち込んだ!


「めぇぇぇぇんっ!!!」


 ――スパァーン!

 綺麗に一本を取った音が真夜中の白玉楼に響いた。


「あぐっ……っ」


 妖夢師匠は声にならない悲鳴をあげ、苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちた。

 私は妖夢師匠に駆け寄った。

 妖夢師匠の目は、まるで血を流しこんだかのように真っ赤になっていた。


「大丈夫ですか!?」

「くそっ、生霊め…… これ以上、私をたぶらかすな……」


 妖夢師匠はそう呻いた。

 どうも師匠には私が霊に見えるようであった。


(幽々子、どうしよう……)

(悠子、妖夢の力を封印するわよ)

(えっ、でもそれは……)

(このまま、妖夢が暴走し続けてもいいの? 主と弟子を襲うようなことを妖夢が望んでいると思う?)


 私は幽々子の言葉にハッとした。

 もし私が妖夢師匠の立場だったら――無理矢理にでも止めてほしい。


(――わかったわ)


 私は小太刀を引き寄せた。

 そして、師匠の真っ赤な目を見つめながら呟いた。


「すいません、師匠……!」


 私はゆっくりと妖夢師匠の胸に小太刀をつきたてた。

 幽々子の流麗な言葉が響く。


(哀れな妖夢、その狂気をあなたの力ごと封印してあげる――)


 幽々子の呟きとともに妖夢師匠の力が私に流れ込んできた。

 私はその力をしっかりと受け取った――



 ◆



 ――――悠子さん、幽々子様……


 妖夢師匠は苦しそうにそう呟き、ゆっくりと目を開けた。

 私は落ち着かせるように、できるだけ穏やかな口調で師匠に声を掛けた。


「師匠、目が覚めましたか?」

「えっ……悠子……さん? 本物……ですか?」


 そう言いながら、師匠は頭を押さえ起きあがった。

 師匠の目はすでに赤みが引いており、いつもの剣術に真剣に取り組む目に戻っていた。

 特別、異常があるようには見えなかったので、私は早速さっき襲いかかってきた理由を尋ねることにした。


「師匠、単刀直入に聞きます。さっきは何故私を襲ったのですか?」

「私が……優子さんと幽々子様を……? 私が戦っていたのは悠子さんに化けた霊で――あれ?」


 師匠はどうも記憶があいまいのようであった。

 私は穏やかな口調で思い出せるように語りかけた。


「それでは、私の部屋を訪れる前には何をしていたのですか」

「ええっと…… 夜の稽古を行おうと思い、庭先で月を見ながら精神集中をしていたのです。 ――すると突然、周囲が赤く染まり、何が起こったのかと思い悠子さんを起こしに行ったんですが……」


 師匠はそこで一息置いた。

 そして、ハッとしたように私の顔を見た。


「そう、そこには悠子さんそっくりの生霊の姿があり、そして――」

「――すいません、師匠」

「いえ、私を止めてくれて感謝しています」


 妖夢師匠はそう言って頭を下げた。

 すると、幽々子がポツリと呟いた。


(これは異変ね)

(異変……)


 私は先日自分たちが起こした異変を思い出し胸が締め付けられた。

 一方的に関係のない人を巻き込む異変は何も生まない。

 当事者であった自分がよく理解しているつもりだ。

 

 ――もしこの異変が興味本位であるなら、私はそれを許すことはできない。

 私は頭を垂れた師匠に宣言した。


「師匠、この異変解決してきます」


 その言葉を聞き、師匠はバッと顔を上げた。


「待ってください! 霊夢さんと紫様に『大人しくしていろ』と言われたばかりではないですか!」

「この前のことは反省しています。――でも、私は恩返ししたいんです。今は被害が最小限で済んでいるかもしれませんが――いずれ大事になります」

「それは……」


 妖夢師匠は自分の胸に手を当てた。

 ――先ほどの自分の姿を思い浮かべているのだろう。

 このまま放っておけば、暴走する妖怪が多数現れるだろう。

 そうなってしまったら、人里も安全ではなくなる。

 私は、私を信じてくれた人たちのために、それを阻止しなければならない。

 私の意志は固かった。

 

 師匠は私の目を見て意思の強さを感じたのか、小さくため息をついた。


「わかりました――でしたら、この『白楼剣』を持って行って下さい」

「えっ、私は師匠の剣を使うことはできませんが……?」


 この白楼剣は魂魄家の者しか扱うことができない。

 そう、藤見の者である私と幽々子にしか扱うことのできないこの小太刀のように。

 まるで私の思考を読んだかのように妖夢師匠は理由を説明してくれた。


「悠子さんは私の力を封印したんですよね」

「すいません…… 元に戻すのには、そうせざるを得ませんでした」

「いえ、責めるつもりはありませんよ。でしたら、あなたも一時的ですが魂魄の力を手に入れたということです。この剣を持って行くことは、必ずや幽々子様と悠子さんの助けになると思います」


 師匠はそう言って私に笑い掛けてくれた。


「ありがとうございます、師匠。必ずやこの異変解決してきます!」


 そう言って、私は白玉楼から駈け出した。

 例え霊夢さんや紫さんになんと言われようとも、こんな心優しい師匠を狂わせたその元凶を必ず断ち切ることをここに誓った――



 ◆



 ――――ちょ、ちょっと待って~!


 急いで人里に向かっていた私(と幽々子)にどこからともなく声が掛けられた。

 しかし、周囲には闇ばかりで何者の姿も見えなかった。

 だが、妖怪の力を体に宿した私には、感じ取れる。

 ――背後から妖怪の気配がする。

 私は勢いよく振りかえり、声を張り上げた。


「さあ、出てきなさい! そこに隠れる闇に蠢く妖怪さん!」


 すると、闇中から驚いた声が聞こえた。


「あれ? あんた鳥目にしてやったのに、何で私の場所が分かるの?」


 そして、闇の中からすーっと妖怪の姿が浮かび上がってきた。

 その妖怪は鋭い爪と異形の翼を持っている妖怪であった。

 私は小太刀に手を掛けながら、その妖怪を睨みつけた。


「忙しいから退いてくれない? 夜は短いのよ」

「こんな夜道にせっかくのヒトねぎなんだもの。夜雀の妖怪として襲わせてもらうわよ!」


 その妖怪は喜々としてそう言った。

 私はため息をつきながら、幽々子に語りかけた。


(変な妖怪に絡まれちゃったわね……)

(チュンチュンとうるさいし、これだから小骨の多い妖怪は困るのよ。無視しましょう)

(それがいいわね)


 私はその妖怪に背を向けた。


「あんたにかまっている余裕は無いの。それじゃ!」


 私はその妖怪を振り切るために、人里に向かい全力で走りだした!


「あっ! 逃げるな、ヒトねーぎー!」


 その妖怪は私たちを追いかけはじめたようだ。

 だが、その程度の速さでは日ごろ鍛えている私には追いつけない!

 このまま行けば逃げ切れる――


 ――そう思った瞬間、目の前に別の妖怪が現れた!

 私は驚き、急停止した――が間に合わなかった。


「痛っ!?」

「ぎゃん!」


 私とその妖怪は仲良く地面に腰を打ちつけてしまった。

 私が激突した妖怪は触角を持った虫の妖怪であった。

 虫の妖怪は倒れてぶつけた個所をさすりながら私に非難の目を向けた。


「何すんのよ、人間!」

「そっちこそ、急に現れないでよ! 今、私は急いでるんだから!」


 私とその妖怪が言い合いをしていると、追いついてきた夜雀の妖怪はその妖怪を指差して声を上げた。


「あっ、リグル。ちょうどいいところに!」

「ミスティア、どうしたの?」

「今晩のヒトねぎよ。一緒にやっつけちゃいましょう!」


 ミスティアと呼ばれた妖怪は仲間が増えて声高らかにそう言った。

 私は二匹の妖怪に挟まれ、焦り始めていた。

 そして、つい荒い言葉を発してしまった。


「くっ、また変なのが増えたわね……」

「変なのじゃない! 蛍だ!」


 何が癇に障ったのかわからないが、蛍(?)妖怪は私に向かい弾幕を放ってきた!


「危なっ!?」


 私は反射的に弾幕を回避した。

 スカートの裾に弾幕がかすれ、わずかに焼き焦げてしまった。

 私はリグルと呼ばれた蛍の妖怪を睨みつけた。

 すると、背後からミスティアの声が響いた。


「私が先に見つけたの!」


 そう言って、ミスティアが背後から飛びかかってきた!

 私は素早く小太刀を背後に回し、ひっかき攻撃を受け止めた。


「二対一なんて、卑怯よ!」

「今から襲われる人間はそんなこと気にしなくていいのよ~」


 そう言って、人間よりも強い腕力で私を組み伏せようとしてきた!

 ――このまま、二対一じゃまずい! やられる!

 この状況でどうすればいいのか考えあぐねる私に、幽々子が語りかけてきた。


(妖夢から受け取った白楼剣を抜きなさい)

(こんなときに何を言ってるのよ! 二刀流なんてできないし、ただ不利になるだけよ!)

(いいから、早く!)

(くっ……!?)


 私は再び幽々子の強い語気に押され、ミスティアの攻撃をいなした。

 そして、素早く妖夢師匠から受け取った白楼剣を引き抜いた。

 その瞬間、私の心の中で幽々子の流麗な声が響いた。


(魂魄の力で私の魂を投影する――魂魄『幽明求聞持聡明の法』)


 幽々子がそう宣言すると、私の中から何かが抜け落ちるような感覚に襲われた。

 私は魂が剥離するような感覚に耐えられず、地面に膝をついた。


 ――スッ


 すると、私に誰かの手が差し出された。


「悠子、あなたは敵を前にして膝をつくような性格だったかしら?」

「ちょっとふらついただけ――」


 私の隣から聞こえてきた声に対し、返答した。

 ――が、すぐに驚きで声を失った。

 いつも心の奥から聞こえてくる幽々子の声が私の傍らから聞こえてくる違和感。

 私はバッと振り向いた。

 そこには、まるで桜の花のような桃色の髪をもつ、気品のある少女が立っていた。

 その少女は口もとを手で押さえながら微笑んだ。


「あら、初めましてかしら? 私は――」

「――あなた、本当に幽々子?」


 私は幽々子の言葉を無視して驚きを口にした。

 幽々子はそんな私に笑いかけ、冗談染みた口調で言った。


「綺麗で驚いたでしょ? といっても、桜の木の下で会ってるはずですけど?」


 私はその言葉を聞き、ついつい可笑しくなってしまった。

 そして、私の上げた笑い声がこの満月の夜に響いた。


「ははっ! やっぱり、あなた幽々子ね!」


 私はそう言って、幽々子の手をとり立ち上がった。

 

 ――その光景を見ていた妖怪たちは驚きの声を上げた。


「突然、人間の中から幽霊が現れた!?」

「おっ、落ち着いて、ミスティア! さっさとヒトねぎをやっつけちゃおうよ!」


 そんな動揺を隠しきれない妖怪たちに向かい私は声高らかに宣言した。


「行くわよ、幽々子! 文字通り一心同体の私たちの力、見せてあげる!」


 私は幽々子と共に闘えるできることに嬉しくなり、勢いよく小太刀を妖怪たちに突きつけた。

 一方、幽々子は邪魔にならぬよう袖をまくり、口で袖口を締めた。

 そして、白楼剣を地面から引き抜き、妖怪たちを流し目に見た。


「さぁ、はじめましょうか……」


 幽々子は白楼剣の刀身を舐めるように撫で、妖怪たちに刃を向けた――

 幽々子がとうとう悠子前に姿を現しました。これは魂魄家の力をを用いて魂を一時的に分離する方法で現れただけですので、まだ元には戻れていませんが。

 次回から永夜編本格始動です! 楽しみにしていてください!

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