第十六話「乱れる悠蝶」
今回、とうとう悠幽異変が一応の決着を見せます。幽々子との戦いの後に霊夢が見たものとは? それでは、東方悠幽抄、第十六話です。感想、批評、誤字脱字の指摘などなど、気軽にコメントをくださって結構です。宜しくお願いします。
◇
――――藍、やっぱり霊夢の足止めには失敗したのね。
無数の目が浮かんだ空間に流麗な声が響いた。
そこには、その場に似つかわしくない美しい少女、八雲紫がたたずんでいた。
そして、紫の足元には跪く藍の姿があった。
「すいません、紫様」
「別に構わないわ。もう、賽は投げられてしまったのだから――」
紫はスキマの向こうに見える幽々子と霊夢の姿を見ながら、ポツリと呟いた――
◇
――――バキィン!!!
白玉楼の庭園に幹竹を割ったような音が響いた。
妖怪桜・西行妖を背にした霊夢の顔のすぐ隣の幹には、小太刀が突き刺さっていた。
霊夢の手には二つの折れた棒――正確には先ほどまでお祓い棒であったものが握られていた。
幽々子の一閃で霊夢のお祓い棒は真っ二つに折れてしまったのだ。
お祓い棒は神事に用いる神聖なものであり、博麗の巫女の象徴の一つでもあった。
しかし、霊夢は動揺していなかった。
幽々子の目を見据え、一言呟いた。
「容赦ないわね」
「私が容赦すると思って?」
幽々子はそう答えて、微笑んだ。
霊夢は小さくため息をついた。
「はぁ――亜空穴」
突然、霊夢は幽々子の視界から消えた。
そして、一瞬にして幽々子の背後に移動した。
幽々子は反応が遅れ、霊夢のかかと落としが肩口に直撃した!
「きゃっ!?」
幽々子はバランスを崩され地面に転がされたが、すぐさま体勢を立て直した。
左肩を押さえながら、霊夢との距離をとった。
「なかなか、いい動きをするわね。これでも、悠子と一緒に一ヶ月も修行していたのに」
「亡霊が修行だなんて、片腹痛いわ。さっさと退治されてくれないかしら?」
霊夢はわき腹をさすりながら、そう言った。
幽々子はその霊夢の仕草を見て、口もとを覆った。
そして、楽しそうな瞳を霊夢へと向けた。
「怪我をしていても容赦しないわ。楽しい弾幕ごっこは始まったばかりなんですもの。 華霊『スワローテイルバタフライ』!」
幽々子がそう言って小太刀を突きつけると、その剣先から無数の霊が出現した。
そして、その霊は円を描きながら霊夢目掛けて襲いかかってきた!
霊夢はその軌道を読み、素早く体の位置をずらした。
(こんな舐めたような弾幕……)
霊夢がそう思った瞬間、先ほど霊夢のいた場所に霊が収束し、消えた。
――すると突然、無数の霊蝶が広範囲に拡散した!
「っ、警醒陣!」
霊夢は驚いた顔をし、とっさに手から青色の護壁を放ち、霊蝶弾を弾き飛ばした。
そのまま後退し、幽々子のいた方に目を向けた。
しかし、そこには誰もいなかった。
「どこを見ているの?」
霊夢の背後から幽々子の声が聞こえた。
霊夢は驚き、すぐさま振り向いた。
そのときには既に、幽々子は剣舞の構えをとっていた。
「美しく散りなさい。亡舞『生者必滅の理 ‐死蝶‐』」
幽々子の周囲に美しく蝶が舞い、強大な妖力が渦巻いた!
凄まじい光と蝶弾が舞い踊る中、妖力を込めた強力な一撃が霊夢に叩きつけられた!
――バシィン!!!
弾けたような音が響き、溢れだしていた妖力が収束した。
「あらあら」
幽々子は驚きと共に笑みがこぼれてしまった。
――なんと、霊夢は幽々子の小太刀を素手で受け止めていたのだ。
いや、よく見ると霊夢の手と小太刀の間には『封魔の札』が挟まれていた。
妖力を込めた幽々子の一撃はこの札により無効化されたのだ。
幽々子は霊夢に問いかけた。
「痛くは無いの?」
「痛いわよ」
霊夢は冷めた声でそう答えた。
そして、幽々子を見据えた――無感情な瞳で。
「今の一撃でわかったわ。あんたは弾幕勝負をすべて『遊び』と考えているのね。 ――だけど、私にとってこの勝負は『生業』。あんたのその余裕が命取りになるのよ」
霊夢の言葉には使命を帯びた巫女の言霊がこもっていた。
下等な妖怪であったら、この言葉だけで身動きが取れなくなってしまうだろう。
しかし、幽々子は余裕な表情を崩さなかった。
「私にとってこの体は枷みたいなものなのよ。こんな状態ではすべてが『遊び』よ」
幽々子はそう言って、小太刀を掴む霊夢の手に目を向けた。
その手の平からわずかに血が滴っていた。
幽々子はニコリと笑った。
「――そんな私に追い詰められているあなたでは、悠子にすら勝つことはできないわよ?」
「戯言はそこまでよ、亡霊」
霊夢は小太刀を受け止めたのとは反対の手を幽々子の腹部にかざし、霊力を解放した!
「接射、妖怪バスター!!!」
「きゃっ!?」
至近距離で弾幕の直撃を食らった幽々子は大きく吹き飛ばされた。
幽々子はなんとか受け身をとり、よろよろと立ち上がった。
そして、先ほど妖怪バスターが当たった場所をおさえながら、霊夢へと小太刀を向けた。
「なかなかやってくれるわね、紅白」
笑みの消えた幽々子の顔を見つめながら、霊夢は素早く髪をしばっていたリボンをほどいた。
ほどけた髪がふわりと宙を舞った。
霊夢は解いたリボンを小太刀で傷ついた手に握り、その手で脇腹をおさえながら、袖から一枚のスペルカードを取り出した。
「亡霊さん、『弾幕ごっこ』はここまでよ」
霊夢はそのスペルカードを高々と掲げた。
本当に、これ一枚ですべてを終わりにすると宣言するかのように。
「『ごっこ』ではない私の博麗の力、見せてあげるわ――――『夢想天生』」
スペルカード宣言と共に凄まじい閃光が幽々子の視界を覆った!
周囲には霊夢の凄まじい霊気が渦巻き、白玉楼の庭は白く染まって行った――
◇
――――っ!? なんだってんだ……
凄まじい閃光と轟音により、魔理沙は目を覚ました。
「いっつー」
魔理沙は肩口から腹部にかけての痛む部分をさすりながら立ちあがった。
そして、先ほどの閃光と轟音の発生源へと目を向けた。
「あっちは――霊夢が向かった方角だな。急がないといけないぜ」
魔理沙は箒に跨り、飛び上がろうとした。
――すると、突然目の前に刀が横切り、その行く先を塞いだ。
その刀の主は魔理沙と同じタイミングで目を覚ました妖夢であった。
妖夢は荒い呼吸を整えながら、楼観剣で魔理沙の行き先を塞いでいた。
魔理沙は不機嫌そうに吐き捨てた。
「どけよ」
「悠子さん、それに幽々子様のところには行かせません……」
妖夢は最後まで使命を全うしようとしていた。
魔理沙はため息をついた。
「おまえも相当頭が固いな。ここは一時休戦だ」
「何を馬鹿なことを…… そんな提案、受け入れられるはずが――」
そのまま言葉を続けようとした妖夢に、魔理沙が一喝した。
「互いに大事な奴がピンチかもしれないんだ! ――こんなところで争っていてもしょうがないだろ?」
妖夢は魔理沙の語気に驚き、その場で立ち尽くしてしまった。
しかし数秒後、納得したように頷いた。
そして、楼観剣を鞘に納めた。
「――わかりました。その提案、受け入れましょう」
「協力、感謝するぜ!」
二人ともすぐさま空に舞い上がり、魔理沙と妖夢は白玉楼の階段を高速で登って行った。
そして、とうとうこの長い白玉楼階段を登り終えた。
そこで彼女らが目にしたのは、ボロボロになり地面に倒れ伏す悠子の姿と、脇腹をおさえながらも悠子を見下す霊夢の姿であった――
◆
――――ごめんね、悠子……
深い深い闇の中を彷徨っていた私の意識は、幽々子の声を聞き、浮上した。
私はとっさに幽々子に返答した。
(なんで、謝ってんのよ)
そして、スッと目を開けた。
――すると、そこには私を見下す霊夢さんの姿があった。
私はとっさに彼女の名前を呼んだ。
「れい……む……さん……?」
私の言葉を聞いた霊夢さんは冷めきった目で私に言い放った。
「しぶといわね、あんた」
「何を言って――っ!?」
私は体を起こそうとしたが、全身に走った痛みで立ち上がることができなかった。
身もだえる私に違和感を覚えたのか、霊夢さんは問いかけてきた。
「あなた、幽々子じゃなくて悠子なの?」
「そう、だけど……?」
あれ……?
霊夢さんには幽々子の存在を知らせていないはずだ。
もし霊夢さんが幽々子の存在を知ることがあるとすれば、幽々子自身が正体を明かす以外はほぼ考えられない。
考え事をする私を無視して、霊夢さんが会話を続けた。
「それなら話が早いわ。とりあえず、何でこんな異変を起こしたのか説明して――」
「あれ?」
私は霊夢さんの言葉を最後まで聞き終わる前に違和感を覚えた。
何かがおかしい。
幽々子が近くにいる気がしないのだ。
私は反射的に幽々子の所在を確認してしまった。
「霊夢さん、幽々子はどこいったの?」
「人の話の途中――はぁ…… あの亡霊はとりあえず封印させてもらったわ。あんたのお腹に御札を張り付け――」
霊夢さんが言葉を最後まで言い終わる前に、私は叫んだ。
「幽々子!」
私はすぐさま心の中に呼びかけた。
しかし、私の中から幽々子の意識が感じとれない。
この事実に直面して唖然としている私の肩に霊夢さんが手をかけた。
「だから、一時的に――」
――パンッ
私は霊夢さんの――『博麗の巫女』の手を振り払った。
そして、私の行動に驚いている博麗の巫女を睨みつけた。
「幽々子……幽々子はね――私の弟を死に誘おうとしたり、勝手に私に憑依したり、わがまま言ったり――本当に変な奴なのよ」
私は震える肩を抱きながら、叫んだ。
「それでも――それでも! 幽々子は私の大切な友人なんだから!」
私の叫び声が、二百由旬あると言われている白玉楼の庭に木霊した。
霊夢さんは驚いた顔をした後、大きなため息をついた。
「はぁ…… わかったから、落ち着きなさいって」
――博麗の巫女はあくまで冷静であった。
私はその姿を見て、体中に力がみなぎるのを感じた。
すると、頭の中で声が――幽々子のものではない禍々しい声が聞こえてきた。
(博麗、の巫女を、私たち妖怪の悲願を――)
(博麗の、巫女を、倒せれば、妖怪に、自由が――!)
その声を聞いたとたん、私の頭に禍々しい思考が流れ込んできた。
――妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治する。それは自然の摂理。
――それに逆らうかのように、今までの『博麗の巫女たち』にされてきた仕打ち。
――『私たち妖怪』の生業が、強すぎる巫女たちによって踏みにじられてきた過去。
――その強大すぎる力によって抑えつけられ、まるで家畜のように餌を与えられ、力を押さえつけられてきた過去。
――そして、勝手に生み出されたスペルカードルール。
――許すまじ、博麗の巫女!
(復讐しなくちゃ――ネ)
私はその言葉に突き動かされるままに刀を構えた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
小太刀を上段に構えたまま博麗の巫女の前に瞬間移動し、彼女の頭上に勢いよく振り下ろした。
博麗の巫女はとっさに身を引き、その無茶苦茶な一撃を回避した。
小太刀の直撃した地面――巫女が先ほどまでいた場所が、爆ぜた。
その一撃は私のものとは思えないほどの強力な力であった。
「ちょっ!? 待……さい、悠…!」
巫女が私に何か言っている。
しかし、私は朦朧とした意識の中で滅茶苦茶に巫女を斬りつけた。
まるで、親の敵のように。
「あああぁぁぁああぁぁぁ! 氷剣『ソードフリーザー』!!!」
凄まじい冷気をまとった剣を巫女に突き刺そうとした。
しかし、巫女には当たらない。
しかし、私は、斬り続ける、斬り続ける、斬り続ける――――
◇
―――― 一体、どうなってんのよ!?
霊夢にはまったく理解できなかった。
ついさっきまで普通に会話できていたはずの悠子が、突然斬りかかってきたのだ。
恐ろしいほど強大な妖気をまとって。
しかし、その太刀筋はあの洗練された悠子のものとはほど遠いものであった。
霊夢はとっさに陰陽玉を召喚した。
「やめなさいって――言ってるでしょ!」
霊夢は悠子に陰陽玉を叩きつけた。
しかし、悠子は肩に直撃しても全く気にとめず、小太刀を振り回してきた!
不意打ちで霊夢の服が切り裂かれる。
霊夢は素早く身を引いた。
すでに、悠子には既に何も聞こえなくなっているようであった。
「あああぁあああぁ!!!」
叫びながら、悠子は突然、刀を鞘に納め、暴れるのを止めた。
しかし、霊夢には見えていた。
悠子の小太刀に全ての妖力が注ぎ込まれるのが。
――この力はやばい!
霊夢はとっさに身構えた。
次の瞬間、すべての妖力が刀に収束した。
そして、霊夢に向けてその強大な力が解放されようと――
「そこまでよ」
その一撃が放たれようとした瞬間、どこからともなく声が聞こえた。
そして、悠子の小太刀が――腕ごと消えた。
悠子は自分の置かれた状況がわからず、叫び声をあげた。
「うわぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!」
わめく悠子のそばに隙間が開き、八雲紫が姿を現した。
そして、扇子で口元を覆いながら呟いた。
「 『人間と妖怪の境界』 」
――パァン!
紫が呟くと同時に、何かが弾ける音が聞こえた。
そして、まるで糸の切れた人形のように悠子が地面に膝をついた。
――すると、どこからか現れのか、階段で対峙していた半人半霊が悠子のもとに駆け寄って行った。
そして、崩れ落ちた悠子の体を支えた。
「悠子さん!」
「妖夢……師匠?」
霊夢は唖然としていた。
何が起こったのか全く分からなかった。
すると、霊夢の肩に手が置かれた。
振り向くとそこには、魔理沙の姿があった。
「とりあえず、一件落着のようだな」
まるでわかった風な魔理沙の口調に霊夢は拗ねたように言った。
「当事者である私が一番よくわからないんだけど?」
「私から説明しますわ」
すると、先ほど悠子を止めた紫が霊夢に声をかけた。
そんな紫に対し、霊夢はジト目を向けた。
「あんたが一番胡散臭いのよ」
「相変わらず霊夢の拗ねた顔は可愛いわね」
「――どうでもいい。さっさと説明してよ」
「はいはい、わかりましたわ」
紫はやれやれと首を振ってこの異変について語り始めた。
「今回の異変の元凶は、この子、悠子の能力。『すべてを封印する程度の能力』によるものよ」
「『すべてを封印する程度の能力』? えらくけったいな名前だな」
魔理沙は紫の言葉を聞き、素直な感想を口にした。
紫は気にせず続けた。
「この能力は封印できるものをすべて封印する能力。例え、妖怪の力であってもね」
「それはすごい能力ね」
今度は霊夢が驚きの声をあげた。
紫は霊夢の顔を見てわずかに微笑み、さらに続けた。
「ただし、それには代償がある。その力が封印されるのは、本人の体。そして、それは――っと、その前に一つ言いかしら、悠子?」
「何……かしら……?」
突然声を掛けられた満身創痍の悠子は、紫へと首を向けた。
「少しの間、あなたの能力を抑えさせてもらっているわ。違和感はある?」
「いえ、今のところは……無いわ。それより、幽々子はどうしたの?」
悠子は幽々子の所在を聞いた。
紫はそんな悠子の姿を見ながら微笑んだ。
「ただ、あなたの中で寝ているだけよ。 ――ねぇ、霊夢」
紫の言葉に霊夢はため息をついた。
「そうよ。悠子、あんた人の話を聞かなすぎよ」
「ごめんなさい……霊夢さん」
悠子は素直に霊夢に謝った。
霊夢は再び長いため息をついた。
「まぁ、良いけど。それで、さっきの悠子の暴走は何なの?」
霊夢は自らを襲った悠子の行動を暴走と考え、紫にその理由を問いかけた。
紫は霊夢の疑問に丁寧に答えた。
「先ほどの暴走は、妖怪たちの潜在的に抱えている力――人間を襲うというその習性が悠子を突き動かしていたものよ」
「妖怪たちの力ぁ?」
魔理沙は、何を言ってるんだ、と言わんばかりの声をあげた。
紫は魔理沙の疑問にも一応丁寧に答えた。
「最近、幻想郷で起こっていた『妖怪の神隠しの異変』。それを行っていたのが悠子と幽々子なのよ。妖怪の力を吸収して強くなる為にね――そうでしょう、悠子?」
「――そうです」
悠子は紫の言葉を肯定した。
魔理沙はそれを聞き、悠子を睨んだ。
「なんでそんなことしたんだ? 異変は何も生みはしないぜ」
「……ごめんなさい」
悠子は謝るばかりで事情を説明する気は無いようであった。
魔理沙はため息をついた。
「はぁ、ホントしょうがないぜ。――だけど、私はまだ悠子を信じてはいるぜ。何か深い理由があったんだってな」
魔理沙はそう言ってニカッと悠子に笑いかけた。
悠子は顔をあげて一言『ありがとう』と言った。
「異変の大まかな概要はざっとこんな感じね」
紫はそう締めくくった。
そして、一呼吸置いて続けた。
「さて、幽々子が目を覚ます前にあなたたちにもう一つ話したいことがあるわ。普通の人間である悠子の持つその能力と幽々子の過去について、ね」
紫が言葉を言い終わるのと同時に、白玉楼に一陣の風が吹き抜けた――
一応の決着がついた悠幽異変。しかし、その元凶はただ力を求めた悠子の過ちだけではなかった。次回、この物語における悠子と幽々子の関係が明かされます。楽しみにしていてください。
追記:風邪をひいてしまって更新が遅れてしまいました。体調管理は大切です。




