第十五話「白玉楼階段の死闘」
今回は悠幽異変における霊夢と妖夢の弾幕勝負です。そして、霊夢に助っ人が現れます(いつもの子ですが)。そして、とうとう正体を明かす幽々子。異変の真実へと霊夢は踏み込んでいきます。
それでは、東方悠幽抄、第十五話です。感想、批評、誤字脱字の指摘――なんでも受け付けております。気軽にどうぞ。宜しくお願いいたします。
◇
―――― 獄炎剣『業風閃影陣』!!!
妖夢の周囲に大玉の弾幕が展開された。
そして、妖夢は容赦なく弾幕を横一線に切り裂いた!
その瞬間大きく空間が揺れ、大玉は四散し、霊夢に襲いかかった!
それを見た霊夢は、微笑みながら呟いた。
「凄い剣気ね。でも、当たらなければ意味がないわ!」
霊夢は視界を覆うほどの弾幕を目にしても涼しげにしていた。
目の前に迫る弾幕をまるで蝶のようにヒラヒラとかわした。
そして、妖夢を視界にとらえると、素早く無数の御札を撃ち込んだ!
「『ホーミングアミュレット』!」
妖夢は霊夢が御札を構えると同時にスペルカードブレイクした。
そして、追尾する御札の動きを見て、転がるように回避した。
追尾しきれなかった御札が石段に直撃し、爆ぜた。
霊夢は素早く新しい御札を取り出し、追撃を加えた。
「逃がさないわ。『拡散アミュレット』!」
続いて青く発光する御札を周囲にばらまいた。
その御札は一見先ほどのものと同じに見えたが、突然広範囲に拡散した!
恐ろしいほどの広範囲攻撃が妖夢に襲いかかった。
しかし、迫りくる弾幕に妖夢は動じなかった。
威力が低いと見るや、被弾覚悟でその小さな隙間をかいくぐるように飛び込んだ。
そして、避けられない弾幕を斬り裂き、霊夢の懐へと飛び込んだ!
「そこだ! 人符『現世斬』!」
「うわっ!?」
霊夢は妖夢の一撃をお祓い棒で受け止めた。
互いの力が拮抗し、一時その場で静止した。
霊夢はそんな状況で思い当たる節があったのか、手が震えながらも妖夢へ声をかけた。
「あなたのその技、以前見たことがあるわ。悠子と初めて出会った夜、あの子が使っていたものね」
妖夢はその言葉を聞き、お祓い棒ごと霊夢を石段に向かって弾き飛ばした。
霊夢は石段に直撃する寸前に体勢を立て直し、地面に足をつき妖夢と距離を見上げた。
上空にいる妖夢は楼観剣を構えたまま静かに言った。
「私は弟子である悠子さんに動きを見せただけ。学びとったのは彼女自身です」
「面白い師弟関係ね」
霊夢は少し興味を持ったように、かすかに笑った。
しかし、すぐさま『博麗の巫女』としての顔へと戻った。
そして、上空の妖夢にスペルカードを突きつけ、叫んだ。
「それでも、そろそろ決着をつけさせてもらおうかしら。夢符『夢想ふう―― くっ!?」
霊夢はスペルカード宣言の途中で突然、左脇腹をおさえ膝をついた。
服の上からは目立たないが、その下は大きな痣ができていた。
その痣は藍と橙との弾幕勝負の際、橙の体当たりを被弾した箇所であった。
先ほど石段に降り立った際、庇いきれなかったのだ。
妖夢はその隙を見逃さなかった。
スペルカードを中断した霊夢の直近に、まるで瞬間移動したかのように姿を現した。
そして、楼観剣を上段に構え、スペルカード宣言と共に振りおろした!
「それでは、お帰りください。断命剣『冥想斬』!!!」
「しまっ――」
――もう間に合わない。
霊夢は被弾を覚悟し、とっさに目をつむった――
「恋符『マスタースパーク』!!!」
――霊夢が目をつむった瞬間、凄まじい轟音と共に極太レーザーが妖夢を飲み込んだ!
霊夢はその一撃を見て、安堵した。
「ああ、あいつが助けてくれたんだ」
霊夢はそう呟き、痛みを堪え、立ち上がった――
◇
――――極太レーザーが通り過ぎた後には、塵一つ残っていなかった。
霊夢がレーザーの発射された方向へと顔を向けると、ミニ八卦炉を構えた魔理沙が立っていた。
魔理沙は霊夢と目が合うと、ニカッと笑った。
「ヒーローは遅れてやってくるものだぜ、霊夢」
「――ヒロインでしょ、あんた」
「ははっ! まぁ、いいじゃないか! それにしても、霊夢。無茶は良くないぜ」
魔理沙はわき腹を指差した。
霊夢は気恥ずかしかったのか、プイッと顔を背けた。
「ちょっと――そう、ちょっとだけ油断しただけなんだからね!」
「わかった、わかった」
魔理沙は霊夢をなだめるように肩をポンポンと叩いた。
霊夢も少し落ち着いたのか、魔理沙の目を見て疑問をぶつけた。
「あんた、どこ行ってたのよ?」
「先に異変解決しようとしたが、空振りでな」
「私は真っ先に悠子を疑ったけど?」
「私は悠子を信じていたんだがな」
魔理沙は帽子で顔を隠した。
チラリと見えたその顔はまだ信じられないという顔をしていた。
霊夢はため息をついた。
「あんたもまだまだね。妖怪退治するんなら割り切りなさいよ」
「割り切ることが正義なら、私は悪でもいいぜ。 ――その方が魔女っぽいだろ?」
魔理沙はそう冗談めかして言った。
霊夢が言葉を返そうとした瞬間、魔理沙の後ろに大上段に構えた妖夢が見えた!
「魔理沙!? 危ない!」
「おっと!」
魔理沙は箒を素早く後ろに回し、背後から妖夢の一撃を受け止めた。
そして、剣撃を受け止めたまま魔理沙は感嘆の声を漏らした。
「あんた、凄いな。わたしの『マスタースパーク』を食らって立っていられるなんて」
妖夢は魔理沙の言葉に静かに答えた。
「魂符『幽明の苦輪』――あなたが吹き飛ばしたのは私の半霊です」
そう言った妖夢は素早く剣を引き、魔理沙との距離をとった。
魔理沙は体を回れ右し、妖夢と向かい合った。
魔理沙は手の中でミニ八卦炉を弄びながら、残念そうにため息をついた。
「はぁ~ 無傷なのか? ボム一発無駄になっちまったぜ」
「そうではない。私と半霊は一心同体だ」
妖夢の胸には黒く焼き焦げた半霊が抱かれていた。
先ほどまでの冷静な態度とは打って変わり、妖夢の顔は静かに怒りに燃えていた。
――この庭師、本気になりやがった。
その様子を見て、魔理沙の額には冷や汗がつたった。
「霊夢、お前は先に行け。その傷じゃあ、こいつ相手にすぐには全力を出せないだろ?」
「あなたに借りを作るのは癪だけど―― 恩に着るわ」
霊夢はそう言って魔理沙に背を向けた。
魔理沙はそんな霊夢に振り向かず会話を続けた。
「この異変が無事解決したら、またみんなで一緒に宴会をやろうぜ」
「ええ、約束よ。この異変、酒の肴にしてやるわ」
そう宣言した霊夢は白玉楼に向かい飛び去った。
妖夢は飛び立とうとした霊夢に向かい叫んだ。
「させるか!」
「おっと、おまえの相手は私だぜ」
魔理沙は妖夢の前に立ちはだかった。
――ああ、この状況。悠子と初めて会った日の大妖精と同じだなぁ。
親友のために戦うとはこういうことか。
魔理沙はそんなことをぼんやりと考えていた。
一方、妖夢は侵入者を通してしまったことに気が気ではなかった。
「今、悠子さんに会わせるわけにはいかない! 退きなさい!」
怒り叫ぶ妖夢に対して、魔理沙は余裕そうな態度で受け流した。
「まぁ、落ち着けって。霊夢だって取って食おうってわけじゃないんだし」
「あの方々は今、苦しんでいる。だから、それが晴れるまで他の人とは会ってはならないのです」
――方々?
妖夢の言葉に少し引っ掛かるところがあったが、魔理沙は気にせず続けた。
「どんな状況かは知らないが――おまえさんの悠子を思う気持ちはわかった。だが!」
魔理沙は一呼吸置いた。
そして、語りかけるように言った。
「異変は何も生まないぜ。大人しくここを通してもらおうか」
魔理沙は悠子を信じていた。
だからこそ、こんな意味のない異変を起こしてほしくは無い。
そう願っていた。
しかし、妖夢は魔理沙の言葉に耳を傾ける気は無いようであった。
「私は主人と悠子さんを信じる――ただそれだけです」
妖夢は楼観剣を鞘に納め、まるで『現世斬』のように低い体勢をとった。
だが、そこに渦巻く妖気は『現世斬』の比ではなかった。
「私たちの未来のために、あなたを未来永劫、斬り伏せさせていただきます! 奥儀・人鬼『未来永劫斬』!!!」
そう言って、妖夢の姿は魔理沙の視界から消えた。
――いや、消えたのではない。
目にも止まらぬ速さで魔理沙の周囲を移動しているのだ。
妖夢は本当にこの一撃で勝負を決めるつもりなのだろう。
勝負は一瞬。
魔理沙は箒を握りしめた。
上空から来るのか? それとも、背後か?
魔理沙は隙がないように警戒をしていたはずであった。
――次の瞬間、妖夢の姿は魔理沙の真正面に現れた!
魔理沙はとっさに身構えた。
だが、その妖夢はすでに楼観剣を鞘に納めていた。
魔理沙は冷や汗を流しながら、不思議そうな顔をした。
「私に何をしたんだ?」
「あなたの未来、断ち切らせていただきました」
魔理沙には妖夢の言葉が理解できなかった。
だが、そんなこと魔理沙にとっては瑣末なことであった。
魔理沙はニヤリと笑った。
「何をしたかはわからないが、私の未来は明るく照らされているぜ!」
魔理沙の左手には光輝くスペルカードが、右手にはミニ八卦炉が穂先に着いた魔法の箒が握られており、その柄が妖夢の腹部へと突きつけられていた。
魔理沙は妖夢が姿を現したときにはすでにスペルカード宣言を行っていたのだ!
「私の未来を勝利へと導け、魔法の彗星!!!『ブレイジングスター』!!!」
「くっ!?」
魔法の箒の穂先から凄まじい魔力が放出された!
妖夢はその勢いに運ばれ、吹き飛び、石段の燈篭に叩きつけられた!
冥界全体に響き渡るような凄まじい轟音と共に燈篭は崩れ落ち、その破片が周囲へと飛び散った。
――こうこうと立ち上る煙の中、妖夢もその場に仰向けに倒れ込んでいた。
魔理沙はよろよろと立ちあがり、ミニ八卦炉を妖夢へと突きつけた。
「人の未来は無限大だぜ。簡単に未来を口にするもんじゃないぜ」
「ここで、私が倒れても悠子さんが――そして、ゆゆ…さ…が……」
そう言って、妖夢は気を失った。
魔理沙は妖夢の言い掛けた言葉が気にはなった。
だが、今はそれどころではない。
「ふぅ、さて――」
魔理沙は『霊夢のところに向かうか』と言葉を続けようとした。
しかし、突然体中に衝撃が走った!
――魔理沙が『えっ?』と思ったときには視界がぼやけ、その場で膝をついていた。
魔理沙の肩口から下腹部にかけて、まるで刀で斬られたかのような痛みが走っていた。
「時間差攻撃だったのか…… 本当に未来で斬っていたとはな……」
魂魄妖鬼曰く、『雨を斬れる様になるには三十年、空気を斬れる様になるには五十年、時を斬れる様になるには二百年は掛かる』。
悠子との修行の中で妖夢は師匠として成長し、二百年掛かるはずの時を斬る術を見出していた。
そして今、文字通り魔理沙の未来を斬ったのだ。
まさか、未来で斬られるとは思っていなかった魔理沙は、ハハッと乾いた笑いをこぼした。
「すまんな、霊夢…… 私はここで満身創痍だ」
そう言って、魔理沙も白玉楼へ続く石段で意識を手放した。
◇
――――白玉楼に足を踏み入れた霊夢がはじめに目にしたのは、庭を駆けまわるチルノとルーミアの姿であった。
「待てー、ルーミアー!」
「あははっ」
霊夢はその姿を見て思わず呟いてしまった。
「あなたたちは、人里周辺でいなくなった妖怪たち……?」
霊夢は困惑した。
何故、消滅したはずの妖怪たちがここにいるのか?
確かに人里周辺から彼女らの妖気が消えていた。
なので、霊夢は『完全に』退治されたと思っていた。
しかし、ここ冥界にその妖怪たちが存在していた。
――全く妖力を持たない姿で。
霊夢が困惑していると、白玉楼の軒先から一人の少女が顔を出した。
それは、異変の元凶――と霊夢の感が告げている少女、藤見悠子であった。
悠子は怪しげに微笑みながら、霊夢へと近づいてきた。
「これが神隠しの真実よ ――霊夢さん」
その呼び方、まさしく悠子そのものであった。
だが、霊夢は自分の名を呼ぶとき一瞬詰まったその違和感を見逃さなかった。
そんな霊夢の思考など梅雨も知らない悠子は、なおも笑いながら会話を続けた。
「ただね、彼女たち妖怪にはちょっと冥界に遊びに来てもらっていただけ――」
「――あんた、誰?」
悠子の表情は笑いを張り付けたまま、凍りついた。
一方、霊夢の顔は笑ってはいなかった。
少しの間、沈黙がこの白玉楼を支配した。
そこには、遊びまわる妖怪少女たちの声だけが響いていた。
すると突然、悠子は声をあげて笑いはじめた。
「ふふふっ! 何を言っているの? 私は藤見悠子っていう、馬鹿で無鉄砲な――」
「ご託はいいわ、妖怪。あんたからはありえないほど強い妖気を感じる」
霊夢は御札を突きつけた。
悠子は突きつけられた御札に目を向けながら、口もとを手で覆った。
そして、霊夢の目を見据えた。
恐ろしいほど妖艶な目で。
「ふふっ、気付いていたのね。――それでは改めまして。こんばんは、博麗霊夢。この白玉楼の主である亡霊・西行寺幽々子というものですわ」
幽々子は恭しく挨拶をした。
霊夢はその雰囲気に覚えがあったのか、挨拶もなおざりに言葉を返した。
「その雰囲気、あの夜と宴会の直前に会話したのはあんただったのね」
「あら、察しがいいわね」
「私の――『巫女の感』を舐めないで」
霊夢はそう呟いた。
そして、幽々子に単刀直入に問いただした。
「あんたが黒幕?」
「違いますわ」
「この状況はどう説明するの?」
「だから、これはちょっと妖怪さんたちに出張してもらっただけよ」
霊夢は頭を抱えた。
『石頭』の次は『天然』か……
話が通じないとわかると、霊夢はため息をついた。
「あんた、面倒くさい…… 悠子を出しなさい。それとも、もうすでに――」
「悠子は今、休んでいるの」
幽々子は霊夢の言葉を遮り、静かに続けた。
「あなたと悠子を会わせるわけにはいかないわ」
「じゃあ、無理矢理にでも引きずり出させてもらうわ」
霊夢は妖夢の時と同じように何枚もの御札取り出した。
一方、幽々子は小太刀を引き抜き、霊夢へと突きつけた。
「それでは始めましょうか―― 冥界で安らかに眠りなさい、紅白の蝶!」
「さっさと終わりにするわ―― 冥界で大人しくしてなさい、亡霊の姫!」
ここに、悠子の体に憑依した幽々子と博麗の巫女である霊夢の弾幕勝負の火蓋が切って落とされた――
とうとう異変の核心へと足を踏み入れた霊夢。そして、霊夢に対峙する悠子に憑依した幽々子。
今、眠りについている悠子はどうなってしまうのか?次回を楽しみにしていてください。
追記:ちなみに今回は初めて悠子のセリフの無い回でした(心理描写も含めて)。




