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第十二話「亡霊少女の鬼退治」

 この話では鬼の四天王の一角・伊吹萃香が登場します。幽々子と萃香の一騎打ち、そしてとうとう萃夢想編の最終話です。有名な東方二次小説の影響からか、鬼って何をしても崩れない最強のイメージがあるんですよね…… 

 それでは、東方悠幽抄、第十二話です。批評、コメント、ご指摘等ありましたら、よろしくお願いします。 

 ――――大丈夫ですか、悠子さん?


 慧音先生の声を聞き、私の意識は闇の中から浮上した。

 パッと目を開けると、そこには見慣れた寺子屋の天井と、心配そうに私の顔を覗き込む慧音先生の姿があった。


「慧音……先生……? どうして、ここに……? くっ!?」


 私が体を起こそうとしたら、腹部に激痛が走った。

 私の腹部には、包帯が幾重にも巻かれていた。

 私はこの傷を見て思い出した。

 ――私は吸血鬼の館・紅魔館でレミリアと戦っていたはずだ。

 そして、手も足も出ずに負けて――

 ――それから?

 そこから先を思い出すことができなかった。


 慧音先生は私の様子にため息をついた。


「どうしてって―― あなたはボロボロに状態で寺子屋の前に倒れていたのですよ? 覚えていないのですか?」


 慧音先生の言葉を聞き、私は合点がいった。

 ――ああ、そうか。

 戦いに敗れて気絶した私に代わって、この体を幽々子が運んでくれたのか。

 私は幽々子に感謝を述べた。


(ありがとう、幽々子)

(私だって途中で何度も意識が飛びそうになったわ――本当に危なかったのよ)


 もし幽々子がいなかったらどうなっていたのだろうか?

 恐ろしい想像が浮かんだが、すぐさまそれを振り払った。

 慧音先生は私の様子に心配し、何故助かったかを説明してくれた。


「たまたま、この前の仙人様が近くにいらっしゃったからいいものを――」

「華扇さんが助けて下さったのですか?」


 あのちょっとお説教が長く、凍傷になった男の子を助けてくれた心優しい仙人様。

 彼女のおかげで私は助かったらしい。

 慧音先生は話を続けた。


「何があったかは知りませんが、あなたも人里の一員。心配する人、特にあなたには生徒がいるということを自覚してください」

「すいませんでした……」


 私は申し訳なさで、その場でぺこりと頭を下げた。


「わかればいいのです。それでは、まだ体は本調子ではないでしょ? 今日はゆっくりと休んでください」

「ありがとうございます」


 私は慧音先生へ感謝した。

 慧音先生は私の返事に満足し、部屋から出て行った。

 

 一人残された私は、落ち着いてレミリアとの戦いを反芻した。

 壁を破壊するほどの力、容赦なく私を踏みつけたあの冷酷さ、そして私の血を舐めたときのあの笑み……

 突然、私の体はガクガクと震え、額から脂汗がにじみ出てきた。

 私の中に恐怖の感情が渦巻いていた。


『怖い、恐ろしい、逃げたい…… 家族のもとに帰りたい!!!』


 幻想郷に住む妖怪の『本当の力』を目の当たりにし、その力を体に刻みこまれた私は、その恐怖から逃れられなくなっていた。

 呼吸が荒くなっている私に、幽々子がゆっくりと語りかけてきた。


(――悠子、落ち着いて。すべての妖怪があんなことをするわけではないわ)

(わかっては…… わかってはいるつも、つもりよ……)


 声が震えている私に、幽々子は言い聞かせるように言った。


(あなたはまだ本調子ではないのよ。心配しないで、あなたには私が憑いているわ――亡霊だけにね、ふふっ)

(――本当にありがとう、幽々子)


 茶目っ気のある冗談で私を励ましてくれた幽々子に感謝した。


(もう考えるのは止めて、ゆっくり休みなさい)

(ええ…… おやすみなさい)


 私は先ほどのいやな妄想を振り払い、布団に横になった。

 すると、すぐに眠気が襲ってきた。

 意識が落ちる直前に幽々子が何か呟いた。


(ちょっとだ……なたの……借り…わよ)


 しかし、すでにまどろんでいた私には、すべて聞き取ることができなかった――



 ◇



 ――――やっと来ましたわね。


 夕方の博麗神社、夕焼けに照らされ幻想的な姿を映し出していた。

 宴会が始まるまでまだ時間はあったが、そこにはすでに八雲紫と博麗霊夢の姿があった。


「遅れてごめんなさい、紫。 ――それと、こんばんは、霊夢」

「はぁ、また面倒くさいのが来た……」


 霊夢は紫と悠子の姿を見てため息をついた。

 ――霊夢は気付いていない。

 今は悠子ではなくて、幽々子が表に出ているということに。

 霊夢の言葉に幽々子と紫は口をそろえて非難した。


「それにしても、酷い言い草ね」

「そうよ。霊夢、酷いわ」


 そんな二人に霊夢はジト目を向けた。


「――あんたらのそういうところが嫌いなのよ」


 霊夢は再びため息をついた。

 そして、妙に息の合う二人の姿を見て霊夢は尋ねた。


「あんたたち、何なのよ? 知り合いなの?」

「そうね。千年ほど前から知り合いですわ」

「また、そうやって冗談を…… だから胡散臭がられるのよ、あんたは」

「ふふふ、相変わらず霊夢はかわいいわね」


 紫が霊夢の頭を撫でようと手を伸ばしたが、霊夢はヒョイとその手を避けた。

 その姿を見た幽々子は微笑んだ。


「ふふっ、霊夢って本当に面白いわね」


 口もとを抑え笑う幽々子に、霊夢は不審な目を向けた。


「――あんた、この間の宴会のときから、性格変わってない?」


 その言葉を聞いた幽々子は、その場でくるりと回って見せた。


「ふふっ、どこからどうみても『藤見悠子』でしょ? そう思うのは、私とあなたが会ってからの日が浅いからよ」


 霊夢は釈然としない顔をした。

 しかし、面倒くさくなったのか、くるりと回れ右をし、神社の中へと促した。


「まぁいいわ。今日の宴会までちょっと時間があるわ。お茶でも飲む?」 


 そう提案した霊夢に、幽々子はパッと思いついたように続けた。


「そうそう、新しいお茶が手に入ったの」

「??? 何よ、藪から棒に…… どんなお茶よ?」


 新しいお茶について尋ねた霊夢に幽々子は目を細めた。


「それでは、今日の宴会を『無茶苦茶』にして差し上げますわ」

「何、物騒なこと言ってんの――ってそれがあんたの用意したお茶? 笑えないわ」


 やれやれと首を振った霊夢に、幽々子は残念そうな顔をした。


「あら、悠子渾身の冗談がうけなかったわ」


 幽々子は笑い、口もとを手で隠した。

 そして、先ほどから幽々子と霊夢の会話を眺めていた紫へと向き直った。


「それでは、紫。私のために『無茶』を聞いてくれないかしら? ――広がってしまった茶の香りを萃めて頂戴」

「吸血鬼の館からここまでの徹底的な話題誘導――あなたは本当に回りくどいわね。まぁ、私も最初からその予定だったし」


 紫が扇子を開き、何もない空間を薙いだ。

 すると、紫と幽々子の周囲の空間が切り取られ、そこに妖気が集まってきた。

 突然のことに驚いた霊夢は、境界の向こうから声を張り上げた。


「あんたたち! 何する気なの!?」

「あなたは神社に引っ込んでいなさい」


 紫はピシャリと霊夢に言い放った。

 霊夢はポカンとしてから、盛大にため息をついて素直に神社に引っ込んでいった。


「そういう素直なところ大好きよ、霊夢」


 紫がそう呟くと、この空間に渦巻く妖気はどんどん膨れ上がっていった。

 しかし、これは紫の妖気とは違う。

 いや、これは、妖気ですらない。

 昔の幻想郷を感じさせる『懐かしい気配』だ。

 博麗神社を境とした『常識と非常識の境界』が狭まり、幻想郷全体に拡散したその『気配』が集結した。


 ――その気配の中心にある姿が浮かび上がってきた。

 それは、腰にひょうたんをぶら下げた頭に角の生えた少女の姿であった。

 その少女は驚いた顔をし、紫に問うた。


「あれ、紫? 何の用?」

「ちょっとばかり、私の友人があなたに会いたいって」


 そう言って、紫は幽々子に会話を促した。

 一方、幽々子はその少女の姿を見て、少し驚いた顔をしていた。


「あらあら。やっと見つけたと思ったら、正体が子鬼だなんて」

「子鬼って――馬鹿にしているのかい? 元山の四天王の一人、伊吹萃香を」


 萃香はそう名乗りをあげ、幽々子を見据えた。

 幽々子はそんな鬼の威厳に一歩も怯まず、疑問をぶつけた。


「山の四天王の一人が、なんでこんなことしてまで宴会を?」


 幽々子の問いに、萃香は『よくぞ聞いてくれた』と言わんばかりの口調で答えた。


「いやぁ、今年の春はさ、何故か去年より桜の花が少なくてさ、宴会もあんまりなかったよね」

「……」

「それでイライラしていたから、皆で納涼ってことでこの夏に宴会しようと思って」


 萃香の言葉に幽々子は思い当たる節があった。

 それは、悠子との出会いによって中止にした『妖怪桜・西行妖を満開にするために幻想郷の春を集める計画』である。

 多分、今年の幻想郷で桜の花が少なかったのはその準備段階での余波なのだろう――


 ――しかし、幽々子はその真実を黙っていた。

 今は悠子のことで手いっぱい、これ以上の面倒事はごめんだったのだ。

 幽々子は萃香に言い放った。


「宴会が多すぎて少しだけ迷惑しているの。主に悠子と妖夢が。即刻辞めてもらえないかしら?」


 幽々子の提案に萃香は不機嫌そうな顔をした。


「ふん、誰だか知らんが、もう少しだけやらせてもらうよ、宴会」

「だったら、その思惑、止めさせてもらうわ」


 幽々子は小太刀を引き抜き、萃香に突きつけた。

 ――少し悠子の性格がうつったかしら?

 幽々子は自分の今の行動に苦笑した。


 その姿を見た萃香は鼻で笑った。


「私を止める? あんた人間だろ?」

「少なくとも、今は人間ね」

「私は今、余裕がないんだ。また、今日も人妖を集めにゃならん」


 そう言って、再び萃香は姿を霧散させようとした。

 しかし、幽々子はそれを止めるためにスペルカードを宣言した。


「そうはさせないわよ! 幽雅『死出の誘蛾灯』!」


 萃香の周囲に幽霊が集まり、輪となって取り囲んだ。

 それを見た萃香は、フンッと鼻を鳴らした。


「こんな、子供騙し――鬼を舐めないことね! 鬼火「超高密度燐禍術」!」


 萃香が地面に力強い拳を叩きこんだ!

 すると、地面が大きく揺れ、萃香の周囲に火柱が立ち上った。

 その一撃で幽々子の呼び寄せた幽霊は四散し、その火の子が幽々子に襲いかかった!

 幽々子は素早く飛びのき、それを回避した。


「あら、私のかわいい幽霊さんたちが…… 酷いわね」

「私の邪魔をしようっていうのなら容赦しないよ」


 萃香は幽々子に拳を向けた。

 しかし、幽々子は既に次の行動に移っていた。

 幽々子は萃香が拳を向けるよりも早く、瞬間移動で萃香の背後へと回りこんでいた!

 幽々子は光輝く小太刀の鞘を萃香の肩口へと突き出した!


「 蝶符『鳳蝶紋の死槍』!」


 以前、チルノを突き飛ばしたその一撃は、確実に萃香をとらえていたが――


「はあぁっ!」


 ――その一撃は人間を越える反応を見せた萃香の拳によって受け止められてしまった。

 萃香はその怪力で幽々子の手から鞘を奪い取った。

 その勢いで幽々子を突き飛ばし、奪い取った鞘を地面に叩きつけ、踏みつけた。

 そして、幽々子に対し不敵な笑みを向けた。


「なかなか面白いねぇ、人間? 次はどうやって遊ぶ?」


 幽々子はそんな楽しそうな萃香の姿を見て、ついため息が出てしまった。


「……子鬼さんってすごいのね。でも、世の中は『力』だけではどうにもならないものよ」


 幽々子は小太刀を目の前の地面に突き刺し、素早く上着から取り出した扇子を右手に握った。

 そして、扇子を閉じたままその場で回り始めた。


「くるくるくる~」

「はぁ? あんた何やってんの?」


 萃香は幽々子の不可思議な行動に疑問の顔を向けた。

 幽々子は何度か回転した後、スッと扇子を構え、萃香に問うた。


「子鬼さん。何故、鬼は人間に負け続けてきたと思う?」

「今を生きる人間風情が何を言っているんだ?」


 萃香の答えになっていない答えを聞き、幽々子はニコッと笑った。


「――それはね、そうやっていつまでも人間を舐めているからよ!  桜符『センスオブチェリーブロッサム』!!!」


 幽々子は扇子を開き、勢いよく振り上げた!

 すると、その扇子の軌跡を辿るように凄まじい妖気が放出された!

 完全に油断していた萃香にその弾幕が直撃した!


――弾幕が通過した後には、こうこうと煙が立ち上っていた。

 幽々子は萃香のいた場所に向かい、小さく呟いた。


「もし、私が人間ではなくて、亡霊のままだったら勝機はあったのかもね」


 幽々子は勝利を確信した。

 だが、徐々に煙がはらわれ、萃香の姿が見え始めると、幽々子の顔つきは険しくなっていった。


「――って、あらまあ」


 幽々子は驚き、つい声をあげてしまった。

 幽々子の弾幕は確実に萃香に直撃していた。

 しかし、煙が消えたそこには子鬼の姿はなく、二間(約3.6 m)を優に超える鬼の姿があった。

 巨大化した萃香は片手で、幽々子の桜符『センスオブチェリーブロッサム』をはじき飛ばしたのだ。

 萃香は手をパンパンと払いながら叫んだ。


「ふうっ、やってくれるな、人間! 鬼であるこの私に、失われた鬼のミッシングパワーを使わせるなんて!」

「……」


 幽々子は驚いて返す言葉もなかった。

 これが鬼の力……

 幽々子の渾身の一撃でも傷一つ出来ていなかった。


 唖然とする幽々子に対し、次は萃香が問う番であった。


「人間―― 何故、おとぎ話の最後には必ず鬼が負けると思う?」

「それは……」


 答えに窮した幽々子に萃香は可笑しそうに笑った。


「はっはっは! ――それはね、すべて鬼の仕組んだ遊びだからだよ。人間ってやつは、我々が譲歩してやっと『一人前』。そういうことさ!」


 萃香はそう叫び、拳で地面を吹き飛ばした!

 砕け散った多数の石片が幽々子に襲いかかった!


「きゃっ!?」


 幽々子は突然の攻撃を回避することができなかった。

 幽々子の服は斬り裂かれ、その衝撃で地面に叩きつけられた!

 凄まじい衝撃が体を走りぬけた。


 ――ゴフッ

 体を起こそうとした幽々子は、咄嗟に口を押さえた。

 手の平には血がベッタリとついていた。


「あの華扇とかいう仙人の特別な酒を飲んでも、昨日今日ではやっぱり無理があるわね……」


 幽々子は袖で口元を拭った。

 そして、よろよろと立ちあがり萃香に小太刀を向けた。


「はぁはぁ―― あなたの言うことが例え真実でも、人間である今のうちに『鬼退治』を経験しなくちゃね」


 気丈に振る舞う幽々子を見て萃香は面白そうに笑っていた。


「あっぱれだね。わたしゃあんたを攫いやしないんだから、無理はしない方がいいよ!」


 そう言って、萃香はその巨大な拳を幽々子に叩きこんだ!

 幽々子は咄嗟に小太刀でその一撃を防ごうとしたが、圧倒的な鬼の力で吹き飛ばされ、背後にあった桜の木に叩きつけられた!


 ――ドスッ! ズルッ

 桜の木からずり落ちた幽々子は、木の幹に寄りかかったまま動かなくなった。


「もう終わりかい? さっきの威勢はどうしたんだい、人間?」


 萃香の言葉が聞こえているのかいないのか、幽々子は青々とした葉をつけた桜の木を見上げ、呟いた。


「これだわ……」


 幽々子は痛みを堪えて、木の幹を支えに再び立ち上がった。


「はぁはぁ―― 子鬼さん。言ったわよね。今年の春は何故か桜が少なかったって」


 幽々子はボロボロになった上着を脱ぎ捨てた。

 そして、小太刀を幹に突き刺し、叫んだ!


「なら見せてあげるわ! 季節外れの桜吹雪を!」


すると、先ほど脱ぎ捨てた上着が幽々子の背後で扇のように展開した!

 幽々子は手を広げ、桜の木を見上げながら宣言した。


「 桜符『完全なる墨染の桜 -開花-』!!!」


 青々としていた桜の木には、一瞬にして薄墨色の花が満開となった!

 そして、どこからともなく風が吹き、桜の木が大きく揺れた。

 幽々子と桜の木の周囲には、桜の花が舞い散った。

 ――その美しさはこの世のものとは思えないものであった。


『深草の野辺の桜し 心あらば今年ばかりは墨染めに咲け』


 幽々子は萃香を見据えながら、語りかけるように歌を詠んだ。

 ――萃香はその光景に見入り、呟いた。


「――墨染の桜、素晴らしいじゃない」


萃香の言葉を聞き、幽々子は得意そうに笑った。


「この桜では酒の肴にはならないかしら?」


 萃香はハッと我に帰った。

 そして、突然、大声をあげて笑い始めた。


「はっはっは! あっぱれだよ、人間! 今回はあんたの勝ちでいいさ!」


 萃香はそう言って、鬼の力を解いた。

 元の大きさに戻った萃香は、ひょうたんに入った酒をグイッと煽った。

 そのまま、妖力を使い果たして膝をつく幽々子にゆっくりと近づいた。


「鬼に勝ったあんたには褒美をやらないとね。言われた通り、今後一切、無理矢理には宴会はやらないよ。 ――だけど、今晩だけはこの桜吹雪を肴に飲ませてくれ!」


 そう萃香が叫んだとたん、収束した境界が崩れ、周囲は夕暮れ時の博麗神社の情景へと戻っていた。

 境界が元に戻り、博麗神社から出てきた霊夢が見たものは、力を使い果たし満開の桜の木にもたれかかった幽々子と その肩をバンバンと叩く萃香の姿であった。



 ――――その晩、博麗神社では、狂い咲き、満開になった桜の木の下で盛大な宴会が開かれた。

 しかし、桜の木を満開にした張本人である悠子と幽々子は、慧音にこってりと絞られ、宴会には参加させてもらえなかった。

 こうして、『真夏に何度も開かれる宴会』の異変は幕を閉じていった――



 ◇



 ――――幽々子、あなた、どうしたっていうの?


 宴会に参加せず、スキマの向こう側から彼女らの姿を眺めていた紫はボソッと呟いた。


「あなた、桜を満開にしたときに詠んだ歌といい―― まさか、過去の記憶を思い出してきているの?」


 その紫の呟きに答える者は誰もいなかった――

 幽々子の機転により鬼の四天王の一角・伊吹萃香を満足させることができ、この異変は無事解決されました。狂い咲きの桜を眺めながらの宴会、乙なものですよねきっと。

 次回はとうとうこの物語の核心へと近付いていきます。楽しみにしていてください。

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