第一話「悠子と幽々子」
どうもはじめまして、アグサンと申します。
この物語は前々から書きたいと思っていた、ゆゆ様と剣道少女のお話。ゆゆ様をもっともっと活躍させたい!という思いを込めた作品です。お見苦しいところもあるでしょうが、批評、コメント等ありましたら、よろしくお願いします。
※本作品は東方projectの二次創作です。東方projectには登場しないオリジナルキャラが登場します。
――――願はくは花のもとにて春死なむ その如月の望月の頃
西行法師――
――――やっと見つけた。
淡い青色の服を着た、桃色の髪の少女は、広げた書物を見つめながらつぶやいた。
少女の周囲には古めかしい書物が散乱しており、彼女が書物漁りに熱中していたことを物語っていた。
古い書物には様々なことが記されており、最近の彼女は、『妖怪桜の下に封印された何者か』へと興味を向けていた。
先ほどの歌は『歌が綴られている古い書物』の中から見つけ出したものの一つである。
彼女は直感的に感じ取った。この歌は、『私の今一番成し得たいこと』と関係があると――
彼女は立ち上がり、外出の準備を始めた。
庭を手入れしていた、庭師兼剣術指南役の少女が、主へと声をかけた。
「どちらに行かれるのですか?」
「新しいお茶が手に入ったから、ちょっとお茶会に行ってくるわ」
不思議そうな顔をしている少女を後目に、彼女は妖怪桜の幹に開いた『スキマ』へと姿を消した――
◇
――――てりゃああぁぁぁぁぁ!!!
熱気に満ちた体育館に少女たちの掛け声が響く。
二人の少女は互いに竹刀を構え、牽制し合っていた。
ここまでの試合内容は、片方の少女は仕切りに打ち込んでいるが、もう一方はそれを的確に防ぎ、いなしているというものであった。
制限時間が終わりに差し掛かったころ、防戦一方であった少女が、ひと際大きな掛け声とともに、打って出た。
「せやああぁぁぁぁぁ!!!」
――勝負は一瞬だった。
攻めに転じた少女の一撃が、相手の少女の面を素早く打突した。
打ちこまれた少女は突然の攻めに対応できなかった。
面! 勝負あり! ――審判が少し驚いた顔をした後、打突した少女の勝利を宣言し、試合が終了した――
◆
――――やるわね! さすが大将!
練習試合の帰り道、部活の同期から振られた最初の話題は、さっき終わったばかりの試合のことであった。
「私たちなんかストレート負け。やってられないわ」
「いやいや、あなたたちがいてくれるから、私は剣道ができるのよ」
「後数ヶ月で剣道部も引退かー。さみしいなぁ」
とりとめのない話が続いていく。これが私の日常。
ご察しの通り、私は剣道部に所属している。子供のころから続けているスポーツなので、私は苦ではないが、他の子たちは中学に上がってから始めた子ばかりだった。
私は段位を持っているが、他の子たちは級位しか持っていない。そのようなチームでは団体戦で思うように勝てないことも多かった。
だけど、共に励まし合い、汗を流すこの部活はとっても充実していた。
私の家は学校に近いので、友達とは家の前で別れて、実家の玄関を開けた。
ただいま――。と私がいつも通り声をかけると、台所の方から、母の声が響いてきた。
「おかえりなさい、お姉ちゃん。帰ってきてすぐで悪いんだけど、翔太を迎えにいってくれる」
「こっちは部活から帰ってきたばかりで疲れているのに~」
「そんなこといって。今日はあなたの晩御飯抜きにするからね~」
私の子供っぽい抵抗に、母はこう返してきた。
――そんな文句で煽ろうとするなんて、いつまで子供扱いしてんのよ!
内心で突っ込みを入れつつ、急いで返事をする。
「はいはい。それじゃ、行ってきまーす」
私は荷物を置き、制服のまま弟を迎えに出た。
今日は、私の弟(翔太)のサッカークラブがある日。迎えに行くのが、私の日課のようなものだ。
弟は、私みたいに先祖代々続く『剣道』ではなく、『サッカー』を選んだ。
剣道を選ばなかった理由はまあ ―――私のしごきが原因かな―――?
それはともかく、以前からレギュラーにはなれないけれど、とても楽しそうに練習に臨んでいた。しかし、最近は弱音が多くなってきて姉としては困っているところだ。
弟は、素直で、頭のいい子だけど、優柔不断で、運動音痴だ。
そういえば、今日が次の試合のレギュラーの発表日だったっけ。
これまで頑張ってきたんだから、きっと選ばれているはず!
なんたって、私の弟だし。家に帰ったら、お母さんと一緒においしいもの作ってあげよう。
そんなことを考えつつ、ふと、道中にあるお寺へと視線を移すと、お寺の庭に弟がたたずんでいた。
その庭には、春になると美しい花を咲かせる桜の木が何本も植えられている。
しかし、まだ季節は三月中旬。桜の咲く気配はない。
(――あれ、今日はもうここまで帰って来てたんだ)
そう思い、すぐに声をかけようとしたが、いつもと違う雰囲気に躊躇してしまった。
弟は、お寺で唯一立ち枯れている大きな桜の木を見上げ、ぼーっとしていた。
その桜の前に、にっこりと笑った美しい少女が立って――いや、正しくは『浮いて』いた。
少女は幽霊のような格好をしていて、笑いながら弟を見つめていた。
弟にはこの現実離れした雰囲気の少女が見えているのか。いや、見えていないのだろう。
弟は何もかも達観したような、深く暗い目をして、決して花が咲くことのない桜の木を見つめていた。
私は完全に声をかけるタイミングを失ってしまっていた。
すると突然、少女が弟に笑いかけ、その顔へと少女のもつ扇子の先が向けられた。
しかし、弟は全く気が付かない。
笑みを浮かべた少女が沈黙を破った。
「――願はくは花のもとにて春死なむ その如月の望月の頃――
あなたのその願い、私だけが叶えてあげられるわ」
その言葉を聞いたとたん、昨晩の出来事がフラッシュバックした――
『――姉ちゃん、俺、いらない子なのかな』
『あんた、それ父さんと母さんが聞いたら悲しむって』
『でも……』
『大丈夫、明日はきっと選ばれるって! お姉ちゃんが保証してあげる――』
――私はほとんど反射的に弟に駆け寄り、弟と少女の間に割って入った。
視界には、弟の驚いた顔、少女の満面の笑みが見えた。
次の瞬間、美しく、鮮やかな『墨染の蝶』が視界を覆っていった――
◆
――――どうしてこんなことになっているのよ、幽々子。
霞んだ視界の中で、不思議な帽子をかぶった少女(?)が私に向かって話しかけてきている。
それに対して、私の中から返答があった。
(私は願いを叶えようとしただけよ。純粋な少年の願いを)
「あなたの能力がうまくいかなかったのって、初めてじゃないかしら」
(ふふ、そうかもしれないわね。今までなんて、ほとんど覚えてないけど)
自分で話している感覚は無いのに、私の中から言葉が紡がれている。
体も私のものではないような感覚に襲われる。
金縛り?
猫の死体でも見てかわいそうって思うと金縛りにあう、って聞いたことあるけど。そんなの見てないしなぁ。
よし、とりあえず起きあがらないと。
気合いを入れて……
せいっ! ――という掛け声とともに、私は上体を起こした。
――そこまでは良かったが、顔を覗き込んでいた少女の額に頭をぶつけてしまった。
きゃん! ――というかわいい声が聞えた気がした。
少女は痛みをこらえながら、扇子で顔を隠しているようだ。
すんすん、とすすり泣く声がわずかに聞こえてきた。
少しして落ち着きを取り戻したらしく、扇子で口元を隠しながら、私に声をかけてきた。
「――あらあら、やっとお目覚めなのね。それにしても、随分豪快ね」
「ごめんなさい……」
いくら金縛りを解くためとはいえ、頭突きしてしまったことに対して謝罪した。
落ち着いて周りを見渡すと、見たことのない広い畳の部屋である。
私は布団の上で寝ていたようだ。
そして、枕元に不思議な帽子の少女が一人座っているだけであった。
――現状把握完了。
とりあえず訳が分からないので、その少女に尋ねてみることにした。
「えーと、どなたですか?」
「名乗るほどのものではないわ」
「そうですか」
「急に威勢が無くなったわね。私は痛みを我慢しているのに」
「ごめんなさい……」
「まぁ、いいわ。それに、中に『もう一人』入っているんですもの、元気がなくなるのもわかりますわ」
「へっ? なにをいって――」
(ふふ、こんにちは)
頭の中で少女の声が聞こえてきた。
この声、桜の木で見かけた女の子の声?
そう思ったのは一瞬だった。すぐさま、この奇妙な現象に対する恐怖から驚きの声をあげてしまった。
「はっ!? どういうことなの? 何これ、えっ――」
焦る私に対して、少女は面白いものを見るような顔で再び話しかけてきた。
「そうねぇ、簡単にいえば、あなたに私の友人が憑依してしまった。そして、あなたから離れることができなくなってしまった。理解できたかしら?」
「えっ、説明不足よ!? それじゃ、結果しかわからないわよ!」
驚きと理不尽さで、ついつい荒い言葉遣いになってしまった。
しかも、その結果すら常軌を逸していた。
しかし、少女は私の取り乱した様子を見ても、落ち着きをはらっていた。
そうねぇ―― と言葉を濁しながら説明を始めた。
「あなたは、あなたの中にいる私の友人、幽々子の能力で死に至った。普通でしたら、あなたの魂は幽々子の支配下におかれ、成仏することができなくなる。ただそれだけのはずでした――」
そこで、その少女は小さくため息をついた。
「しかし、あなたの魂は幽々子の支配下に置かれず、逆に幽々子の魂を体に取り込んでしまった。そんな状態で桜の前に倒れていたあなたと幽々子を放置しておくわけにも行かなくて、ここに連れてきた―― というわけですわ」
説明された内容に唖然とした。
仮にいま言ったことが事実だとしよう。まとめると、人を殺せる友人(幽々子さん?)とやらが私を殺そうとしたけど未遂で終わり、その時に私が幽々子さんに憑依され、そして倒れた後にここに運ばれたと――
うーむ、これでも理解力や適応力はある方だと思っていたんだけど。
「――因果どころか、何一つ理解できない……」
新しいドラマの設定か何かか?
そんなことを考え唸る私に、幽々子さんと不思議な帽子の少女は、呑気な声で言った。
(重く考えすぎよー)
「追々、理解していけばよろしいのではなくて?」
そんな二人のいい加減さに、少し呆れてしまった。
「いやいや、時間おいても理解できないですって……」
それに幽々子さんは、一度私を殺そうとしたらしい。
そんな恐ろしい人が体の中にいるなんて……
とりあえず、早くこの中の幽々子さんとやらを追い出してもらわないと。
「この幽々子さんは私の体から追い出せないの?」
そう問いかけた私に、不思議な帽子の少女は扇子を折りたたみ、きっぱりと言った。
「私の『境界を操る能力』でも、あなたと幽々子を引き離すことができない。 ――まぁ、正確には、切り離そうとすると、ともに死滅してしまうみたいね」
「なに物騒なこと言ってるんですか……?!」
そんな私の非難に対し、幽々子さんが賛同した。
(そうよそうよー。紫は私を殺すつもりだったの~?)
「亡霊のあなたが何をいってるの」
幽々子さんに対して、紫さん(?)がツッコミを入れた。
――とりあえず、殺されるのだけはごめんだ。
「他に方法はないの?」
「今のところはないわね。とりあえず、神社にでもお参りに行ったら?」
「まったくアドバイスになってないわ……」
私がため息をつくと同時に目の前に『スキマ』が現れた。
「ちょっ、何これ!?」
私は突然開いたスキマに驚きの声をあげた。
しかし、紫さんはまったく気にした様子もなく、私を見据えた。
「それでは、私はそろそろ寝ますので、後は勝手によろしくお願いしますわ」
そう言い残し、不思議な帽子の少女・紫さんはそのスキマへと姿を消した。
取り残された私は唖然としていた。
「私にどうしろと……」
(まあまあ、紫もああいってるし、とりあえずはここで解決方法が見つかるまで気長に待ちましょう)
「ちょっと待ってよ! 明日は学校もあるし、弟も心配だし――?!」
そこで、私は息をのんだ。
幽々子さんは不思議そうに、どうしたの? ――と声をかけてきた。
私は、高ぶる感情を押し殺し、静かに問いかけた。
「あんた―― 私の弟はどうしたの?」
(さぁ……?)
幽々子さんは『そんなこと知らないわ』という風に答えた。
その無関心な返答を聞き、抑えられない思いが込み上げてきた。
「あんたは桜の木の下で弟に扇子を向けていた……ってことは、私じゃなくて弟を殺そうとしたんでしょ!」
(まあ、そうなるわね)
「――私の大事な家族を!!!」
私は誰もいない部屋で叫び声をあげた。
もし、この子が翔太を殺したというのなら、この体ごと道連れにして――
激昂している私に対し、幽々子の冷静な声が響いた。
(落ち着きなさい)
「落ち着いていられるか!」
(少なくとも死んではいないわ)
「どういうことよ?!」
その言葉を聞き、私は怒りを吐き出すように聞き返した。
幽々子は落ち着いた様子で、冷静な口調で語り始めた。
(まず、私があなたの弟君を死に誘おうとしたのは事実よ)
(くっ!?)
(――だけどね、私に死に誘われたのはあなたの弟君ではなく、あなたよ。だから、こんなことになっているのではないの?)
(……)
(そして、何よりあなたの弟君の魂が私の支配下に置かれていない。私が死に誘った者の魂は、成仏できずに私のもとに来る。ここにあなたの弟君がいないことが何よりの証明よ)
そう彼女は説明をしてきた。
説明を聞いている間に、私は少し落ち着きを取り戻した。
そのオカルトチックな理屈は理解しかねるが、今は彼女の言うことを信じるしかない。
死に誘ったことが事実である以上、完全には許すことはできないが。
とりあえず、精神集中して落ち着かないと、今足掻いても現状は変わらない。
黙想…………
――うん、落ち着いた。
私は静かに、幽々子さんに謝罪をした。
(ごめんなさい、さっきは取り乱して)
(私は細かいことは気にしないですわ。――それじゃ、仲直りに自己紹介でもしましょう)
幽々子さんは本当に気にしてないようで、呑気に自己紹介を始めた。
(改めまして。私の名前は西行寺幽々子、幽々子でいいですわ)
(私の名前、藤見悠子〈ふじみ ゆうこ〉。 私も悠子でいいわ)
頭を下げることはできないが、互いに心の中であいさつを交わした――
――ここから、亡霊少女と剣道少女の幻想郷物語が始まる――
第一話どうだったでしょうか。感想などをいただけたら本当に嬉しいです。
第二話では悠子と妖夢の出会いと幽々子の下した重要な決定が語られています。第二話も続けて投稿しますので、よろしくお願いします。