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呪われている売り場

作者: 桜樹

 天上大では全ての学年に共通するある噂がある。

 曰く『購買の右から六番目のパンには手を出すな。買ってしまったら食うべからず』

「ばかばかしい。科学の時代に呪われるだなんて」

 俺は、雨宮茂はそのときまでそう信じて疑わなかった。

 ついこの間もマンホールに落ちて(自称)悪の組織と殺りあった(誇張ではない)俺としては人生自体が一種の呪いだろうとまで思っていた。

 だが呪いは存在したのだ。

『偶然だ』で済ます事は可能だ。だがコレは偶然なのか?

 回想してみよう。なに、ほんの一時間の事だ。文にすればそこまで長くは無いはず。

 その日の購買はやけに人が多かった。まあうちのクラスが午後一番から調理実習だからしょうがないのだが。

 俺は適当にパンをを見繕うとおばちゃんに金を渡した。

 よくよく思い出すとピーナッツサンドは六番目だった。記憶力には自信がある。

 そしてそのパンを食べてしまった。そう食べてしまったんだ。

 昼休みにいつも通り三人で食事をしている時だった。

「あ」

「お」

「ん?」

 二人が反応してから直後、『ガイーン!』と音がした。俺の頭から。

「――ッツ〜!」

 当然俺の後ろに人の気配は無いし、まして俺の頭は叩いてもそんな音は出ない。

 そして横にはがらんがらんと音を立てる物体が。

「……タライ?」

 そう、タライだ。あの物を洗ったり、コントの終わりで落ちてくるあれだ。

「何でタライが……」

 参考までに俺はコントをしているわけではない。

「御免なさーい。大丈夫ですか?」

 弁明を聞くとタライを使っていたら偶然手が滑ってしまったそうだ。

 まあいい。こんな事はこの学校では日常茶飯事(なのは流石に言いすぎだ。いくらなんでも毎日タライが降って来るわけが無い)なのだからよしとしよう。

 次だ。予鈴が鳴ったから教室に帰るときに次の呪いの効果が降りかかった。

「すまない!ポチが逃げ出した!そこの人!捕まえてくれー!」

 誰かが何かを叫んでいる。

 まあ何が逃げたかしらんが誰か捕まえるだろうと思っていた。

 因みに声は曲がり角から聞こえている。近いな。

「バウバウバウッ!」

 現れたポチ(と、思われる)超巨大な犬(なのかコレ?)は俺に向かって一直線。

「な――!」

 ぐみゅ、と謎の擬音がした。発信源は勿論俺。

 しかし間抜けな音とは違いダメージは内臓が破裂するかもしれないほど重い。

「このやろぉぉ!」

 思わず過術《衝弾》を使ってしまった。

 悪気は無かったんだが(いや、むしろ向こうに非があるハズだ!)目いっぱい怒りを乗せて声を増幅した衝撃波を放ってしまう。

 ポチとやらが失神したのを見て教室に戻る。

「はぁ、はぁ!」

「不運だったな」

 友人である藤沢晶がいう。

「アンタついてないわね〜。購買の右から六番目のパン食べてたりして」

 友人である風見聖が笑いながら言う。

「ああそうだよ」

「へ?」

 聖が固まった。

「ピーナッツサンドが右から六番目のパンだったんだ」

 場が固まった。

「えーと。あくまでも噂だし」

「じゃあ正しかったんだな。因みにこの呪いの続きは分かるか?」

「あ、うん。『呪いは徐々にエスカレートしていき、その日の学校終了まで終わらない』だよ」

 そんな莫迦な。あの犬でさえも凶悪だったのにこれ以上の攻撃が来るのか!

「次なんだっけ?」

 覚えておけよ。

「次は家庭科だな。五・六ぶち抜きで調理実習」

 回想終了。コレで現在の状況とばっちり繋がる。

 家庭科の調理実習。これのせいで俺は呪われた訳(昼食後だからあまり食わないようにとの指示)であり許せないのは当たり前だ(と思いたい)。

 何はともあれ席につきさえすればあんまりな事はおきないだろう。

 呪いはそこまで甘くは無かった。

「それでは今日は鮭を捌いてムニエルにしましょう。包丁はこの様に人に向けては――あら?」

 ただならぬ気配を感じた俺は《剛板》を組み発動。現れたチタン合金の盾の後ろにしゃがみこむ。

 ズダンッ!と音を立てて包丁が机に突き刺さる。

 角度から見て俺の頭を貫く軌道。

「雨宮君御免なさいね。手が滑ってしまったわ」

「あは、あはは」

 いい感じに手首のスナップが利いてましたよ先生。

 何はともあれ魚が各班に配られる――ん?この魚今動かなかったか?

 しかも鮭はこんなに銀色だったか?

 包丁を構えた聖(例によって晶と聖の三人の班)は包丁をいれようとして

「きゃあ!」

 極めて珍しくおおよそ二年ぶりくらいに女の子らしい悲鳴を上げた。

「茂避けて避けて!」

「ん?」

 飛びかかってくる物が視界に見える。

 何かと思ったらそうだ、さっきのピラニアだ。

「待ておいピラニアって!」

 冷静に分析していた自分への突っ込み。

「飢餓状態じゃないピラニアはそこまで危険ではないらしいぞ」

 コイツの目は訴えてますよ。『なんか食いもんをよこせ』と。

 そしてちょっと待て、鮭とピラニアを間違えるな業者よ。

「じゃなくてだな」

 いやいや、取り敢えず考えろ。

 この場で最適な回答を頭は弾き出す。

「今度はこれだぁぁ!」

 過術《消毒》《発火》を組み上げて発動。聖が《旋風》を組んで発動。

 炎に包まれたピラニアはあっという間に焼き魚になった。この間たったの一秒。

「先生、ピラニアです」

「あらあら、ティラピアじゃなくて」

「ピラルクーでも無いな。ティラピアはスズキの類だから大丈夫だ」

 有難う晶の謎知識。コレは正真正銘ピラニアだったから使えないけどな!

 そうこう言っているうちに食事タイムに。

「意外にも美味いなピラニア」

「ほんとにね。よく焼けてるわ」

「ブラジルでは普通に食べるらしいぞ」

 他の班では普通に鮭のムニエルが出来上がっている。

 我が班では調理云々の前に丸焼きにしてしまったのだからしょうがない。

「ご馳走さん」

「はあー。珍しいもの食べたね」

「そうか?一ヶ月に一回は出てくるが」

 何かおかしいが気にしない。

 食事も終わり洗い物もあらかた片付いた俺の班は適当にぐうたら過ごしていた。

 パアンッ!と破裂音。

 予想していた俺は何の迷いも無く《剛板》を出す。

「うわぁ!銃が暴発した!皆伏せてくれ!」

 調理室中がパニックに陥る。

「大体予想はついていたが……誰だよ学校に銃なんか携帯して来たヤツは」

 弾が《剛板》に当たる音がする。

「ホントホント。持ってくるならマガジンは引き抜いとかなきゃ」

「声からして神野だな。銃はキンバーとはまた……」

 どうでもいいが神野は銃マニアだ。

 この前ショットガンを持ってきていて先生に没収されていた。

 その腹いせにライフルで狙撃(異変に気付いた俺達が何とか抑えたから正確には未遂)したヤツである。

 こいつ等は銃刀法とか知ってるだろうに。

 キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴る。つまり授業終了。

 そそくさと調理室を後にした。

「は、いいが」

 いかにもやばいものが前を歩いている。

「よいしょ、よいしょ……」

 歴史の教師だ。身長134cmしかないこの教師には(大変危険な)薬品の収集癖がある。

 その先生がたくさんの薬瓶を持ってふらついているのである。

 本能が告げる危険コール。

「こっちに来るよー」

 あろう事か先生は斜めに歩いてこちらに向かって来るのである。

「このパターンは絶対に落とすな」

 言うがいな薬瓶が飛んできた。

 先生がこけたのである。

「やっぱりこうなるのかよ!」

 やばいくらいに量が多い。ざっと二十くらい。

「レスキューレスキュー!」

 聖が《旋風》を使う。薬瓶が渦巻く風の中に舞っている。

「聖でかした!」

 グッと親指を立てる聖。

「あああ!ばくはつするー」

 発音まで幼い先生が何か言っている。

「ナヌ、爆発?」

 俺は見てしまった。

 ラベルに表記されているのはC3H5(NO3)3とC6H2(CH3)(NO2)。

「ニトログリセリン……!」

「トリニトロトルエンだな」

 二人も見えたのか、などと考えてる場合ではない!

 その瞬間、奇跡的に今まで接触の無かった瓶がぶつかった。

 衝撃でニトログリセリンが爆発。誘爆してトリニトロトルエンも――

「……はぁ、はぁ」

 現在最速で《歪曲》を組み上げた俺はなんか良く分からん次元か何かにそれらを飛ばした。

 爆発していたらいろいろ吹き飛んでいただろう。世界はギャグ漫画のようには出来ていない。

「かんいっぱつですねー。でもでも、国際的なじょーやくに反するような過術を使ってはいけませんよー?先生は怒らなきゃいけないのです」

 確かに《歪曲》は個人使用が国際的に禁じられているが

「ヲイヲイ、アンタガ、ソイツヲ、イイマスカイ?」

 頬をひくひくさせながら俺は言う。

 危険な薬品を持ち歩いて前方不注意だったりしたほうがいけないと思う。

「先生。取り敢えずさっきの薬品の事は校長に言わないであげるから説教とか勘弁して」

 凄い譲歩だと思う。うん、問答無用で《水削》とかぶっ放したら楽しいだろうなーきっと。

「あのあの、先生はいまただならぬ殺気を感じちゃっているのでたいさんしますねー?」

 ええ、俺が理性を抑えているうちにどうぞ。

「おい、次は体育だ。急いで着替えるぞ」

 そう言えばそんなものだったな七限目。

 あっという間に着替えて校庭に。

「今日はバッティングをする」

 野球オタクの体育教師はやる事が無い日にはバッティングをやらせようとする。皆嬉しそうだが。 

 専用のマシーンまで持っているのだがいやな予感がする。

 一人一台独占できると言う多さのなかで普通そうなのを選んだ。

「ようし、始め!」

 カキン!カイン!といい音がし始める。

「俺も始めるか」

 アームがきりきりと音を立てる。ヒュン。

 は?

 贅沢な事にスピードメーターまであるこのボックス。

 球速215km。

「早ッ!」

 バグか?と考えていると二球目。

「うおぉぉ!」

 なんか叫んでばかりだが仕方ない。デットボールゾーンだ。

 次いで三球目。

「くそ!」

 バットを正眼に構える。いや、剣じゃないんだからと思うだろがこっちを狙っている以上こっちの方がやり易い。

 来る球にあわせて振り下ろす。ベギャン!

 考えるよりまず体が動いた。

 バットがへし折れた。しかも折れたのはこちらに飛んできたようだ。

 首に痛みがある。後少し遅かったら頭蓋骨陥没か首の骨骨折か動脈切断どれも死ぬ!

「冗談じゃない」

 折れたバットを捨てて式を組む。

 得意な《湧水》《流操》を併用しての水での攻撃防御。

 四球目。《氷結》を使っての氷のパイプを作って上に逸らす。

 五〜十三球目。先程のパイプを使ってやり過ごす。

 十四球目。パイプが壊れた。

「うお!」

 パイプに当たって軌道が変化した球は顔のすぐ横を通り過ぎていった。

「何で誰も気付かないんだよ!」

 十五〜二十球目。出し続けた水をクッションにして球威を殺す。

「やべぇ死ぬとこだった」

 球数は二十。これで終わりだ。

「どうした?」

 今更異変に気付いた体育教師はやってきた。

「これが壊れて大変だったんですよ」

 スピードメータには球速247km。げ、最初より上がってやがる。

「う、うらやましい。俺もここで打ちたかった……!うおおおお〜!」

 なんか泣き崩れているし。

 よっしゃ最後の授業体育も終わった。これで呪いも解けるはず!

「で、どうしてこうなるかな」

 今現在の時間は十五時三十五分。

 ホームルームまで後五分と言ったところ。

 そして今向き合っている物はゲームのパッケージのような大きさの容器。

 分かる人は分かるだろう爆弾である。

「侮る事なかれ。このくらいの大きさでも校舎を吹き飛ばすくらい軽い軽い」

 言ったら皆逃げてしまった。

「へ〜。なんて名前の爆弾?」

「J2だな。広域破壊型爆弾ジェノサイド二号」

 例外が二人。

「解体したいな〜」

 解体癖のある聖が早速、

「オイ待て。何でもう解体に入ってるんだ……って終わったな」

 J2は沈黙した。

 こうして未曾有の校舎吹っ飛び事件は未遂に終わった。

「どうやって解体したんだこれ」

 某殺人鬼が白い吸血鬼を惨殺したのよりも手際がいい。

「なんとなく、分からない?なんかこう、ばらばらーって」

 感覚を話されてもさっぱりだ。

「何をしている。全員席につけ」

 担任の科学の教師が現れた。

 取り敢えず報告だけすると

「ああ、この教室にあったのか」

 とのこと。知ってるなら回収にきやがれ。

 割と何事もなくホームルームも終了して帰る又は部活の時間つまり放課後になった。

「先生はそう言えばここの卒業生だよね」

 聖が何か先生に言っている。

「ああ、そうだが?」

「『購買の右から六番目のパンには手を出すな』って噂は昔もありました?」

 そんなもの知ってるわけが……

「ああ、昔から割と有名な話だ」

 知ってたよこの先生。

「まあなんだ、事実だからな」

「事実……?」

「実は購買のおばちゃんはあれで五十二歳だ」

『は?』

 三人が固まった。

「昔からあの人は顔が変わらない俺がこの学校に通っている時にすでに三十路を超えてるとか笑顔で言ってたからな」

 どう見ても二十歳代にしか見えない。

「そしてあの噂はあの人が言ったんだ。『私が呪術に失敗しちゃって右から六番目は何か呪われてるから取らないでね。あ、とっても良いけど食べないでね。何か訳の分からない呪いがかかるよ』と」

 呪術って何者だおばちゃん。

「どこぞやの陰陽師の家系らしい。超能力なんか信じちゃいなかったがおばちゃんは本物っぽいぞ。実際に食べた奴は何か訳分からない呪いがかかったし嫌なセクハラするおやじな先生を呪って授業中居眠りさせてたからな」

 いやー楽しかったと科学教師は言う。

「ま、風見が聞きに着たんだ。大方雨宮辺りが食べたんだろ?」

 当たってます先生。

「あははー。そうなんですよ」

「おばちゃんに言えば何かよくわからないお祓いをしてくれるぞ」

 つまりこの呪いは購買のおばちゃんのせいか。

 そうゆう結論に達した俺は購買のおばちゃんのところに行き

「あ」

「ん?」

 呪いは解いてもらうまで続くと言うわけで。

 物理法則やら何やらを捻じ曲げて出現したタライは『ガイーン!』と落ちてきてまたしても俺の後頭部にぶち当たった。

「痛ってーーー!!」

 校舎に俺の叫びがこだまする事になった。

 その後「ゴメンゴメン」とか言いながら本当に訳の分からないお祓い(ハリセンで頭をぶっ叩く)をしてもらい無事、購買の呪いは終わった。

 右から六番目についてはおばちゃん曰く

「無茶苦茶にかけちゃったからこればっかりは解けないのよねぇ。はっはっは」

 とか言っていた。はっはっはじゃねぇ。

 後ほど振ってきたタライを見ると中には土嚢が……俺、よく死ななかったな。

 さてと、無性に腹が空いたから帰るとしますか。明日はなんも無きゃいいが。

短編です。

いつも殺し合いをしているわけではない彼等の青春(?)の一ページとか多分そんな感じ……。

因みにうちの学校ではパンは購買では売って無かったりします。

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