第八話……天才女棋士は現皇帝と邂逅する
「俺だ。門を開けてくれ」
「で、殿下! 承知しました!」
皇子の命令に、門兵達は中の兵と連絡を取り、帝国城正門を開けた。
「あー、やっぱり皇子だったか……」
「センちゃんの名声は轟いてるねぇ!」
先生とクーさんは、怪しい男の正体に対照的な反応を示していた。
「轟いてないんだよねぇ、それが。轟かせてもほしくないし。ちなみに、第五皇子、フィールズ殿下ね」
「殿下、大変失礼いたしました」
「俺も!」
「いや、かまわない。センと二人の力で、俺と父上を是非助けてほしい」
『はっ!』
二人はまるで皇子の部下のように、気合いの入った返事をした。
この二人、今でこそ皇子の頼みに応えてくれることになったが、例えば他の皇子が単独でお願い事をしてきても、簡単には首を振らないタイプだ。
先生は例の受付方法から見て明らかだが、クーさんも第一印象とは異なり、気に入った人や店にしか絶対に協力しないらしい。
ただ、今回の場合は、私と先生が皇子に付いていることから、ありがたいことに絶対的な信頼を寄せてくれている。特に、料理を軽んじる人が関係すると、激怒するそうだが、その場面は、すぐに見ることができるだろう。
馬車は正門を抜けると、城の外周をぐるりと周り、奥にある宮廷門に到着。同じように、皇子と兵とのやり取り後に門を抜け、中に入って行った。
宮廷敷地は想像以上の広さで、その中央奥や左右には、いわゆる『本宮廷』『後宮廷』『侍女館』が別れて存在していた。本宮廷は皇帝、皇后、各皇子が住み、後宮廷は側室の女性達、侍女館はそれら全てに従事する侍女が住む場所だ。
どの建物も高床式の石造平屋で、本宮廷が最も広い建造物、後宮廷は正確にはそれぞれの小さい建物が離れ離れに配置されている住宅地のことを指すらしい。つまり後宮廷は、隣り合った建物同士で、『あの時』の声が聞こえないように配慮されているとのことだ。
私達は、皇子を先頭に本宮廷に入り、中央広間を通って最奥の『皇帝室』に向かった。
時間は午前六時四十五分。朝食までは四十五分あるらしい。
テイクアウト品が入った木箱は、クーさんが運んでくれている。
「父上に謁見を。朝早くから申し訳ないが、別の医師による『セカンドオピニオン』を聞いてほしいと伝えてくれ」
「承知しました。少々お待ちください」
皇子が部屋の前にいた侍女に用件を伝えると、彼女は扉をノックして中に入り、しばらくして戻ってきた。
「それでは、どうぞお入りください。朝食前ですので、皇后様と侍女もいらっしゃいます」
「分かった。失礼します!」
中に入ると、正面に大きなベッドがあり、そこには皇帝が横になっていた。
その周囲には、皇后らしき人と侍女が立っており、こちらに訝しげな視線を向けている。
クーさんが持っていた木箱は、部屋に入ってすぐ左の壁際に置いてもらった。
「父上、このような朝早くに大変申し訳ありません。侍女の伝えにあった通り、医師を連れて参りました。また、この場をお借りして、私が昨日採用した参謀をご紹介します」
「お初にお目にかかり光栄に存じます。センシャル・ストラクツと申します。『セン』とお呼びください」
「セン……か……。分かった。では、頼む。皆、近くに寄ってかまわない」
「危険です! このような得体の知れない者達など!」
皇帝は朝食のために、複数の大きな枕を利用して上半身を起こしている状態なので、こちらの様子を確認しつつ私達を呼んだが、皇后が猛反発をした。
そこで私が、それを無視して一歩前に先を進んで皇帝に近づき、周囲を見渡しながら口を開いた。
「申し訳ありませんが、陛下と殿下一行以外は退出していただけますか? 医師による大事な話がありますので」
「突然何を言うのですか! 私も聞きます!」
「申し訳ありませんが、感情的になる人間には、この話は聞かせられませんので」
「なっ……! 私がいつ感情的になったと言うのですか!」
「……。陛下、ご決断を」
「あなた! なんとか言ってください!」
「……。すまないが、センの言う通りにしてやってくれ。いや……これは命令だ」
「誠にありがとうございます」
「っ……! お、覚えていなさい!」
まるで悪役のようなセリフを吐いて、取り巻きの侍女を連れ、皇后は病室から去って行った。
「セン、お主……やはり似ているな……。私が憧れていた棋士に……」
「っ……⁉️ もしかして、おばあちゃんに……『グランセン』にお会いしたことがあるのですか⁉️」
「名前からも思っていたが、やはりそうか……。ふふふふっ、まさに運命だな」
「……。陛下には、ご快癒後にゆっくりとお話しを賜ることに致しましょうか。さて、今から、陛下がこの状況に陥った真相をお話しします。では、先生。よろしくお願いします」
それから、先生は診断を始め、これまでの経緯を含めた質問を皇帝に投げかけたり、身体の状態を確認したりしていた。
そして、思いの外、すぐにそれは終わった。
「初期症状としては、亜鉛不足による貧血と味覚障害です。間違いありません。陛下は『毒』を召し上がりました。それも毎日三食」
『なっ……!』
皇帝と皇子は、口を大きく開けて驚いた。
「食事は毒を盛られなくとも、毒になるのです。『高齢に伴い、健康を維持するための食事に切り替えましょう』と言って、亜鉛不足に陥りやすい野菜だけの食事に切り替え、『酒は百薬の長です』と言って、アルコールを摂取させ、尿とともに亜鉛を排出させる。
そしていつか倒れる時を待つ。さらに、味覚障害となればそれを利用し、過剰に塩分と糖分を摂らせ、腎臓病や糖尿病を引き起こし、加速させる。まさに、先程お聞きした最近の食事でしたね。実際は、相当量の塩と砂糖が振られているはずです。
これが遅効性の、体を徐々に蝕んで行く『毒食事』の正体です」
「ありがとう、先生。これから運ばれてくる朝食はそのままにしておいてください。私達で確認しましょう。もちろん、犯人は現在の専属医師と調理師。完全にグルです。これが、『皇帝毒食事暗殺未遂事件』の真相です」
「な、なんということを……。父上になんということをしてくれたんだ、アイツらぁぁ!」
「許せねぇ……。人を……料理を……なんだと思ってやがる!」
皇子はこれまでの冷静さから一転、怒りを露わにし、クーさんも普段は明るい性格から一転、拳を握り締めて激怒している。
「二人とも、感情的になってはいけません。外に聞かれてはマズイですよ」
「し、しかし……!」
「ごめん、センちゃん……」
「大丈夫です。今ならまだ間に合います。バランスの取れた食事を毎日とり、この薬を毎回定量服用すれば。こればかりは私と、こちらの帝国一の調理師クーにお任せいただく他ありませんが」
「……。なるほど……これがセカンドオピニオンの重要性なのだな……。そしておそらく、フィールズの参謀センによる提案……。命を救われただけではない。心まで救われた気分になり、感動した……。『あの時』のように……。
では、先生方。よろしくお願いします。わしはまだ死ねんのでな! フィールズとセンの活躍をこの目で見るまでは!」
皇帝はすでにやる気に満ちていた。
「陛下、それではすぐに死んでしまうではないですか。そんな活躍など、一局のほんの一部分だけなのですから。私達の対局は、まだまだ続きます。私達のファンとして、終局まで、是非応援しながらご観戦ください。もちろん、感想戦もお付き合いいただけると幸いです」
「ふふふっ、違いないな……。父上、私はセンと共に、いえ、信頼できる仲間達と共に、近い将来、皇帝の座に就くことを、僭越ながらこの場で宣言いたします。もちろん、父上が心からご納得いただき、生前退位なさることを大前提に」
「もちろん、不健康にもさせませんよ、陛下」
「味覚が蘇り、今まで以上に美味しく感じるレシピも作ります!」
「お主達……実に清々しいな。よし、頼むぞ! わしに全てを見せてくれ!」
『はっ!』
皇帝の言葉に、私達は全員、跪いた。
「面白かった!」「つまらん……」
「続きが気になる!」「次回作に期待!」
と思った方は、以下の「☆☆☆☆☆」から、応援をお願いします!
星一つであっても、皆さんの反応が大変励みになります。
星五つであれば、なおのこと!
ブックマークもよろしくお願いします!
最後に、本話をお読みいただき、ありがとうございました!
Xアカウント @tachizawalude




