第六話……天才女棋士達は医師の昔話を聞く
「さっきの話だが、セン先生が対局を通して相手の人となりを見極められるのは知ってるな?」
「ああ、知っている」
「あくまである程度だよ、ある程度」
馬車では、私の右側に皇子、左側に先生が座り、話をしていた。
「それで一緒に帝国に行くと言っているなら、相手が信用できる人間だということになるし、セン先生がもし相手に負けたとしたら、強制的に、あるいは惚れ込んで帝国に行くことになったのかもしれないと推察できる。負けた場合は、いずれにしても酷い目に遭うかもしれない。だから、あの質問をした」
「なるほどな。もう一つ聞いていいか? あの診療受付方法だが、どういうキッカケがあって、あれをやろうと思ったんだ? 別にアレを否定するつもりはない。ただ、俺の身内は診てもらえるのだろうかと思ってな」
「尤もな質問だな。俺が初めてセン先生と会った時がキッカケだ。あの時、俺は必死に勉強して医者になり、すでに多くの患者を治療していた。しかし、時には救えない命もある。そこで、『お前が殺したんだろ!』と理不尽な罵倒を遺族から受け、失意のどん底に叩き落とされた。『俺のせいじゃない……。いや、俺のせいなのか……? いや、俺のせいだ……』と絶望し、医者としての良心とやる気を失った。
そんな時に、あのボード屋の前を通りかかったら、中からセン先生の明るい声が聞こえてきたんだ。『何事もモチベーションは大事だよ』と。
『何を甘っちょろいことを言ってるんだ。俺がねじ伏せて現実を見せてやる』と思い、店の暖簾をくぐり、自信があった囲碁で対局して、当然のようにボロ負けした。
そこで、『子どもなのにすごいな……』と俺が言ったら、『もし私がすごいとしたら、病気になった私を治せる医者の先生はもっとすごいってことだね!』と屈託のない笑顔で言われたんだ。
そして俺は、その場で号泣した。初めて患者の命を救った時以来に嬉し泣きしたんだ。俺の『心』を救ってくれたことに感謝しながら……。
我ながら単純だと思う。だが、あの時、あの場で、彼女が言うことに意味があったんだと今では思う」
「……そうだな」
「それから少し落ち着いた頃、『でも、罵倒される時もあるんだよ』と改めて言ったら、『最初からそういう人が分かれば良いのにね。対局の時みたいにさ』という言葉が返ってきた。確かにそうだよなと。別に無理して治療することもないよなと勝手に都合の良いように解釈して、自分自身を守るためにあの方法を考えたというわけだ。
言うなれば、『俺は神様でもなんでもねぇ。ただの人間だ。そのたった一人の人間に対して、どうしてそんなに偉そうになれるんだよ。俺を物か何かと勘違いしてるんじゃないのか? 俺の良心を利用するんじゃねぇ!』って話だ。
ちなみに、セン先生には最初から最後まで俺が医者だとは一言も言わなかったんだけどな……。碁石をできるだけ取られたくない、死なせたくないという打ち筋と、俺の腰にぶら下げていた手術器具と液体薬品と粉薬の三つの袋から判断したらしい。二回目は普通に医者の仕事の話をしたが。
そして、今日が三回目。たったそれしか会っていないのに、俺はもうセン先生の大ファンになってるんだ」
「素晴らしい出会いだったんだな。きっと運命に感じたことだろう。俺と同様に」
「……。とりあえず、診察はしよう。どうなっても文句は言うなよ」
「当然だ。感謝する」
「ふふふっ、よしよし。じゃあ、先生。『クーさん』の居場所知ってる? クーさんにも一緒に来てほしいんだよね」
「ああ、知ってるぞ。それこそ、帝都で食べ歩いてる頃だと思う」
「どういう人物なんだ?」
「調理師だよ。今回、『彼』も必要だと思う。それに、働く時期と食べ歩く時期があるって言ってたから、食べ歩く時期なら連れて行きやすいと思ったんだよね。場所は候補が三つあったから特定できなかったけど」
「そこまで絞れるのか……。アイツが必要だってことは……なんとなく見えてきたぞ」
「センには色々な知り合いがいるんだな。ほとんどボード屋の看板娘じゃないか」
「クーさんは、先生の知り合いだったんだけど、先生からボード屋を紹介されて、そこで私と会ったんだよ。そこから定期的にボード屋に来るようになった。将棋好きだね。色々な戦型を試してみたいってタイプ」
「将棋は難しいからなぁ」
「碁の方が難しくないか?」
「上級者でさえ、お互いにみんなそう思ってるみたいだね。頭の使い方が違う、みたいな」
「セン先生からすれば、何も変わらないんだろ? 天才だよなぁ」
「しかも、それを現実に応用するからな」
二人は仲良く、『うんうん』と頷いていた。
それを見て私は嬉しくなり、馬車の揺れに合わせて両足を大きく前後に揺らしていた。
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