第四十九話……天才女棋士は改めて現状を把握する
「おはよう、諸君!」
次の日、これまでに見たことがないほど上機嫌な皇帝が食卓に現れた。
「おはよう、お父様。昨夜は三人でお楽しみだったようで」
「いや、普通に一緒に寝ただけだぞ! 『ソレ』は風呂で済ませたから! しかし、久しぶりに幸せな気分を味わえたな」
「分かってるってー。クーさんの料理で体力つけないとね。とまぁ冗談はさておき、今日からは皇帝への報告がこの拠点にやってくるはずだから、その情報は逐一教えてほしい。どんな些細なことでも。できれば、お母様とシエルさんも聞けるような状況にしてほしいかな。部外者扱いではなく。
一方の私達は、城内のアーリオから非公式の情報を得て、それらを合わせて総合的に戦略を練り直したり組み立てたりする」
「分かった。ちなみに、今週末の『地域戦略定例検討会』には、当然センも参加するのだろう? そこでも有益な情報を得られるぞ」
「案外近いね。例の紛争の結果待ちで延期になる可能性はあるけど……それってもう一人参加できる? 護衛としてバルさんを参加させたいんだよね」
「できなくはないな。ほとんど皇族と参謀の二人ずつしか参加していないが」
「少なくともその場では、身の危険を案ずる必要はないと思うぞ」
皇子の補足に私は首を横に振った。
「これまではね。でも、今週末の定例会では、さらに状況が変わっている可能性が高い。何も起きなくても、何かが外で図られていることもある。用心するに越したことはないよ」
「その場合、この拠点のことは心配しなくていいのか?」
「良い質問だね。でも大丈夫。それこそ、これまで何もなかったから考える必要がない。厳密に言えば、お父様が長時間一人にならなければ大丈夫。今更すぎるから。他の人が狙われることもない。皇位継承戦に関係ないと思われているから」
「そういうものなのか」
「でも、もし誰かが誰かを一人にさせようとしてきた時は絶対に断って。例えば、急患がいると言って先生を誘い出そうとしたり、クーさんに簡単でいいから腕前を見せてほしいと言ってきたり、皇后がお父様やお母様達をヒステリックに連れて行こうとしたりするケース」
「恐ろしいな……」
「断る理由は、『ここに留まるように』という『陛下の命令』、あるいは『医師の判断』だけで事足りると思う。普通に『ここにいたいから』でもいいよ。相手が食い下がってきたら何かを企んでいると見て間違いない。でも、こちらからツッコミはしないこと」
「相手の動向について、あくまで何も知らないように振る舞うのか」
「そういうこと。まだまだ我慢の時期だね。それが果たして通用しているのかについては気にしなくていい。敵の行動を少しでも封じたり、遅らせたりできれば、それでいいんだよ」
「分かった」
「よーし! それじゃあ、朝食にしよう!」
クーさんが調理場に向かうと、昨晩仕込んだ食材を並べる音がすぐに聞こえてきた。
「私はパパとママへの手紙を部屋で書いてくるね。普通の手紙ってどこに出せば配達してくれるの?」
「宮廷からなら侍女に渡すか、城内からなら郵便局がある」
「じゃあ、アーリオに会ったあとに城内郵便局に出すよ」
「先の方が良いんじゃないか?」
「話を聞いたあとに出したい手紙もあるんだよね。その話次第では出さない。近い将来、拠点に来てほしい人宛の手紙」
「なるほど。ボード屋には長らく立ち寄らない者宛ということか」
私は『そういうこと』と言って、部屋に行き、『三通』の手紙を書いた。
それから朝食を食べ、いつものように時間を見計らってアーリオに約束を取り付けた。
「そういう経緯だったのか……。殿下の前で恐縮だけど、あまりにも愚かな最期だったな……」
執務室で、私は『サウエル国未報告事件』の経緯をアーリオに話した。
「あれからどんな噂があった?」
「婚約者がフィールズ殿下に暴言を吐いて怒らせたんじゃないかって噂にはなってた。あとは、今日の朝早くに第一皇子と第三皇女、近衛騎士が城を出発したって話。軍の一部は明朝に出発するらしい」
「父上にはそんな報告は上げられていなかったな」
「この前の報告で概要を伝えたから、定例会で事後報告すればいいって考えかもね。だとしたら、たった三日で終息するわけはないから、定例会は延期だね。やっぱり、アーリオに聞いておいて良かった」
「これは多分だけど、まだ特殊隠密小隊は動いてないと思う。別に俺が危険な橋を渡ったわけじゃなくて、皇子皇女の出発は機密情報だったから。本当に直前まで誰も知らなかった。そのあとを追う馬もなかったのは、俺が窓から確認してた」
「ありがと。仮に隠密が直後に出発していたとしても、すぐに暗殺はしないはず。誤魔化せる演出を準備する必要があるからね」
「俺もそう思う。ただ、現地に着いてからは、その機会さえ来れば、すぐにでも実行に移すんじゃないかな。つまり、最初のチャンスを逃さない。その……今更な質問で大変恐縮ですが、殿下はご兄弟姉妹が暗殺されることについては、どのようなお気持ちなのですか?」
「俺に限らず、覚悟は皆できている。父上ももちろんそうだ。実の子どもが皇位継承戦で殺されたとしても、仕方がないものだと考えている。過去にどれだけ素晴らしい思い出があったとしても。そう言う俺は、まさか皇族同士で隠れた殺し合いになるとは思ってもみなかったが」
「そうですね。もしかすると、みんな内心では殺し合いなんてしたくないと思っているのかもしれません。しかし、それを否定する材料は現状ありません。戦うしかないのです」
「センが一人一人と対局していくのはどうなんだ?」
「それは名案だ! そうすれば、センの能力で本心を推し量れる。流石、アーリオ!」
皇子は嬉しそうにアーリオを褒めたが、私の表情は変わらなかった。
「もちろん、機会があればリアラ皇女やメイル皇子のように、対話や対局によって考えを読むつもりではいます。ただ、その本心や現在の考えではどうにもならないことがあるのです。言い換えるなら、『世の中には取り返しが付かないことがある』ということです」
「確かに……。陛下の暗殺を企てたり、帝国の繁栄を邪魔したり、国民を見殺しにしたり……」
「罪なき商人を陥れたり、か……。センもグランセンも父上も、取り返しが付かないことにはしたくないということで、これまで動いてきたからな」
「つまり、私達は皇位継承戦において、法律で裁くことができない皇族を私刑により裁きながら、殿下を皇帝にのし上げます。しかし、これは決して私情などではなく、帝国の繁栄と安寧のためです。殿下は、全国民、全世界が納得する皇帝にならなければいけませんからね。もちろん、私達の安全のためでもありますが」
「皇族と一般国民とでは、考えというか根本的な思想と思考が違うから、仮に現時点で聖人でも、未来を見据えた責任は生じるってことか」
「そうか……。俺はバカだ……。兄上姉上達のことばかり考えて、国民のことを頭の片隅に追いやってしまっていた……。あくまで、帝国の未来を考えなければいけないのに……」
「それが殿下の良い所でもありますよ」
「そうそう! 普通の皇族は両方とも考えないからね。めっちゃ想像だけど」
「やはり、殿下は異質ですね。反省の気持ちを人前で吐露するなど、貴族以上の階級ではあり得ません。だからこそ、皆を惹き付けるのです。セン殿も含めて」
バルさんの言葉に、みんなは『うんうん』と頷いていた。
「よし! とりあえず今日の情報収集はこんなところかな。ありがとう、アーリオ」
「どういたしまして。今週末も俺は日曜休みだけど、何かあれば休日でも動くぜ」
「頼もしいな。まぁ、何事もなければ、それに越したことはないが……」
それから私達は、アーリオと別れ、城内郵便局で私の手紙を出して、拠点に戻った。
そして、その際の皇子の言葉をあっさり否定するように、次の日曜日、皇帝に一報が届いた。
それは私の読み通り、第一皇子と第三皇女が何者かに暗殺されたという内容だった。
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