第三十八話……天才女棋士は国に責任を取らせる
「結論が出ました。まず私がこちらの第一王子『ローラン』に王位を譲り、政治から退きます。帝国への税は、来月から五年間、現在の二倍お支払いします。
また、かつての被害商人につきましては、王族全員が謝罪の上、補償金を国家予算の五パーセントを上限として支払います。もし現住所をご存知でしたら、ご連絡ください。もちろん、こちらでも調査いたします。
婚約者の代わりとしましては、よろしければ我が国で美女コンテスト等を開催し、その中から複数の女性を選択いただければ幸いと存じます。
最後に、この場で申し上げるのは大変恐縮ですが、皇位継承戦における他の皇族への妨害工作等があれば、我が国の総力を挙げて、ご協力申し上げます。これが我が国の存亡を賭けたフィールズ殿下に対する忠誠心と誠意でございます!」
「被害商人の身元、現住所はこちらで全て把握しています。補償金については、我が帝国に全額支払ってください。そこから被害商人に渡します。謝罪は不要です。すでに殿下が謝罪し、信頼を回復したからです。
したがって、その全額は我が帝国の手数料と殿下の謝罪費用を加え、国家予算の五割にして、十二回払いで月々の税に上乗せしてください。かと言って、それを国民に負担させてはいけません。あなた方の智慧と工夫で乗り切ってください。そのぐらいの蓄えはあるでしょう?」
「っ……! しょ、承知しました……」
「婚約者の代わりは不要です。また、今後一切、サウエル王族およびサウエル国内貴族から婚約者を指名することはありません」
「は、はい……」
「ただ、あなた方の頑張り次第では、一部緩和していいとは考えています。なにしろ、皇位継承戦の妨害工作に正直に言及したのです。相当の覚悟がないと言えません。そこに敬意を表するのは、人間として当然のこと。実際にその協力を依頼するかどうかは別にしても、人員を借りたり、こちらから将来を見据えた包括的な経済支援をしたりするかもしれません。いえ、します。その時は、よろしくお願いします」
「……はっ! ありがたき幸せ!」
「これらのことは当然、他言無用です。他の王族に話してもいけません。対局の結果も秘密です。『ロザリエは殿下に対して不義理を働いた。宰相はそれを庇った。そのツケを帝国に払わなければならなくなった』と言うだけに留めてください」
「承知しました!」
「それでは殿下。殿下がお考えの帝国と領国の理想の関係について、お話しを賜りたいと存じます。私のこれまでの話は、一切考慮不要です」
「分かった。今更言うのもなんだが、俺は正直、このような圧力による上下関係は好ましくないと思っている。協力関係という話が出たが、お互いの理想を共有しているからこそ協力できるのであって、その中でも汚い金や地位の損得勘定などは、できれば排除したいんだ。
支配する側と支配される側、この支配構造は必ず軋轢と歪みを産む。だから、理想をすり合わせる、あるいは信頼してその人に任せる、ような信頼関係が帝国と領国の理想の関係だと俺は思う。もちろん、馴れ合いなどではない。ただ、その関係を構築していくことが、皇位継承戦の過程であり、目的であり、本質なのではないかと改めて思う。
甘い考えであることは分かっている。しかし、現実を見ながらもそこを目指すことこそが、国家元首を目指す者の務めではないだろうか。
センの『敬意を表する』という言葉は、それらを意味しているものだ。
都合が良いと思うかもしれない。だが……よろしく頼む、新生サウエル国! 期待しているぞ!」
これは、皇子と私の『飴と鞭』作戦だ。
「殿下……! 承知しました! 殿下と我々、お互いの理想に近づけるよう、日々精進して参ります!」
「流石、殿下です。まさに皇帝となるべき御仁。これにて、一件落着ですね。
窓を開けて換気しましょう。書類が飛び散らないようにしてください。宰相は立ち上がらずに胡座をかいて動かないでください。今、貧血を抑えるための食事を取りに行っているところです」
それからすぐにクーさんが戻って来て、宰相に食事を食べさせた。食後には先生の薬もある。
また、直後に死体処理班が来て、清掃班も外で待機しているようだ。
そして、その清掃班の中にアーリオがいた。
しかし、私達はお互いに何も言わず、アイコンタクトでその場を済ませた。
今日は何も聞かないと言ったからだ。
私達は窓の外を見て、それぞれ大きく深呼吸し、血生臭さに吐きそうになっていた自分自身を落ち着かせていた。
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