第三十一話……天才女棋士は黒幕に敗北する
二手目の皇女は『5の五』に打った。それは、私の思い通りにはさせませんよという答えだ。
これで、私がその石を抑えつつ、中央の石を活かせば勝ち、活かせなければ負けというシンプルな戦いになる。
碁は効率的に囲いを作って領地を争うゲーム。
中央は広く囲えれば大きいが、そのためには多数の石が必要になる。だから、打った石を活かせなければ、一手パスしたことと同義。高位者同士の対局では、文字通り『死活問題』になる。
その中でも『初手天元』『5の五』はいずれも、石の活用方法については最難関だ。
序盤。私の布石に対しては、皇女は圧力をかけながらの布石となった。
これも皇女の性格を表している。そこから這い出してきたところを刈り取るのだ。実際の事件からもよく分かる。もし、アーリオ家族が第二皇女やその黒幕の第一皇女に対して、より迫っていたとしたら、殺されていただろう。
中盤。所々で戦いが起き、その紛れを装って中央の石に近寄ろうとするも、中々すんなり行かせてくれない。
一部で皇女が隙を見せたような罠を張っているが、そこに無闇に手を出すと、完全に閉ざされる。これも、『第十側室前兵士殺人事件』と同様だ。
それからついに、私が中央の石と連絡し、ある程度の『地』を得るが、その効果は当初の三割に満たないものだった。
この時点で、長期戦になることは必至。焦らず長い時間をかけて、じわじわと真綿で首を絞める様は、『皇帝毒食事暗殺未遂事件』を彷彿とさせる。
各隅や辺では、私が有利に進めている所もあるが、何かキッカケがあれば、牙を剥いてくるので油断はできない。これは、バルさんの盗賊討伐後の各地域のようだ。
もちろん、それは私も想定通りで、逆に仕掛けられる部分はある。
盤面を見ると、中央を活かしきれなかった私の劣勢だ。
そこで終盤に向けて、私はいくつもの罠を張り、勝負手を打つことにした。
しかし、それらも躱され、最後の罠も不発。
各所の地も確定。
そして終局。
五目差で私は負けた……。
「……。あ、ありがとうございました……」
「どうも」
私はそのまま顔を上げられなかった。
「セ、セン……」
「行きましょう……。陛下には私から報告しておきます……」
「そうしてちょうだい。あ、もちろん、嘘はダメだからね。あなたは知らないと思うけど、虚偽報告はその場で処刑だから」
私を気遣ってくれた皇子とみんなの顔は一切見ずに、私はトボトボと部屋の扉に向かった。
「はぁ……つまんな……。時間の無駄だったわ」
「……」
わざと周囲に聞こえる皇女の呟きにも振り返らず、私は皇帝室に向かった。
「セン、気にすることはないぞ!」
「そうだ。セン先生なら、このあと挽回してくれるんだろ?」
「俺はずっとセンちゃんの味方だからな!」
「もちろん、私もです。あの誓いは決して揺るぎません」
「戻ったら一緒に寝て、疲れを取りましょう!」
「ええ。センちゃん、安心してね」
「皆さん、お気遣いありがとうございます……。それよりも……陛下に報告に参りましょう……」
私は未だにみんなの顔を見ずに、皇帝室に向かい、中に入った。
そして、部屋のドアが閉まったことを確認すると、私は背筋を伸ばし、スタスタと皇帝の側まで行った。
「セ、セン……?」
皇子だけでなく、みんなも全員、私の切り替わりに戸惑っているようだ。
「陛下。先程、第一皇女と碁の対局を行い、私が五目差で敗北しました。私が黒だったので、高位者同士の対局では大差の敗北となります」
「そうなのか……。そこまでアンジェナは強かったのか……」
「いえ、雑魚でした」
『はぁ⁉️』
私の発言に全員が同じ声を上げた。
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