第三話……天才女棋士は参謀になることを決意する
「殿下はお一人だということでしたが、婚約者はいらっしゃいますよね? どのような人ですか?」
「ああ、この国の西にある『サウエル国』の第一王女だ。気が強い方だとは思うが、そこまで個性的ではない。まぁ普通かな。特に政治のことについては口出ししないタイプだ」
「私が殿下の側にいたら嫉妬するタイプですか?」
「うーん……なんとなくしそうな感じではある。俺に対しては押しが強いからな」
「では、アーリオの言葉と婚約者の言葉、どちらを信じますか?」
「っ……! そういうことか……。いや、しかし……」
「無理に答えは出さなくてもいいですよ。そういう意識が大事なのです。あのアーリオが『お一人では限界がある』と断定した。周囲に『人』はいても、『味方』がいないかもしれない。それを知っているのと知っていないのとでは大違いです。
それと同様に、陛下の周囲についてはどうですか? 殿下方以外で。例えば、皇后や側室の方々のことです」
「……。少なくとも、俺の母上は非常にお優しい方だ。俺の妹も最高にかわいい。ただ、他の母君はどうか……。正直、何かをしでかしそうな気はする」
「殿下の母君は側室ということでいいですね?」
「ああ。それが何かに影響するのか?」
「はい。つまり、陛下や殿下が亡くなった場合に、喜ぶ人がどれだけいるかを知りたかったのです。先程、嫉妬の話をしましたね。今のところ、母君と妹君以外は全員、あなたを殺そうとする敵だと思ってください。そのお二方も念のために見極める必要があります。例えば、イケメンお兄様の婚約者に妹君が嫉妬し、殿下ごと殺そうとする可能性もあるからです」
「そ、そこまで考えるのか……」
「人を一切信じるなとは言いません。殿下の地位の場合、たとえ血を分けた家族でも無条件で信頼を置くことが危険なのです。私達のような一般人は別ですよ。もちろん、時に騙そうとする人はいるでしょうが、メリットが端金しかないですから。デメリットが大きすぎます。
これは、ボードゲームでも同じことです。盤上でも盤外でも、上級者は損得を考えて打ったり指したりする。殿下も一つ一つの駒の働きを考えてチェスを指しているでしょう? それが複雑に絡み合っているのが帝国宮廷内と考えるべきです。
そして、感情だけで動く者もいることに注意です。それを考慮に入れないと、また一から読み直すハメになりますからね。その点はボードゲーム以上に注意が必要です。制限された空間やルールなど存在しないのですから」
「……。その『ゲーム』の場合、どうすれば終わるんだ? 裏切り者やその候補を全員始末すれば終わりなのか?」
「その通りです。そして、そのための必須条件があります。殿下が皇帝に即位することです」
「なっ……! 俺は第五皇子だぞ? 上の皇女だって四人いるんだ! 計八人を追い越すなど、そんなの無理だろ!」
「では、死ぬしかありませんね。もし私が皇帝に即位したら、過去未来問わず、私に少しでも反抗的になった皇子皇女は全員処刑します」
「それも禁止されている!」
「関係ありませんよ。そんなこと言った人は全員殺すのですから。禁止とか禁忌なんて、どうにでもなるのです。皇帝にさえなれば。罠にハメてもいい。
歴代の皇帝は、偶々それを律儀に守っていただけ。次の皇帝が守るとは限らないでしょう? おそらく、殿下より上の皇族は守らないですよ。『このような悪しき伝統に縛られる必要などない! それを盲信し続けた無能皇族もこの際に捨て、我々は未来を生きて行くのだ!』みたいに言えば、兵士にも帝国民にも十分です。
別に皇子方が死んで困ることはありませんからね。権力は絶大でも、生きている間だけ。名誉は後世によっていくらでも上書きできる。そういう地位なのです、皇族や王族は」
「ほ、本当にそんなことが……」
「人間を侮ってはいけません。智慧と工夫を凝らして生き延びてきた種族なのですから」
「その通りだ……」
やっぱり、素直な人だ。
「……。私は、殿下であれば可能だと思っているからこそ、先程の条件を挙げたのです」
「俺が……? センの力ではなく?」
「はい。次に、殿下が皇帝に即位するための必須条件があります。それは、信頼できる優秀な仲間を集めることです。もちろん、私も協力します。『キング』だけでは初心者にしか勝てませんから。
しかし、私がその候補者をいくら集めても、殿下から仲間に対する信頼の一方通行ではダメです。当たり前のことですが、双方向の信頼関係が構築できなくては、すぐに愛想を尽かされて崩壊してしまいます。権力に従うような人達だけでは、真に優秀な人は集められませんからね」
「差し詰め、センは指し手か……。そのような者達から信頼を得る方法とは、具体的になんなんだ?」
「ここまで言ってなんなのですが、それは私から教えない方が良いでしょう。いつも通りの殿下であれば、自ずと付いてくることです」
「うーん……。まぁ、分かった。センが言うなら、そこはあえて思考放棄しよう」
「それこそが、賢明なご判断だと思います。仲間にするべき人材はたくさんいます。先ほど挙げた医者もそうですが、医者の要望に合わせた薬を調合する薬師、毒殺を未然に防ぐための調理師、敵から直接私達を守ってくれる騎士、外部との交渉を行う外交官、政治経済に明るい実務者、科学技術の発展や殿下の成果に直接寄与できる発明家、加工職人等々。もちろん、情報収集を得意とするアーリオもその内の一人と考えています。さらに遠方からの情報収集を可能とする隠密なども」
「ははっ……。まさに、これから国を興そうとするほどの壮大さを感じるな……」
「正しい認識です。壮大な構想あっての戦略と戦術ですから」
「……。ふぅぅぅぅ……」
皇子は部屋の天井を仰ぎ見て、その後すぐに深呼吸をした。
「よし……。俺も覚悟を決めよう。セン、頼むぞ!」
「承知しました。では、すぐに参りましょう。ただ、ほんの少しだけ時間をください。ボード屋の店主に頼んで、私に対局を申し込んでくる人達に向けて、書き置きを残します」
「分かった!」
不思議だった。
私は、『一度だけ城に行くことにしよう』と考えていたはずだ。
それがいつの間にか、『この人を皇帝にしなければならない』『この人を死なせてはならない』という考えで頭がいっぱいになっていた。
なぜだろうか。
いや……その理由は、今は考えないようにしておこう。
きっとそれが賢明な判断だろうから……。
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